ルーブルが世界一を死守~2021年の美術館入館者数ランキング、英紙が発表
新型コロナ下でロシアの美術館が躍進、欧州は軒並み苦戦、それでもルーブルはトップを死守──英紙「アートニュースペーパー」はこのほど、2021年の世界の美術館・博物館の入館者数ランキングを発表した。感染予防策の国ごとの違いが直接影響し、規制が厳しかった欧州と緩かったロシアとではっきり明暗が分かれた形だ。日本の美術館も、トップ100に4館しか入らず、最高位でも17位に終わった。
同紙の美術館の入場者ランキングは、20年ほど前から毎年、3月に発表されている。世界中の美術館・博物館からデータを収集し、独自に調査するもの。21年の結果は22年3月28日に公表された。
それによると、21年はロックダウンの緩和やワクチン接種の普及により、世界の美術館は前年よりも開館日を増やすことができた。年間の来館者は上位100館の総計で約7100万人と、20年の5400万人からは回復した。だが、新型コロナ以前にはほど遠く、19年の2億3000万人に比べると、わずか3割に過ぎない。
入場者数のベスト5美術館は以下=表参照。
- 1位:パリのルーブル美術館(上写真、約282万人、20年比105%)
- 2位:ロシア・サンクトペテルブルクの国立ロシア美術館(下写真、約226万人、同188%)
- 3位:モスクワのマルチメディア美術館(約224万人、同521%)
- 4位:米・ニューヨークのメトロポリタン美術館(約195万人、同184%増)
- 5位:同・ワシントン・ナショナル・ギャラリー(約170万人、同233%)
注目はロシアだ。例年なら国立エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク)1館しか入らないベスト10内に、今回は4館が入った。2位の国立ロシア(20年のランキングは7位)、3位のマルチメディア(同圏外)、6位のエルミタージュ(同11位)、9位のトレチャコフ(同13位)だ。ベスト100内には、さらに4館、28位のモスクワ・国立プーシキン美術館(同33位)、44位のモスクワ・クレムリン美術館(同46位)、67位のサンクトペテルブルク・ファベルジェ博物館(同22位)、71位のモスクワ・ガレージ現代美術館(同81位)が入った。ロシアの新型コロナ規制が、特に西欧諸国に比べて緩かったため、躍進した。例えば、ルーブルの休館日が年間116日だったのに対して、国立ロシアは10日だった。
ロシアと対照的なのが英国で、普段はベスト10に大英博物館(下写真)、テート・モダン、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの3館が入っているが、21年はゼロ。最高位の大英博物館すら11位にとどまった。テート・モダンは16位(20年は3位)、サマセット・ハウス(コートールド美術館)が19位(同24位)、ヴィクトリア&アルバート美術館が24位(同14位)、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが30位(同8位)と、多くは順位を落とした。また、ルーブルに続く2位に2018~20年に付けていた中国国家博物館(北京)は、今回はリスト外になった。中国の公営美術館の21年分のデータの収集・公表が遅れているためという。
また、日本の美術館は、ベスト100以内に以下の4館(いずれも東京都内)だけがランク入りした。
- 17位:東京都美術館 104万9183人(対20年+106%、対19年-63%、20年順位は38位)
- 22位:国立新美術館 88万1733人(対20年+113%、対19年-54%、20年は49位)
- 40位:東京国立博物館 60万5214人(対20年-16%、対19年-77%、20年は23位)
- 99位:東京国立近代美術館 30万7202人(対20年+71%、19年データなし、20年ランク外)
20年に97万1256人の入館者を迎えて世界10位だった金沢21世紀美術館(金沢市)、32位だった国立西洋美術館(60万3114人)、93位だった国立国際美術館(大阪市、27万97人)は、いずれも21年は圏外になった。
<美術館入場者ランキング2021 上位リスト>
2021年に入場者が多かった世界の美術館上位20館と、19、18年にベスト10入りした美術館、ベスト100以内の日本の美術館
※原典はそれぞれ以下。
Visitor Figures 2021: the 100 most popular art museums in the world—but is Covid still taking its toll?(theartnewspaper.com)
Visitor Figures 2020: top 100 art museums revealed as attendance drops by 77% worldwide(theartnewspaper.com)
Art's Most Popular: here are 2018's most visited shows and museums (theartnewspaper.com)
Art’s Most Popular: here are 2019's most visited exhibitions and museums in the world (theartnewspaper.com)
PDFはこちら
21年の閉館日は平均106日、欧州では前年より規制厳しく
アートニュースペーパー紙によると、データ提供に協力した370以上の美術館のうち300館が、新型コロナにより1日以上の閉館を余儀なくされたという。閉館日数は全美術館総計で3万1000日以上に及び、1館なら85年分が失われた計算だ。閉鎖を経験した300館の平均閉館日数は106日と、20年の145日より緩和された。ただ、21年のほうが規制が厳しかった地域もあり、ことに欧州では、オランダで平均150日、英国で139日、ドイツで138日、美術館は閉鎖された。
新型コロナ下でもいくつかの新美術館は21年、開館にこぎ着けた。7月にオープンしたベルリンのフンボルト・フォーラム(上写真、来館者51万5000人で、21年入場者ランキング50位)、ピノー・コレクションによるパリのブルス・ドゥ・コメルス(同50万8689人、同51位)、ジャン・ヌーベルが建築を手がけ7月に開業した上海の浦東美術館(同45万人、同60位)などだ。中でも11月に開館した香港のM+美術館は、わずか2カ月弱で37万1082人の入場者を記録、81位にランクインした。このペースが続けば、22年にはベスト10圏内に入るかもしれない。
ところで、アートニュースペーパー紙は、新型コロナ以前は企画展ごとの1日あたり入場者数ランキングも発表していたが、昨年に続いて今年も見送られた。展覧会ランキングでは例年、日本からは複数の企画展が上位に入り、「美術鑑賞大国」ぶりを示していた。参考までに、19年と18年の展覧会世界ランキングのうち、トップ20に入った日本の企画展を以下の表に示す。比肩するのはニューヨーク、上海、パリ、スペイン・ビルバオ、ブラジル・リオデジャネイロ、米・ワシントンDCといった都市。パンデミック前の東京は、世界有数の「美術の企画展に人が集まる都市」だった。
<1日あたり入場者数で世界トップ20に入った日本での展覧会>
2019年
原典はこちら Art’s Most Popular: here are 2019's most visited exhibitions and museums in the world (theartnewspaper.com)
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2018年
原典はこちら Art's Most Popular: here are 2018's most visited shows and museums (theartnewspaper.com)
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