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今週末に見たいアートイベントTOP5: ブランクーシ、空山基ら多彩な作家で「アール・デコ」の周辺を検証、水戸部七絵が差別や対立と向き合った新作を発表

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、今週末に開催される展覧会の中でもおすすめの展示をピックアップ。 2023年もあとわずか。アートな年末年始をお楽しみください!

ラウル・デュフィ 《パリ》 1937年 ポーラ美術館

1. 感覚する構造 - 力の流れをデザインする建築構造の世界 -(WHAT MUSEUM)

「せんだいメディアテーク 模型」縮尺1/50 建築家 伊東豊雄 / 構造家 佐々木睦朗

感性が宿る、構造デザインの“哲学”。名建築の模型が一堂に

建築の話題であまり詳しく語られないのが、建築の骨格となる「構造」や、それを思考する「構造家」について。地震力や風力も存在する地球という重力空間において、構造家は計算と実験、経験を積み上げることで力の流れが感覚化され、感性が宿るという。そんな構造デザインという創造行為の哲学と可能性を、古代建築から現代建築、月面構造物まで40点以上の構造模型で提示する。鑑賞者は実際に模型に触れて体感することが可能だ。

展覧会は、導入展示と3つのテーマ展示で構成される。まず導入展示の「力の流れと建築」では、名建築の構造を紹介。白川郷の合掌造り、東京スカイツリーの模型などで、力の流れを感覚的に捉えることを促す。続く「建築家と構造家の協働」では、構造家の佐々木睦朗と建築家の磯崎新による「フィレンツェ新駅(コンペ案)」、佐々木と建築家の伊東豊雄が組んだ「せんだいメディアテーク」の模型などを紹介。次の章「宇宙空間へ」では、佐藤淳らとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発を進める、人間が月に滞在するための月面構造物の1/10模型を初公開する。最後の「素材と構造」では、サステナブルな建材の竹に注目する。

感覚する構造-力の流れをデザインする建築構造の世界 -
会期:9月30日(土)~ 2024年2月25日(日)
会場:WHAT MUSEUM(東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫G号)
時間:11:00 ~ 18:00 (入場は1時間前まで)

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2. モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン(ポーラ美術館)

ラウル・デュフィ 《パリ》 1937年 ポーラ美術館

ラリック、マン・レイ、キリコ、杉浦非水……「アール・デコ」の周辺を多彩な作家で検証

第一次世界大戦後の復興は欧米で工業化を加速させ、1920年代から30年代には機械を新時代の象徴として褒めたたえる「機械時代」(マシン・エイジ)が到来。芸術家やデザイナーも、機械をモチーフにした作品を多く制作した。今展は、パリ現代産業装飾芸術国際博覧会(通称アール・デコ博)が開かれ、幾何学的な装飾スタイル「アール・デコ」様式の流行がピークを迎えた“1925年”を軸に展開。パリを中心に、その前後の年代の欧州や日本における、“機械と人間”との関係を探る。フェルナン・レジェの絵画やブランクーシの彫刻、シュルレアリスムの作家らによる機械への賛美や反発を込めた作品たちは、AI時代が訪れた現代とも重なりをみせる。

展示室に並ぶのは、アール・デコの代表作家であるルネ・ラリックがデザインした香水瓶や、カッサンドルが造形を単純化して描いた豪華客船のポスターなど。近代化に抵抗する芸術運動「ダダ」やシュルレアリスムに注目した章では、ジョルジョ・デ・キリコの絵画やマン・レイのオブジェが展示される。また、多面的なアール・デコの「モダン」な側面に光を当て、アール・デコ様式の影響を受けた大正末期から昭和初期の日本のモダニズムを検証。グラフィックデザイナーの先駆けとなった杉浦非水などを取り上げる。展示作には現代美術も。人体をロボットに取り込んだ空山基の立体作品、ラファエル・ローゼンダールによる、画面の見え方が変化する大型絵画も紹介される。

モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン
会期:12月16日(土)~ 2024年 5月19日(日)
会場:ポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)
時間:9:00 ~ 17:00 (入場は30分前まで)


3. ⽔⼾部七絵「座る⼈ “Sit-in”」(アニエスベー ギャラリー ブティック)

©️Nanae Mitobe

公民権運動とヒップ・ホップカルチャーを根底に、新作を発表

油絵の具を盛るようにキャンバスへ塗り重ね、塑像のような立体感ある肖像画を描いてきた⽔⼾部七絵。人種やジェンダーをめぐる問題、資本主義社会への思いをキャンバスへとぶつけてきた。今展では、初めて本格的に向き合ったという立体作品と、レコードジャケットを支持体に描いた平面作品、インスタレーションを発表する。キャリアを積み重ねてきた作家の、新たな作品群に注目が集まる。

