ナチス略奪品のモネの絵画が大西洋を越えアメリカへ。FBIにより所有者の孫へ返還される
ナチスによって略奪されたのちに、フランスやアメリカを転々としていたクロード・モネのパステル画《Bord de Mer》が、FBIの捜査によって当初の所有者であったオーストリア人一家の遺族の元へ返還されることとなった。
第二次世界大戦時にナチスドイツによって略奪されたクロード・モネのパステル画《Bord de Mer》が、連邦捜査局(FBI)によって本来の所有者の親族に返還されると、ルイジアナ州のローカル紙タイムズ=ピカユーンが4月末に報じた。
この作品は、ニューオーリンズに拠点を置く古物商、M・S・ラウが2019年にブリジット・ヴィータと、3月に亡くなった彼女の夫ケビン・シュランプに2019年に売却したのちにFBIが2023年6月に押収し、現在はニューオーリンズ支部局に保管されている。今回の押収と返還は、FBIが実施した作品の出所調査によって実現した。
《Bord de Mer》は当初、1936年4月にアダルベルト・パーラギとヒルダ・パーラギが入手し、ウィーンの自宅で保管していたもの。1938年3月にドイツがオーストリアを併合して間もなく、二人は子どもを連れてスイスとロンドンに逃れることを余儀なくされたという。
一家は絵画を含む所持品をウィーンにある運送会社の倉庫に保管しており、終戦後に回収しようと計画していたところ、1940年にナチスに全て奪われてしまう。その翌年、《Bord de Mer》はオークションハウスのドロテウムによって競売にかけられ、最終的にはナチス党員で略奪美術品の密売人として知られるアドルフ・ヴァインミュラーが運営するオークションハウスに売却された。
終戦後、遺族と相続人はドイツ政府とオーストリア政府に作品の返還を訴えたが、要求が通ることはなかった。2016年にはパリを拠点とするギャルリー・へレーヌ・バイリーから貸し出される形でフランスのオルナンで開催された展覧会に出品された。そして、4月下旬にルイジアナ州東部地区連邦裁判所に連邦政府が提出した訴状には、古物商のラウが2017年にギャルリー・へレーヌ・バイリーから《Bord de Mer》を購入したと記されている。
裁判文書には、FBIが作品を押収した際にヴィータとシュランプは絵画の所有権を放棄したと記されており、連邦政府は、作品の所有者を決定するよう裁判所に求めていた。
フランソワーズ・パーラギとヘレン・ロウは、パーラギ夫妻の孫であり唯一の相続人だ。
裁判所による判決は下っていないが、この訴訟は争うことなく決着が付くだろうとラウは推測しており、次のようにタイムズ=ピカユーンに語っている。
「作品の売買に関わった人たちが知らなかったこの作品の出所を考慮し、関係者全員がモネのパステル画を正当な相続人に喜んで返却すると判断し、円満な合意に達しました」(翻訳:編集部)
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