ウイスキーが、アートのように超高額で落札されるわけ

それは、美術品のオークションに親しんでいる人たちにはおなじみの光景だった。入札者でいっぱいの会場はざわめきと期待感に満ち、正体がベールに包まれた持ち主が売りに出した逸品が次々と出品される。

羽生蒸溜所で蒸留された「イチローズモルト・カードシリーズ」のフルセット。2019年、オークションハウスのボナムズで落札された Courtesy Bonhams羽生蒸溜所で蒸留された「イチローズモルト・カードシリーズ」のフルセット。2019年、オークションハウスのボナムズで落札された Courtesy Bonhams

競売はハンマーの音で始まり、開始直後から推定落札価格の2〜3倍の入札額が提示された。とりわけ注目されるロットが登場すると、会場の熱気はさらに高まり、あちこちから応札の声が上がった。

事前に入札があったことで、価格は推定額を大きく超えて押し上げられていた。競り合いをあおるため、あえて推定額を低く抑えておくというオークションハウス側のねらいは的中したのだ。このオークションを盛り上げる役目を果たしたサザビーズのオークショニア、ジョニー・フォウルは振り返る。「非常に多くの入札者が集まり、応札も活発でした」

応札額はつり上がる一方だった。100万ポンド(2019年当時のレートで約130万ドル)の大台に乗った時、そしてついに145万ポンド(約190 万ドル。オークションハウスの手数料を含む額)で落札された時には、ささやき声に代わって歓声が巻き起こった。落札額は最高推定額の4倍に相当し、成長著しいこのカテゴリーの競売の新記録となった。

10分間の激しい競り合いの末に落札されたのは、絵画でも彫刻でもなく、ファン垂涎(すいぜん)の的になっている非常に希少な1本のシングルモルトウイスキー。1926年にスコットランドで樽(たる)詰めされたもので、他のボトルも過去に世界中で記録を作っている。

今回出品された1本を落札したのは、台北からオークションのためにロンドンを訪れたコレクターだ。インスタグラムに投稿されたボトルを手にする自分の写真には、「私はフェラーリ4台を抱えている」というコメントに、ハッシュタグ「#macallanfineandrare1926」「#macallan1926」「#mostexpensive」「#bestofthebest」が付けられていた。

これまで美術品を扱っていたオークションハウスが、近年は他のカテゴリーにも進出している。高級腕時計、ジュエリー、自動車といった従来の収集対象品に加え、新たな脚光を浴びているのはウイスキーだ。ウイスキーは長年にわたり、ワインや、同じ蒸留酒の中でも価値が高かったコニャックのついでのように扱われてきたが、買い手の好みが変化し、世界中で関心が高まったことで主要な競売品の地位を獲得した。

市場で圧倒的にトップを占めるのはスコッチウイスキーだが、日本、アイルランド、アメリカ、それに台湾産のウイスキーも値上がりが続いている。ウイスキーのコレクターは、ボトルの中身だけではなく、蒸留所やオークションハウスがどれほどクリエイティブに企画された形で売り出すのかにも敏感な反応を示すのだ。

サザビーズ・ニューヨークでワイン部門を世界的に統括するディレクターを務めるジェイミー・リッチーは、「(ウイスキーは)確かに力を入れるようになった分野です」と語る。「2年ほど前から急速に注目度が高まっていて、今後も成長していくことは確実でしょう。ウイスキーはさまざまなニュアンスがあり、興味深い世界です」

サザビーズは1970年から蒸留酒を扱っているが、過去にはワインと一緒にオークションにかけられ、売上額もワイン・蒸留酒部門全体の1%に満たなかった。しかし、2017年になるとこれが6%に急伸。リッチーによれば、この伸びは価値の高いスコッチウイスキーと、中国の白酒(穀物など原料の発酵液を蒸留したもので、色々な味わいのものがある)の銘柄の一つである茅台酒(まおたいしゅ)が、香港のオークションで売られたことによるものだ。「大きく伸びる可能性のあるマーケットだと感じるようになりました。そこで力を入れるようになったのです」

