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アート・バーゼル開催間近! 世界有数のギャラリーに出品作品を緊急リサーチ

スイス・バーゼルで開催されるアート・バーゼルが来週スタートする(6月13日~16日、VIPプレビューは10日から)。世界中から人々が集う老舗アートフェアに、各ギャラリーはどんな作品を出品するのか?

フィリップ・ガストン《Orders》(1978)Photo: Courtesy Hauser & Wirth

5月のオークションシーズンが終わったら、世界中のアート業界人たちがスイス・バーゼルに大移動する。もちろん目指すはアート・バーゼル。今年は4大ギャラリーを含む287軒が参加し、同フェア初の試みとなるコンセプトストア「アート・バーゼル・ショップ」も展開される。

今年は、アート・バーゼルが2022年からパリで開催していた「Paris+」が「アート・バーゼル・パリ」と名称変更し、本格的にパリに根を下ろす気配を見せている。これによりバーゼルのフェアが衰退してしまうのではないかという噂が飛び交っているが、多くのギャラリストやディーラーはそれに反発している。

あるディーラーは「バーゼルのフェアはギャラリーが最高の作品を展示する場所であり、コレクターが集まる場所。たとえ多くの人々がパリを好むとしても、それは続くだろう」と語る。Tornabuoni galleryのコーディネーター、ウルスラ・カサモンティもそれに同意する。同ギャラリーはバーゼルのために、シュルレアリスムに影響を与えた「形而上絵画」の創始者、ジョルジョ・デ・キリコの作品を6点も用意したという。

では実際に、世界で名のあるギャラリーはどんな「最高の作品」を用意しているのだろう。US版ARTnewsは希少なセカンダリー作品を展示することで定評のある7ギャラリーに、彼らがバーゼルのために用意したとっておきの作品を緊急リサーチした。

1. ハウザー&ワース

スイス・チューリッヒを拠点にするハウザー&ワースは、地元のフェアとあっていくつかの大作を用意した。中でもフィリップ・ガストンが死の2年前に制作した《Orders》は出色だ。真紅の水平線の上に靴の群れを描いたこの作品は、1980年にサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)で開催されたガストンの回顧展に出品され、1989年にサザビーズで52万8000ドル(現在の為替で8200万円)で売却された。この作品についてギャラリーは、「《Orders》の形は、アーティストの晩年の作品全体に見られる、広範な歴史的・心理的トラウマの個人的な象徴が表現されています」と説明する。価格は1000万ドル(約15億6000万円)。

そのほか、アーシル・ゴーリキーによる大作の木炭画《Untitled (Gray Drawing :Pastoral)》(1946-47)が1600万ドル(約24億9000万円)、ルイーズ・ブルジョワの大理石と木製の彫刻《Woman with Packages》(1987-93)が350万ドル(約5億4000万円)、フランシス・ピカビアの油彩に厚紙を貼った作品《Nu assis》が485万ドル(7億5500万円)、デイヴィッド・スミスのステンレススチールと木の彫刻《Aggressive Character》(1947)を出品予定だ。

2. ガゴシアン

ドナルド・ジャッド《Untitled》(1970)Photo: Maris Hutchinson/Courtesy of Gagosian

ガゴシアンは、ミニマル・アートの先駆者、ドナルド・ジャッドの中でもオーナーであるラリー・ガゴシアンにとって思い出深い作品を展示する。それは、高さ1メートル50センチの亜鉛メッキされた鉄のパネルを、壁の端から端まで並べた1970年の代表作で、ラリーの亡き師、レオ・カステリがニューヨークで初公開したものだ。関連作品はニューヨークのグッゲンハイム美術館のパーマネント・コレクションに収蔵されている。この作品の正確な価格は教えてもらえなかったが、広報担当者は1000万ドル(約15億6000万円)以上であることを示唆した。

ほか同フェアでは、ジャッドが1987年から1991年にかけてルツェルン湖畔の自宅兼アトリエで制作した11点の壁掛け作品を出品する。

3. ペース・ギャラリー

現在、アレクサンダー・カルダーの回顧展を麻布台ヒルズギャラリーと共同で開催しているペース・ギャラリーは、カルダー、ルイーズ・ネヴェルソン、パブロ・ピカソなど、20世紀の巨匠の作品を中心とした展示で知られる。今年は、ジャン・デュビュッフェの《Banc-Salon》で勝負に出た。これはアメーバのように放射線状に設置された低いベンチの彫刻作品で、上空には3つの凧が飛び回り、疲れたフェア参加者に座って物思いにふけるよう促す。

アグネス・マーティン《Untitled #20》(1974)Photo: Courtesy of Pace

だが、一番の目玉はアグネス・マーティンの《Untitled #20》(1974)だろう。この絵画が最後にオークションで落札されたのは2012年のクリスティーズ・ニューヨークで、243万ドル(現在の為替で約3億7900万円)だった。そして同年11月にはサザビーズでマーティンの1961年の作品《Grey Stone II》が1870万ドル(同・約29億1300万円)で落札されている。ギャラリー側は現在の価格については明言を避けたが、このフェアで最も高額な作品となる可能性は高い。

