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直接的差別にあたる──「男子禁制」アート展示をめぐる注目裁判の判決に、美術館側は「深く失望」

オーストラリア・タスマニア州の私設美術館、ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー(以下、Mona)が設置した男子禁制のインスタレーションは法律違反だとする訴訟が起こされた件で、タスマニアの裁判所は4月9日、Monaに女性以外の観客の入場を許可するよう命じた。

ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー美術館(Mona)への標識。Photo: Getty Images

問題となったのは、アーティスト、キュレーターのカーシャ・ケイシェルが2020年からMonaで展開している《レディース・ラウンジ》というインスタレーション。緑色のドレープがかかった大きな立方体で、中に入ると壁には分厚いシルクのカーテンがかけられ、市松模様の大理石の床には男根の形をしたベルベットのソファが置かれている。天井には流れ落ちるようなシャンデリアが吊るされ、壁に飾られたピカソやシドニー・ノーランなどの美術品から家具に至るまで、全てに華麗なゴールドがアクセントを添えている。

女性は男性バトラーに案内されてシャンパンを勧められるが、男性は入ることができない。この作品は、オーストラリアの古いパブのコンセプトを逆手に取ったものだ。同国では1960年代半ばまで、女性がパブで飲酒することが禁止されていた。そのため、店側は女性を入店拒否するか、隠し部屋のような場所に案内し、法外な料金を取っていたという。

このインスタレーションには、ジェンダー・ギャップと偽善を浮き彫りにする意図があるが、2023年4月に同館を訪れたニューサウスウェールズ州に住む男性、ジェイソン・ラウは、入場料として35豪ドル(当時の為替レートで約3150円)を支払ったにもかかわらず《レディース・ラウンジ》を見られなかったのは州の反差別法に違反するとして、Monaを提訴した。

それに対してケイシェルは、ガーディアン・オーストラリア紙に、裁判を起されたことは喜ばしいと明かし、「男性たちはまさにレディース・ラウンジを体験しており、彼らの拒絶の体験が作品なのです」と語った。Monaの代理人であるキャサリン・スコット弁護士もまた、「所定の属性により不利な立場にある、または特別なニーズを持つ人々に対する機会均等を促進するため」であれば、州法は差別を設けることを認めていると弁論した。

しかし、タスマニア州民事行政裁判所のリチャード・グルーバー副総裁は違った見方をした。ガーディアン・オーストラリア紙によると、彼は《レディース・ラウンジ》に展示された美術館の所蔵作品を男性が見ることを禁じるのは「直接的差別」だとした。

4月9日の判決でグルーバーは、作品が機会均等を促進するというMonaが提出した証拠は「矛盾している」と述べ、「ラウの主な訴えである、《レディース・ラウンジ》のスペース内で男性が美術品に触れることを妨げることが、女性アーティストの作品展示の機会をどのように促進するのかは明らかではない」として、こう付け加えた。

「《レディース・ラウンジ》がラウを差別するのではなく、ラウを不快にさせ、辱め、脅迫し、侮辱し、嘲笑し、あるいは彼に対する憎悪、深刻な侮蔑、深刻な嘲笑を扇動したのであれば、Monaは善意の芸術的目的に基づく正当な抗弁ができるかもしれない。しかし、法律は善意の芸術的目的それ自体による差別を認めているわけではないのです」

グルーバーはまた、3月に行われた法廷審問におけるケイシェルと25人の女性サポーターの言動についても言及した。ネイビーのスーツに身を包んだケイシェルの一行は、審理中に同時に足を組んだり、前傾姿勢になったり、メガネの上から覗き込んだりといったパフォーマンスを披露。審理が終わると、一行はロバート・パーマーの曲「Simply Irresistible」に合わせて退場した。グルーバーによると、このパフォーマンスは審理を妨害するものではなかったが、「不適切で、無礼で、無作法であり、最悪の場合、侮辱的で軽蔑的であった」という。

《レディース・ラウンジ》に女性以外の観客の入場を許可するよう命じられた美術館側は、28日以内に今後の対応を決めなければならない。Monaの広報担当者は、この結果に「深く失望」しており、《レディース・ラウンジ》の今後について決断を下す前に、「結果を吸収する」時間が必要だと述べた。

しかし、この判決で事態が収拾されるとも言えない。というのも、ケイシェルは最高裁判所に提訴する意向を示しており、Monaは判決に先立ち、男性の入場を認めるくらいなら、この展示を閉鎖する方がましだと話しているからだ。(翻訳:編集部)

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