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年間30億円の赤字試算。2026年オープン予定のポンピドゥー・センター北米分室に懸念広がる

アメリカ・ニュージャージー州に2026年のオープン目指して準備中のポンピドゥー・センターの分室「ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティ」。このほど同施設が、オープン後に毎年約30億円の赤字を計上するという試算が発表され、政府機関内で資金打ち切りの可能性も飛び出す大騒ぎになっている。

ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティの完成予想図。Photo: Courtesy OMA

パリのポンピドゥー・センターは近年、世界各地に分室を開設しており、2015年にスペインのマラガ、18年にベルギーのブリュッセル、19年には上海にオープンした。そんな中、アメリカ・ニュージャージー州で準備が進む「ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティ」がオープン後に大きな赤字を計上するという試算が発表され、資金を提供する政府機関に動揺が走っている。

ポンピドゥーの北米初の分室「ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティ」は、築100年の工業用ビルをリノベーションする計画で、本来は2024年に完成予定だったが2026年にずれこんでいる。

このプロジェクトには、ニュージャージー州経済開発局(NJEDA)から3400万ドル(55億円)、国務省からの2400万ドル(約38億円)を含む、5800万ドル(約93億円)近い州予算が投入される予定だ。だが、「ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティ」を含む再開発プロジェクトのための資金調達や支援を調整・手配する役割りを担うジャージー市再開発局(JCRA)は2024年3月、NJEDAに対して同施設がオープンした場合の収入は、年間約400万ドル(6億4000万円)となるのに対して、経常支出が2300万ドル(約37億円)以上となり、年間運営費が1900万ドル(約30億円)ほど不足するとの見通しを示した。

地元メディアNJBIZが報じたところによると、これを受けて4月にNJEDAはJCRAに書簡を送り、プロジェクトの「運営計画の欠如」を指摘した上で美術館への資金援助を打ち切る可能性があると伝えている。

NJEDAのティム・サリバン最高経営責任者(CEO)は同じ書簡の中で、「州からの多額の充当金や、最近制定された文化芸術インセンティブ・プログラムによる税控除の可能性など、資金面に前進がありましたが、同時に、持続的な運営方針の制定が引き続き大きな課題となっていることも明らかになりました」とコメント。また、サリバンは、この資金調達には「連邦政府が設けた期限がある」ため、プロジェクトには「時間がない」とも述べている。

アートネットがフィル・マーフィー州知事に取材したところ、まだNJEDAからの資金提供は撤回されていないという。

JCRAのダイアナ・ジェフリー事務局長は、NJEDAからの書簡に「不意を突かれた」としながらも、これはプロジェクトに資金を提供するための協力を続けるという州の「誠実な意思」として扱うと述べ、外国の政府や複数の利害関係者が絡む国際プロジェクトに取り組むNJEDAの努力を称賛した。

またジェフリーは、このプロジェクトの建設費及び予想される運営費は他の同水準の美術館と「同等」であると指摘した上で、運営費については具体的に次のように説明した。

「例えば、州に提示された当初の計画では、州予算計上でも明らかなように、芸術評議会からの州補助金のうちの2400万ドル(約38億円)を運営費の相殺に充てていました」

「最初の州予算計上の際、(ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティの)年間運営予算案は約2250万ドル(約36億円)でした。私たちはその額を減らすために熱心に取り組み、現在ではその額は1900万ドル(約30億円)、おそらくそれ以下になっています」

NJEDAはまた、美術館の建設資金と地域への経済効果についても疑問を呈していた。

報告書によると、ポンピドゥー・センター×ジャージー・シティの年間入場者数は10万人から25万人になると予想されており、そのほとんどが市外からの観光客で、その経済効果は550万ドル(約8億8000万円)から1410万ドル(約22億6000万円)にのぼると見積もられている。だが一方で、固定資産税は上昇し、地元の課税地区には年間1180万ドル(約19億円)の増税となる見込みだ。

この予測について6月初め、ジャージー・ジャーナル紙は、「(美術館が開館したことにより)近隣の不動産所有者にとって、直接的な利益をあまり得られずに税金だけが上がる可能性がある」と指摘した。(翻訳:編集部)

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