「他のコレクターとの交流が、自分をより良いコレクターへと導く」──マック・リー(Mac Lee)【アート界が注目するアジアの若手コレクター Vol.5】
今年34回目を迎えたUS版ARTnewsの名物企画、「TOP 200 COLLECTORS」リスト。中でも今年の注目は、アジアで台頭著しい若手コレクターの存在だ。その面々を紹介する企画の第5弾は、コレクター同士の交流が自分の糧になると語るマック・リー。
拠点:ソウル
職業:投資家
収集分野:韓国および世界の近現代アート
韓国独自の「単色画」からコレクションを開始
古美術品や仏教関連の遺物、絵画などを収集してきた家系に生まれたマック・リーがアートコレクションに魅せられたのは、ある種自然なことだった。
「何かを収集することには、以前から興味がありました」と語る彼は、現代アートではなく高級ワインからコレクションを開始し、3年前から現代アートもコレクションするようになった。「世界の人々と分かち合えるような、素晴らしいコレクションを構築したい」という思いから、アドバイザリー会社のシュワルツマン&をパートナーに、「(現代アートを)深く掘り下げ、真剣に」収集するようになったという。
そんなリーがまず目を向けたのは、ソウルで活動する韓国人アーティストの作品だ。キャリアの浅いコレクターには珍しく、美術史的な視点を持ってコレクションを始めた彼は、「単色画」と呼ばれる韓国の抽象画に注目。そのときの意図をこう説明する。
「私の望みは、単色画から出発して、その系譜を継ぐ現代アーティストへとコレクションを発展させていくことでした。単色画で好きなのは、その筆遣いや反復の美、禅的なもの、仏教との結びつき、そして作品が放つ独特の感覚や情緒です。私や家族の過去と意味のあるつながりがあるように感じましたし、韓国の国民的アイデンティティとも密接に結びついたものだからです」
他のコレクターからの学びを自らの収集に生かす
リーが初期に購入した作品の1つに、カンバスの余白に黒い色が滲んでいるような絵で知られる単色画の代表的作家、尹亨根(ユン・ヒョングン)の絵画がある。そこから彼は、メアリー・コースをはじめとするライト&スペース(*1)の作家たちや(リーは単色画との関連性を感じている)、ジョー・ブレイナード、マキ・ナ・カムラ、ゼイナブ・サレーといった抽象画家たちへと、収集の対象を広げていった。
*1 1960年代から70年代にかけ、南カリフォルニアを中心にミニマリズムと並行して起こったムーブメント。幾何学的抽象や光と空間を制作材料とした作品が生み出された。
リーのコレクションはその後も進化し、年間20点ほどのペースで増え続けている。彼は、「最初に作品に出合ったときの直感」をもとに、アーティストのことを深くリサーチし、自分のコレクションの中でその作品がうまく位置付けられるかどうかを考える。たとえば、最近購入したローラ・オーウェンズの絵画は、具象と抽象の境界線を超越するような作品について考えるきっかけになったという。
また、新進アーティスト、レイチェル・ジョーンズの2点の絵画は、「単色画や純粋な抽象画から、具象と結びついた抽象へと進み、コレクターとして新たな道を歩むための道筋を示してくれた」という。こうした流れで彼が注目してきたアーティストには、イッシー・ウッド、ロバート・ラウシェンバーグ、アンナ・パーク、セーブル・エリーズ・スミス、シンディ・ジ・ヘ・キムなどがいる。
世界各地のアートフェアに足しげく通うリーは、他のコレクターとの交流が「よりよいコレクターになるための糧になる」と語る。「自分のコレクションに加える価値のあるもの、プラスになるものをどのように見極め、編集するかを学んでいるところです。それは何にも変え難い経験になるでしょう」(翻訳:清水玲奈)
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