歴史に残る虐殺事件時に隠されたコインか。暖炉下から発見された「凄惨な物語の目撃者」
スコットランド西部のグレンコーで、17世紀のコイン36枚が石造りの暖炉の下に隠されていたのを、グラスゴー大学の考古学専攻の学生が発見した。英ガーディアン紙によると、この学生にとって初めての発掘の成果だという。
コインが見つかった場所は、スコットランド・ハイランド地方の氏族、マクドナルド一族のアラスデア・ルアド・ "マクレーン"・マクドナルドゆかりの地。1646年から1692年に一族を率いていたマクドナルドは、女性や子どもを含む一族37人とともに、スコットランド政府から差し向けられた兵士たちに虐殺された。この事件はグレンコーの虐殺と呼ばれる。
虐殺事件の原因は、1688年に起きたイギリスの名誉革命で即位した非カトリックのメアリー2世とオランダ総督ウィレム3世に対し、マクドナルド一族が忠誠の誓約をしなかったとされたことだ(宿敵の氏族による計略だったとされる)。当時は、ハイランド地方の多くの氏族が名誉革命に反対する立場にあった。
発見された中には、フランス、スペイン領ネーデルラント、ローマ教皇領のコイン、そしてイングランド国王エリザベス1世からチャールズ2世の時代に流通していたものが含まれる。歴史学者によると、コインは虐殺が始まる直前に、狩猟小屋か宴会場にあったと見られる暖炉の下に隠された可能性が高いという。
スコットランド・ナショナル・トラストのウェブサイトによれば、1692年2月13日に起きた虐殺事件の2週間近く前に白旗を掲げた兵士たちがマクドナルド氏族の村に到着し、宿舎を与えられていた。そのため、襲撃を予告された村人がいた可能性もある。専門家は、コインの持ち主は虐殺の前にそれを埋め、のちに取り戻そうとしたのだろうと推測している。
グレンコーで進められているグラスゴー大学の考古学プロジェクトの共同責任者、マイケル・ギブンは、ガーディアン紙にこう語った。
「今回の発見が非常に興味深いのは、これらのコインが1680年代より前のものだいうことです。1692年2月13日の早朝に虐殺が始まったので、あわてて埋められた可能性もあります。襲撃を逃げおおせた人々は吹雪の中を駆け抜け、周囲の渓谷に逃げ込んだとされますが、見つかったコインはこの凄惨な物語を目撃していたのかもしれません。当時の人々の暮らしの一部であったものを手にすることができ、とても名誉に思います」(翻訳:石井佳子)
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