ミイラ博物館の改修中にミイラ化した19世紀の遺体が損傷。「適切な保存手法には程遠い」
100体を超えるミイラを展示し、人気の観光スポットになっているメキシコ中部グアナファトのミイラ博物館。その改修工事中のずさんな扱いで19世紀にミイラ化した遺体の腕が外れたとして、メキシコ国立人類学・歴史学研究所が地方政府を非難する声明を出した。
5月28日に米CBSニュースが伝えたところによると、メキシコの考古学研究を統括する国立人類学・歴史学研究所(INAH)は、ミイラが損傷した責任はグアナファト市の保守派政府にあると批判。これらの遺体を扱う手順に関する知識や担当者の訓練が欠けていたと指摘している。
1800年代初めに埋葬され、自然にミイラ化した遺体が掘り起こされるようになったのは1860年代。理由は遺族が管理料を支払わなかったためだという。以来、グアナファトの博物館には100体を超えるミイラが展示されてきた。2009年には米国で展示されるなど、博物館から海外に貸し出されたこともある。
INAHとグアナファト市政府は、ミイラ化した遺体を管轄する主体はどちらかという問題で対立し、INAHは「国家的な遺産」の一部であるとして管轄権を主張している。しかし、遺体が掘り出されたのが1939年のINAH設立以前だったため、現在は市政府の管轄下にあり、INAHの所属ではない職員がミイラの管理を担当していた。
なお、メキシコ連邦政府の政権与党はリベラル派政党の国民再生運動(MORENA)だが、グアナファト州およびグアナファト市政府では保守派の国民行動党が政権を握っている。
5月27日にINAHは、博物館の改修工事の許可と手続きに関する情報開示を要求すると発表。声明でこう主張した。
「この一件は博物館の展示物移動の方法が間違っていたことを裏付け、適切な修復・保存手法とは程遠い作業が、今回損傷した遺体だけでなく、多くの損害を招きかねないことを明らかにした」
近年は、ミイラ化した遺体の展示や「ミイラ」という呼び方が問題視されるようになった。2023年初めには、大英博物館などイギリスの博物館がエジプトのミイラの呼称を見直し、「ミイラ」ではなく「ミイラ化した遺体」または「ミイラ化した人」に変更することを発表している。(翻訳:石井佳子)
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