ローマ教皇がヴェネチア・ビエンナーレを初訪問。「世界はアーティストを必要としている」
ローマ教皇フランシスコが第60回ヴェネチア・ビエンナーレのバチカン館を視察した。129年の歴史の中で同芸術祭を訪れた教皇は、フランシスコが初めて。
87歳となるローマ教皇フランシスコは4月28日、バチカン館があるジュデッカ島にヘリコプターで降り立った。そしてヴェネチア・ビエンナーレのピエトランジェロ・ブッタフオコ会長と、同ビエンナーレの総合ディレクター、アドリアーノ・ペドロサと面会し、バチカン館を訪れた。
バチカン館は、現役の女子刑務所を会場として使用している。キアラ・パリシとブルーノ・ラシーヌがキュレーションしたこのパビリオンのタイトルは「Con i miei occhi(イタリア語で「私の目で」という意味)」。マウリツィオ・カテランが壁一面に人間の足の裏を描いた入り口から中に入ると、館内には受刑者によるイタリア語の詩がペイントされた石板を並べたシモーネ・ファタルの作品や、刑務所内で撮影され受刑者が出演した、イタリア人監督マルコ・ペレーゴと彼の妻で映画『アバター』の主演俳優ゾーイ・サルダーニャによる短編映画のほか、受刑者の子ども時代や、彼女たちの愛する子どもたちの肖像を描いたクレール・タブーレの絵画などが展示されている。
教皇は刑務所の中庭に集まった約80人の受刑者一人ひとりに挨拶し、皆にこう伝えた。
「逆説的ですが、刑務所での生活は、あなた方が参加するバチカン館に象徴されるように、何か新しいことの始まりを意味します。私たちは皆、赦されるべき過ちと癒すべき傷を負っていることを忘れてはなりません」
その後、刑務所の礼拝堂で、教皇はビエンナーレとバチカン館に参加するアーティストたちに会い、彼らの作品が人種差別や外国人嫌悪、生態系の「不均衡」、貧困層への恐怖、不平等への取り組みに役立つことを伝え、「世界はアーティストを必要としている」と強調した。
教皇はその中で、バチカン館の出品作家の1人であるコリータ・ケント(1918-1986)について言及した。ロサンゼルスのカトリックの修道女で活動家だったケントは、人種的不公正に対する認識を高め、公民権を擁護するカラフルなスクリーンプリントを制作し、当時のロサンゼルス大司教であったジェームズ・マッキンタイア枢機卿と衝突した。教皇は、彼女をフリーダ・カーロやルイーズ・ブルジョワと並んで、「私たちに何か重要なことを教えてくれる」女性アーティストであると称えた。
ここ数カ月、教皇の体調に心配の声が上がっていたが、わずか5時間の滞在の中でモーターボート、オープンエアのゴルフバギー、車椅子を駆使してヴェネチア中を巡り、バチカン館の訪問のほか、若者たちとの会合やサン・マルコ広場での野外ミサ、バシリカ内の聖マルコの聖遺物の前での祈りなど、精力的にスケジュールをこなした。
教皇の訪問は、ヴェネチアがオーバーツーリズム(観光公害)抑制のため日帰り観光客に入場料の徴収を開始した数日後の事だった。サンマルコ広場に集まった約1万人を前に、教皇はヴェネチアが気候変動によっていかに危機にさらされているかを語り、こう続けた。
「ヴェネチアは水と一体であり、この自然環境をケアし守らなければ、消滅してしまう可能性すらあるのです」
バチカンは2013年にヴェネチア・ビエンナーレに初参加したが、刑務所を会場にしたのは今回が初めてだ。これは著名な詩人であるポルトガル教皇のジョゼ・トレンティーノ・デ・メンドンサ枢機卿が率いるバチカンの文化庁の依頼によるもので、枢機卿は、このパビリオンは訪問者を「現実に直接」巻き込む試みだと説明している。