ARTnewsJAPAN

ありふれた物や素材で錯乱した世界を表現。2023年のターナー賞はジェシー・ダーリングに

世界有数の芸術賞であるイギリスターナー賞。その2023年度の受賞者が、人体の脆さを表現した彫刻で知られるジェシー・ダーリングに決定した。ダーリングには、2万5000ポンド(約470万円)の賞金が贈られる。

ジェシー・ダーリング Photo: Victor Frankowski

現在ベルリンを拠点に活動するイギリス人アーティスト、ジェシー・ダーリングの作品には、日常よく目にする金属のパイプや柵、ハシゴなどが用いられ、細長い脚や曲がった腕を持つ身体を思わせるよう配置されている。こうした彫刻についてダーリングは、いずれ変化したり、崩れ落ちたりするように設計していると言う。

作品には医療器具や廃物もよく使われるが、その多くは、人が自分自身を支えたり、他人同士が支え合ったりするには何が必要かを考えさせるものだ。今回のターナー賞ノミネートの理由となった2022年のモダン・アート・オックスフォードでの個展でも、こうした作品が展示されていた。

ダーリングはかつて、アートメディアのOculaにこう語っている。

「誰にでも、脆さ、弱さはあります。それが私たちを生かしていると言ってもいいでしょう。傷つきやすさそのものが強さだというわけではありませんが、生物としての肉体的な脆さや、愛や紛争、構造的な暴力に苦しめられる傾向、栄養と暖かさを求める動物的な欲求は、私たちが共通して持っているものです」

一方、ターナー賞の受賞理由はこう発表されている。

「コンクリートや溶接されたフェンス、立ち入り禁止を示すテープや事務用ファイル、レースのカーテンなど、ありふれた物や素材を使って、身近でありながら錯乱した世界を表現したことが審査員から高く評価された。社会の崩壊を思わせる彼の作品は、労働や階級、イギリスらしさ、権力といった観念に揺さぶりをかけるものだ」

今回で40回目を迎えるターナー賞の過去の受賞者には、アニッシュ・カプーアヴォルフガング・ティルマンス、レイチェル・ホワイトリード、ルバイナ・ヒミッドなどがいる。また、ダーリングのほかに今年ノミネートされていたのは、ジスレーヌ・レオン、ローリー・ピルグリム、バーバラ・ウォーカー。(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

あわせて読みたい