チームラボ、没入型アートの著作権侵害で米国企業を提訴。両者の主張は?
没入型のアート体験を提供するチームラボが、米国のMuseum of Dream Space(ミュージアム・オブ・ドリームス、以下MODS)を著作権侵害で訴えている。チームラボは2019年に最初の訴状を提出、22年4月25日にはMODSの答弁書が公表された。
没入型展覧会はフィンセント・ファン・ゴッホ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、エゴン・シーレ、グスタフ・クリムトなどの作品を使用したものが世界中で開催され、大きな収益を上げている。
チームラボは、こうした巨匠の絵画とは異なる内容の、カラフルかつ穏やかな没入型アートで大成功を収めている。2018年に東京・お台場にデジタルアートミュージアムをオープン(森ビルとの共同事業)したほか、ペース・ギャラリーやディズニーなど、美術関連施設や企業向けの制作も行っている。お台場のミュージアム開設1年目に動員した観客は200万人以上だ。
19年のチームラボの訴状では、MODSの《Season Dream(シーズン・ドリーム)》と《Galaxy Dream(ギャラクシー・ドリーム)》はそれぞれ、チームラボがロンドンのペース・ギャラリーで発表した《Universe of Water Particles, Transcending Boundaries(憑依する滝、境界を超える)》(2017)と《Crystal Universe(クリスタル・ユニバース)」(2015)を複製したものだとされている(MODSの創立は2018年)。また、チームラボの展覧会の写真を、MODSがプロモーションのためにソーシャルメディアで使用していることも訴状に含まれている。
MODSの展覧会とプロモーションへの写真使用の取り下げのほか、チームラボは機会損失に対する賠償も要求している。MODSの影響でどれだけの来場者がチームラボの展覧会を訪れなかったか判断するのは困難だが、ライセンス料の損失だけでもかなりの額になる可能性がある。
訴状には、「作品の展示に関してチームラボは、通常6カ月のライセンス期間で100万ドルから数百万ドルを受け取っている」と書かれている。つまり、MODSは少なくとも数百万ドルのライセンス料を支払わねばならないかもしれないというわけだ。
22年4月初めにMODSは答弁書を提出。その中で、同社の代理人はいくつかの反論を行っている。その1つは、チームラボが米国で著作権登録をしていないことから、告訴はできないとの主張だ。ただ、日本、米国ともに万国著作権条約に加盟しているので、チームラボが米国で著作権登録をしなければ著作権が有効にならないということにはならないだろう。
「チームラボの主張は、著作権侵害に何が含まれているかの明確で完全な証拠に欠けている」と、MODSは答弁書の中で主張している。「チームラボが複製されたと訴えている作品の要素は、チームラボのオリジナルではないか、保護対象ではない。また、これらの定義は漠然としており、過去ほかの作家のインスタレーション作品に見られるアイデアや素材でもある」
一方、チームラボは訴状の中で、MODSの展示は「全体的なコンセプトや印象が実質的に類似している」と主張している。
MODSはまた、色が変化するLEDを吊り下げて使用することについては、草間彌生など「多くのアーティストが用いているアート表現のメディウム」だとしている。
両者は今月初めに略式判決を申し立てており、6月には審問が予定されている。裁判所が判決を言い渡さず、MODSとチームラボが和解に至らない場合は、8月に裁判が開始される。
訴訟が裁判にまで進めば、裁判所の判断はアート界に重要な影響を及ぼすことになりそうだ。チームラボの訴状とMODSの答弁書の内容は、没入型インスタレーションに関して何が著作権で保護されるのかを問うものになる。(翻訳:平林まき)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年4月28日に掲載されました。元記事はこちら。
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