第60回ヴェネチア・ビエンナーレは331組が参加! テーマごとの展示内容も明らかに

世界で最も重要な美術展とされるヴェネチア・ビエンナーレ。この度、4月20日から11月24日まで開催されるその2024年版の参加アーティストリストが公開された。前回(2022年)の参加者213人を大きく上回る、331組がヴェネチアに大集結することとなる。

第60回ヴェネチア・ビエンナーレのビジュアル。テーマの「Stranieri Ovunque」は「外国人はどこにでもいる」の意味。Photo: Courtesy Venice Biennale

世界で最も重要な美術展とされるヴェネチア・ビエンナーレが、420日から1124日まで開催される。これに先立って、この度、2024年版の参加アーティストリストが公開された。前回(2022年)の参加者213人を大きく上回る、331組がヴェネチアに大集結することとなる。

今回発表された参加者リストには、例年通り、新進、中堅、ベテランの現役アーティストがバランスよく名を連ねる一方で、エテル・アドナン、タルシラ・ド・アマラル、カルメン・エレーラ、マリア・イスキエルド、フリーダ・カーロやディエゴ・リベラ、ホアキン・トレス・ガルシア、大竹富枝といった世界的知名度を誇る物故作家たちの作品も紹介される。

Kay WalkingStick, South Rim, 2016. PHOTO JSP ART PHOTOGRAPHY/© KAY WALKINGSTICK/COURTESY THE ARTIST AND HALES, LONDON AND NEW YORK

2024年のヴェネチア・ビエンナーレの総合ディレクターを務めるブラジルサンパウロ美術館(MASP)の芸術監督アドリアーノ・ペドロサは、昨年6月に行われた記者会見でビエンナーレのテーマを「Stranieri Ovunque(Foreigners Everywhere=外国人はどこにでもいる)」と発表。これは、パレルモを拠点とするフランスのアーティスト・コレクティブ、クレール・フォンテーヌのネオン管を用いた作品シリーズのタイトルにちなんだものだ。

記者会見でペドロサは、クレール・フォンテーヌの作品は「国、国家、領土、国境を越えた人々の移動と存在に関する様々な危機が蔓延する世界」を反映しており、「人種やアイデンティティ、国籍、ジェンダー、セクシュアリティ、自由、そして貧富による違いや格差を表現するときの、言語や解釈、国籍の危うさと落とし穴を反映している」と説明した。

ペドロサはまた、今回のテーマ「外国人はどこにでもいる」という表現は様々に解釈できると語った。

「まず今の世界において、外国人に遭遇しない、などということはあり得ないということです。彼ら、つまり我々は、どこにでもいるのです。第二に、われわれ自身、地球上のどこにいようと常に外国人であるということです。しかしその一方で、この表現をモットー、スローガン、行動への呼びかけ、興奮、喜び、恐怖の叫びと捉えることもできるでしょう」

ペドロサによれば、ヴェネチアには毎日、観光客、つまり外国人が訪れており、地元の人口が5万人ほどであるのに対し、1日あたり16万5000人以上の観光客がこの街を訪れているいう。

Claire Fontaine, Foreigners Everywhere – Spanish, 2007, installation view “The Traveling Show,” curated by Adriano Pedrosa, La Colección Jumex, Mexico. PHOTO STUDIO CLAIRE FONTAINE / © STUDIO CLAIRE FONTAINE / COURTESY CLAIRE FONTAINE AND MENNOUR, PARIS

前回の2022年版では新作だけでなく歴史的作品に特化したセクションが設けられたが、今回もそれを引き継ぎ、新作を扱う「ヌクレオ・コンテンポラネオ(Nucleo Contemporaneo)」と、旧作を紹介する「ヌクレオ・ストリコ(Nucleo Storico)」の二つのセクションが展開される。

ペドロサは、「ヌクレオ・コンテンポラネオ」では外国人」の定義の拡大を目指すという。

「つまりそこには、異なるセクシュアリティやジェンダーの間を行き来し、しばしば迫害されたり非合法化されたりするクィア・アーティストも含まれます。また、美術界の周縁に追いやられがちなアウトサイダー・アーティストや独学のアーティスト、フォーク・アーティストもそうです。さらには、自分の土地でありながら外国人として扱われることの多い先住民のアーティストたちも、『外国人』であると言えるでしょう」

Ṣàngódáre Gbádégẹsin Àjàlá, Untitled, n.d. © MARTIN BILINOVAC / SUSANNE WENGER FOUNDATION

「ヌクレオ・コンテンポラネオ」の中で初参加となるのは、ブラジルのコレクティブ、MAHKU—Movimento dos Artistas Huni Kuin、アオテアロア(ニュージーランド)のコレクティブ、Mataaho、Erica Rutherford(エリカ・ラザフォード)、Isaac Chong Wai(アイザック・チョンワイ)、Elyla(エリラ)、Violeta Quispe(ヴィオレタ・キスペ)、Louis Fratino(ルイス・フラティーノ)、Dean Sameshima(ディーン・サメシマ)、Evelyn Taocheng Wang(エブリン・タオチェン・ワン)、そして、3人の女性アウトサイダーアーティスト、Madge Gill(マッジ・ギル)、Anna Zemánková(アンナ・ゼマーンコヴァー)、Aloïse Corbaz(アロイーズ・コルバズ)だ。