4. タデウス・ロパック

タデウス・ロパックがバーゼルに出品する作品の中でも特に重要なのは、ドイツの画家、写真家であったシグマー・ポルケの1994年の絵画《Lapis Lazuli》だ。この作品は、ポルケ自身が「錬金術的」と呼んだ鮮やかなブルーの抽象画で、消費文化というポルケ得意のテーマから離れ、ラピスラズリ(中世やルネサンスで珍重された青い半貴石とそれから作られる顔料)のような、当時忘れ去られていた顔料を用いはじめた時期に制作されたもの。

また、ロバート・ラウシェンバーグが1984年から91年にかけて行った海外文化交流(ROCI)プログラムの初期作品《Market Altar / ROCI MEXICO》(1985)にも注目だ。この作品は1990年のROCIプログラム最後に開催された展覧会以来、ずっと未公開で市場に出回ることもなかった。バーゼルでは、385万ドル(約6億円)の値がつけられている。

同ギャラリーではさらに、新表現主義を代表するアーティストの一人、ゲオルク・バゼリッツによる女性の頭部を象った高さ約1メートル50センチの彫刻《Dresdner Frauen - Die Elbe》(1990/2023)も出品する。この彫刻は、1990年に1本の木の幹からチェーンソーや斧、ノミを用いて荒々しく切り出され、2023年にブロンズで鋳造された。「Dresdner Frauen」シリーズはほかにも5点の作品が、パリのポンピドゥー・センターやデンマークのルイジアナ近代美術館などのパーマネント・コレクションに収められている。価格は218万ドル(約3億4000万円)。

5. Lévy Gorvy Dayan

今回の主役は、1990年に制作されたデヴィッド・ハモンズの無題の彫刻。帽子スタンド付きのコートラックで構成された1メートル70センチ弱の作品で、価格は約900万ドル(約14億円)。アートフェアに出品されるのはこれが初。これまで、2006年にティルトン・ギャラリーで一度だけ一般展示されたことがある貴重な作品だ。この彫刻には、ゴム、ビニール袋、紙袋、ブリキ缶、野球帽などが使われており、そのすべてが非常に人間的な様相を呈している。

同ギャラリーのドミニク・レヴィは、「非常に政治的で、アーティストの自画像のような作品」と高く評価する。

同ギャラリーはまた、ドイツ人アーティスト、ギュンター・ウエッカーの《Übernagelter Hocker》(1963)も展示する。座面と片方の脚が塗装された釘で覆われた木製スツールの形の作品で、約150万ドル(約2億3000万円)の値がつくと予想されている。

6. Landau Fine Art

ワシリー・カンディンスキー《Murnau mit Kirche II》(1910)Photo: Courtesy of Landau Fine Art

モントリオールのLandau Fine Artが出品するのは、1938年にナチスによって盗まれたカンディンスキーの《Murnau mit Kirche II》(1910)。ギャラリーの創設者であるロバート・ランドーは、今年3月にサザビーズ・ロンドンで本作を3720万英ポンド(約74億1000万円)で購入し、昨年開催されたオークションで9番目に高額なアート作品となった。ランドーはその後すぐに、TEFAFマーストリヒトとTEFAFニューヨークの両方で本作を展示しているが、この絵が今回のアート・バーゼルで販売されることはない。

「アート・バーゼルでは、多くの人々がこの絵に注目するでしょう」とランドーは自信を見せる。

それもそのはずだ。ランドーは昨年、美術館学芸員と多数の議論を重ねた上でこの作品についての書籍を執筆しており、何億もの追加投資をして本作を手に入れている。ランドーによれば、オークション会社の評価では1億ドル(約155億円)以上の価値があるという。

7. Edward Tyler Nahem Fine Art

5月に複数のオークションで高額落札され、その価値を見せつけたジャン=ミシェル・バスキア。そんな追い風の中、アッパー・イースト・サイドのEdward Tyler Nahem Fine Artは、バスキアの1984年のアクリル&油彩画《Cash Crop》を500万ドル(約7億8000万円)から600万ドル(約9億3000万円)という強気の価格で出品する。この作品が2010年にガゴシアンからの委託でフィリップス・ロンドンのイブニングセールに出品されたとき、60万ポンドから90万ポンド(約1億2000万円〜約1億8000万円)の見積に対し、落札金額は71万3250ポンド(現在の為替で約1億4200万円)だった。

ギャラリーのディレクターであるステイシー・カンドロスは、最近のオークション結果によって昨年よりも問い合わせが増えたと語っている。「これが素晴らしい作品であることは間違いありませんが、ポイントは、潜在的な買い手を惹きつける適切な価格を見つけることです」

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