US版ARTnews編集長が選ぶ、Tokyo Gendaiのベストブース5選

アメリカ独立記念日である7月4日、第2回Tokyo GendaiのVIPプレビューが開催された。US版ARTnews編集長のサラ・ダグラスが、自身の目を最も惹き付けたアーティスト/ブースをレポートする。

第2回Tokyo GendaiのVIPプレビューの様子。Photo: Katsura Komiyama/Courtesy Tokyo Gendai

7月4日、第2回Tokyo GendaiのVIPプレビューが午後2時に幕を開けるやいなや、ARTnewsトップ200コレクターの大林組会長、大林剛郎Paceのブースでロバート・ロンゴによる印象的な虎の絵に見入っている姿や、OKETA COLLECTIONの桶田俊⼆・聖子夫妻BLUMのブースを楽しんでいる様子が見えた。もちろん、ここに駆けつけたのは彼らだけではない。森美術館の森 佳子理事長、中国・上海が拠点のFuson財団ディレクター、ジェニー・ワン、同じく中国のSimian財団の創設者シミアン・ワンなどが、思い思いにブースを巡っていた。こうした面々からも、フェアは盛況のうちに幕を開けた、と言っていいだろう。それが売上にどう反映されるかはフェアが終了してみないとわからないが、その間に、特に魅力的なブースをいくつか紹介しよう。

(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)

1. 15人のアーティスト/タカ・イシイギャラリー(Taka Ishii Gallery)

タカ・イシイギャラリーのブースの様子。Photo: Sarah Douglas/ARTnews

現在、東京の3拠点のほか京都、群馬・前橋にもスペースを構えるタカ・イシイの展示は、展示デザインの常識を覆すもので、完全にノックアウトされてしまった。ギャラリーが扱う15人のアーティストの作品が、スペースの壁3面に一直線に並べられ、額縁同士がキスし合っているのだ。作品と作品が文字通り連なっていることで個々の作品が曖昧になるかと思いきや、むしろそれぞれの作品が際立ち、隣の作品と完璧に調和している。

この「作品の行進」は、わずかな余白とともに掲げられた未額装の作品──マリオ・ガルシア・トレス (現在、六本木のタカ・イシイで個展を開催中)によるプリンターのトナーインクで手形を残した白い紙──によって終了する。作品はこれ以外にはないと思えるほど正しく並べられているので、意欲的なコレクターがそれら全てを一挙に集めて、そのまま寝室の壁に掲げても不思議ではないだろう。強いてお気に入りを挙げるなら、五木田智央の繊細な花びらの形をしたペインティングだろうか。とはいえ、この展示を見ていると、集団の中でしか出会うことのできない人のように、単独でどんなふうに見えるのか定かではない。

2. 辻村史朗(Shiro Tsujimura)/イムラアートギャラリー(Imura Art Gallery)

ブースに並ぶ辻村史朗の作品。Photo: Sarah Douglas/ARTnews

東京と京都を拠点とするイムラアートギャラリーのブースでも、ディスプレイの重要性を改めて感じた。奈良の禅寺で3年間修行したのちに陶芸に転向した陶芸家で画家の辻村史朗による茶碗が、規則正しく並んだ背の高い台座の上に置かれている。それぞれの台座は密接して配置されているため、その間を回遊する十分なスペースはない。そのためブースの前には、まるで有名人を一目見ようとするかのように人だかりができていた。生成色を基調に錆色で繊細に彩られた器は、確かに目を見張るものがある。ブースの一角には、花瓶をバルーンのように膨らませたような造形の器も並んでいた。緑色のそれらが並ぶと、まるで苔の山のようだ。このブースはすべてが素晴らしく、陶器は飛ぶように売れていた。

3. ダンフル・ヤン(Danful Yang)/Spurs Gallery

Danful Yang《Packing me Softly》(2023)Photo: Sarah Douglas/ARTnews

私はもともとトロンプイユ(だまし絵)的な作品が大好きなのだが、北京のSpurs Galleryのブースで展示されていた中国人アーティスト、ダンフル・ヤンの作品群に心を奪われた。どれも一律に《Packing Me Softly》と題されたこれらの作品は、壁に取り付けられた彫刻だ。遠目から見る限り、様々な宅急便の箱に見えるのだが、近づくと、それらがダンボールではなくキャンバスに手刺繍で作られていることがわかる。よく見ると、宅急便の伝票やスタンプなどまでが精巧に刺繍で再現されている。そう聞くと、あまりにギミック的、あるいは尊大なものに聞こえるかもしれないが、実際のところ、全くそんなことはない。現実にはぞんざいに扱われがちな宅急便の箱とは対照的に、アーティストが一つひとつの作品を細心の注意を払いながら制作していることがわかって説得力があった。玄関の棚などにこれらの作品が置かれていることを想像してみてほしい。

4. 淺井裕介(Yusuke Asai)/アノマリー(ANOMALY)

アノマリーでの淺井裕介の展示風景。Photo: Sarah Douglas/ARTnews

東京・天王洲に拠点を置くアノマリーのブースでは、40代の日本人アーティスト、淺井裕介の作品が展示されていた。遠くから見ると、泥色の作品が掲げられたブースはメリハリに欠けるように見えるが、実際にそれらの主な素材は泥なのだ。正確には、土のほかにも絵の具にコーヒーを混ぜたような珍しい素材でできているという。

彼の絵は、近づけば近づくほどその複雑さと美しさが見えてくる。めくるめく構図の中には、人物、花、足跡、動物がいる。Tokyo Gendaiの会場であるパシフィコ横浜に隣接する横浜美術館でも、7月5日から7日までの3日間、新作《八百万の森へ》が特別展示されており、淺井が今をときめく存在であることがわかる。同美術館が最近収蔵したというこの作品は、ボランティアの協力を得て淺井が横浜周辺のさまざまな土地から集めた土を用いて制作された。日本の美術館に引っ張りだこの淺井だが、実は10年前、アメリカはテキサス州ヒューストンのライス大学アートギャラリーで個展を開催している。

絵画以上に見る者を魅了するのは、淺井の陶芸作品だろう。ブースには、器からひょっこり顔を出したキツネのような生き物をかたどった大きな作品の周りで、トランプのカードくらいの小さな動物たちが、目を見開き、いつまでも何かに驚いている。

5. TENGAone/カイカイキキギャラリー(Kaikai Kiki Gallery)

アメリカ人アーティストのジョン・バルデッサリはかつて、アーティストにとって、自分の作品が取引されるアートフェアに参加することは、両親がセックスしているのを目撃するようなものだと言った。おそらく、フェアでそんな原始的な場面に居合わせる居心地の悪さを避けるひとつの良策は、忙しなく仕事をすることかもしれない。東京を拠点に活動するストリート・アーティスト、TENGAoneは、カイカイキキギャラリーのブースでライブペインティングを行なっていた。彼が目の前で仕上げようとしていたのは、垂れ耳のアニメ風の生き物の絵だ。この作品をどう思うかはさておき、その姿は、アトリエのフェティシズムや、アーティストがガレージで苦闘するというようなロマンチックな概念を体現しているようにも見える。しかし、14歳でグラフィティを始めたTENGAoneにとっては、人前で仕事をすることなどなんでもない行為なのかもしれない。さらに言えば、彼は村上隆ともコラボレーションしたアーティストなのだから、きっとフェアの商業的な側面も全く気に留めていないに違いない。

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