さらに「ヌクレオ・コンテンポラネオ」では、2005年にミラノ在住のキュレーター、マルコ・スコティーニが設立した「Disobedience Archive」プロジェクトのセクションも設けられるという。ここでは「ディアスポラ・アクティヴィズム」と「ジェンダーの不服従」という二つのテーマを扱い、1975年から2023年の間に制作された、39組のアーティストとコレクティブによる作品が展示される。

Bona Pieyre de Mandiargues, Toro Nuziale, 1958. FRANK SHOUTER

一方、「ヌクレオ・ストリコ」は、モダニズムの歴史をヨーロッパや北米以外のグローバルサウスにも広げようとする試みだ。

このセクションは、「肖像画とリプレゼンテーション」「抽象」「グローバル・サウスにおけるイタリアのディアスポラ」の3部門で構成され、ラテンアメリカ、アフリカ、中東、アジアを中心とする「グローバル・サウス」のアーティスト112名による、1905年から1990年の間に制作された作品が一堂に会する。そこには、かつて開発途上国に数えられたシンガポールや韓国のアーティスト、また、ニュージーランドのマオリ族のアーティストも含まれる。

「肖像画とリプレゼンテーション」部門には、Selwyn Wilson(セルウィン・ウィルソン)、Cícero Dias(シセロ・ディアス)、Yédemaria(イェデマリア)、Laura Rodig(ラウラ・ロディグ)、Rómulo Rozo(ロムロ・ロゾ)、Grace Salome Abra Kwami(グレース・サロメ・アブラ・クワミ)、Lee Qoede(リー・クオエデ)、Gerard Sekoto(ジェラール・セコト)、そして2015年のオクウィ・エンヴェゾール版ヴェネチア・ビエンナーレにも出品したInji Efflatoun(インジ・エフラトゥン)らが名を連ねている。

一方、「抽象」部門には、Samia Halaby(サミア・ハラビー)、Eduardo Terrazas(エドゥアルド・テラサス)、Sandy Adsett(サンディ・アセット)、Fanny Sanín(ファニー・サニン)らが含まれるほか、2021年11月に亡くなったEtel Adnan(エテル・アドナン)も初参加となる。また、最近イギリスのテート・セント・アイヴスでもその功績が紹介されたモロッコのカサブランカ美術学校(1960年代から70年代まで運営)のアーティスト数名も紹介される。

Mohamed Chabâa, Composition, 1974. PHOTO MARIA AND MANSOUR DIB / COURTESY RAMZI AND SAEDA DALLOUL ART FOUNDATION

「イタリアのディアスポラ」部門で発表するアーティストは、Lidy Prati(リディ・プラティ)、Bona Pieyre de Mandiargues(ボナ・ピエール・ド・マンディアルグ)、Nenne Sanguineti Poggi(ネンネ・サンギネティ・ポッジ)など。彼らの作品は、ペドロサが芸術監督を務めるMASPの常設展示室でもお馴染みの、ブラジルで活躍したイタリア出身のモダニスト建築家、リナ・ボ・バルディ様式のガラス製イーゼル・ディスプレイに展示される予定だ。なお、ボ・バルディも参加者として名を連ねている。

ペドロサはこのセクションを、モダニズムの境界と定義を問う「エッセイや草稿、キュレーターとしての思索」と捉えているという。

「ヨーロッパとアメリカにおけるモダニズムの歴史は広く認知されていますが、グローバル・サウスにおけるモダニズムはほとんど知られていません。これらに関する知識を有するのは、せいぜい当該国や地域の専門家だけ。しかし、欧米とグローバルサウスをつなげて展示することで、明らかになる何かがあるはずです。これらの世界の間に横たわる現代的な関連性についてもっと学ぶことは、私たちの喫緊の課題です」

Louis Fratino, Metropolitan, 2019. © LOUIS FRATINO / COURTESY OF SIKKEMA JENKINS & CO., NEW YORK

ペドロサがいうように、今回のヴェネチア・ビエンナーレはこれまで以上に「パーソナル」かもしれない。

「今回のテーマやコンセプト、モチーフ、フレームワークの多くは、私という個人にも深く関わるものです。私は海外在住経験があり、幸運にも生きている間に様々な国や地域を旅する機会に恵まれました。私は難民になったこともありませんし、南半球で最高位のパスポートを持っています。にもかかわらず、これまで何度も『第三世界の外国人』としての扱いを経験してきました」

* 2024年ヴェネチア・ビエンナーレ参加アーティスト&コレクティブの全リストはこちら

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