油絵の具の物質感と重量感を伴いながら描かれるのは「座る人」。その胸には、ヒップホップ界のアイコン的存在の名前が記されている。コラージュされたレコードジャケットたちの上には、韻を踏みながら相手を挑発したボクシング界の英雄の姿も描かれる。⽔⼾部の脳裏にあるのは、1960年、飲食店の白人専用席に黒人が座り続けた「シット・イン」と呼ばれる運動だ。この非暴力の抵抗とヒップ・ホップカルチャーを交差させて、自身の表現に昇華させた。日本国内でも、日々生まれる差別や対立。⽔⼾部はそのことにも言及しながら、「この場所から動けないほど、重く重く、⽴ち退けられないほど、重く。 私は、座る⼈を作った」と作品について語っている。

⽔⼾部七絵「座る⼈ “Sit-in”」
会期: 12月16日(土) ~ 2024年 1月21日(日)
会場:アニエスベー ギャラリー ブティック(東京都港区南⻘⼭ 5-7-25 ラ・フルール南⻘⼭ 2F)
時間:12:00 ~ 19:00


4. 特別展「石川直樹:ASCENT OF 14 ー14座へ」(千代田区立日比谷図書文化館)

Nanga Parbat 2022 / Naoki Ishikawa

写真家・石川直樹のライフワーク、「ヒマラヤの山々」にフォーカス

世界各地のあらゆる場所を旅しながら作品を発表する写真家の石川直樹。人類学や民俗学に関心を持ち、各地の伝統的な祭りなどの風俗を記録する一方で、エベレストやK2など、数々の高峰を踏破。近年もヒマラヤの山々に通い、新たな作品を生み出し続けている。

本展のタイトル「14座」とは、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈にまたがる8000m峰、14の山々を指す。2001年にはじめて石川がチベットの地に足を踏み入れて以来、22年間にわたって撮影してきた14の山々の写真を展示するとともに、書籍や新聞記事から、これまで人々がヒマラヤの山にどのような関心を抱いてきたのか、文学的・文化的なアプローチで山や登山の姿を明らかにしていく。

特別展「石川直樹:ASCENT OF 14 ー14座へ」
会期:2023年12月16日(土)~ 2月18日(日)
会場:千代田区立日比谷図書文化館(東京都千代田区日比谷公園1-4 )
時間:10:00 ~ 19:00(金曜は20:00、日・祝は17:00まで、入場は30分前まで)


5. 特別展 ひかりの底(羽田空港第3ターミナル出国エリア)

江里朋子作品

日本の美術工芸品にみる、革新と技芸の深み

世界に注目される日本の美術工芸品の国際的価値をさらに高めようと、染織、陶芸、ガラス、截金(きりかね)、唐紙、漆工の代表作家を一堂に集めた展覧会。11月にTERRADA ART COMPLEX Ⅱ BONDED GALLERYで開かれた同展の第2弾として、今回は羽田空港を舞台に国際線搭乗者に向けて展開する。キュレーションを担当したのは、甘橘山美術館(江之浦測候所内に2025年開館予定)の開館準備室室長を務める橋本麻里。橋本がコンセプトに選んだのは、「底光り」という言葉だ。うわべでなく奥底に光を宿すことを意味し、技芸などが磨かれて深みのあるさまなども指すという。

参加作家は、独自の表現を重ねる6人。帯匠・染織家の山口源兵衛は、京都の老舗「誉田屋源兵衛」の10代目ながら、本物の孔雀の羽といった常識にとらわれない素材の使用や、画家・松井冬子とのコラボレーションなどを行ってきた革新の人だ。陶芸家の橋本知成は、酸化金属を含む釉薬を使って金属質な表情の彫刻的作品を制作する。ほかに、型を使用して白く不透明なガラスの造形物を作る井本真紀、細く切り出した金箔などで繊細な文様を描く截金師の江里朋子、唐紙の新たな表情を引き出す「かみ添」店主・嘉戸浩、螺鈿などによる文様の美を追求する漆工芸の山村慎哉が出展する。

特別展 ひかりの底
会期:12月22日(金)~ 2024年1月9日(火)
会場:羽田空港第3ターミナル出国エリア(東京都大田区羽田空港2-6-5)
時間:7:00 ~ 23:00  

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