2019年、ロンドンのサザビーズを拠点とするジョニー・フォウルは、同社初の蒸留酒スペシャリストに就任し、一人のオーナーが所蔵していた「究極のウイスキーコレクション」をまとめて出品するオークションを行った。このコレクションには190万ドルのボトルをはじめとする400あまりのロットが含まれ、まとめて985万ドルで落札された。2019年に蒸留酒の売り上げはワイン・蒸留酒部門の13%に達し、2020年には19%とさらに伸びた。「これは劇的な増加です」とリッチーは言う。

1926年にスコットランドで樽詰めされたウイスキーのボトル。オークション落札額の記録を生んだ Courtesy Sotheby’s1926年にスコットランドで樽詰めされたウイスキーのボトル。オークション落札額の記録を生んだ Courtesy Sotheby’s

クリスティーズでは1766年の創立当初からワインのオークションを行っていたが、蒸留酒のオークションは数えるほどだった。1960年代〜1970年代にはコニャックが盛んに扱われ、スコットランドでは長年にわたりウイスキー専門のオークションが行われていた。クリスティーズは一時ウイスキーから遠ざかっていたが、2000年代半ばに復活すると、急速に重要度を増してきた。

クリスティーズのワイン担当のヘッドであるクリス・ムンローは、「ブームが訪れ、価格帯もけた違いに上昇しました」と述べる。「マーケットは成長し、1990年代から2000年初頭にかけては気軽な値段で買えたものが、今では非常に高価になっています。そうすると、何でもそうですが、オークション市場に入ってくる人がいます。元値は500ドルだったウイスキーが、今では1万ドルにまで値上がりし、所有者は飲むよりも売ることを望むようになったのです」

クリスティーズでは、数年ほど前から注目度の高いロットの価格が6桁から7桁に達する額に跳ね上がり、スコッチウイスキーのマッカランの、ある1本は、サザビーズのオークションの前年にあたる2018年に150万ドルを記録している。

「価格の高騰には目を見張るものがあります」とムンローは述べる。「入札者は増える一方です。ヨーロッパ以外の地域で、伝統的なオークション参加者ではないウイスキー収集家たちによる取引が行われるようになったことが影響しています。2008年に香港でワインの輸入関税が廃止されたことがきっかけで、他の酒類にも興味を持つ投資家が増えました。世界的に大型の落札が行われるようになり、価格上昇に拍車がかかったのです」

この部門に力を入れている大手オークションハウスには、他にボナムズがある(なお、やはり現代アートの主要なオークションハウスであるフィリップスは参入していない)。ボナムズは、エジンバラのほか、アジア各地から買い手が集まる香港でウイスキーのオークションを実施している。ボナムズのワイン部門のグローバルヘッドであるリチャード・ハーベイは、「極東地域のコレクターは、ワインに続いてウイスキーにも触手を伸ばすようになりました」と語る。

ハーベイもまた、香港がワインの輸入関税を廃止したことで(蒸留酒の関税は残っているが)急速に市場が拡大したと指摘する。ハーベイによれば、買い手は目にしたものに反応するので、香港における販売の結果を見て世界的に価格が上昇したという。「欧米で需要が拡大しているのは、極東での価格高騰に刺激を受けた結果です。将来売りに出すことを目的に投資として買う人が中心になり、伝統的なウイスキー愛好家のコレクターの大多数は値段に手が届かないため、マーケットから排除される結果になりました」

2019年のオークションでは、マッカラン1926年が190万ドルという記録的な価格で落札された Courtesy Sotheby’s2019年のオークションでは、マッカラン1926年が190万ドルという記録的な価格で落札された Courtesy Sotheby’s

希少なビンテージウイスキーをオークションに出品する動機として、サザビーズのリッチーは、「死(death)、借金(debt)、離婚(divorce)のほか、4番目のDがあります。それはドクターストップです」と語る。しかし現実には、肝臓の負担を減らしたいという動機以上に、歴史ある有名蒸留所のウイスキーの収集価値が長年にわたって拡大する一方であることが、オーナーが売却を決める大きな理由になっている。

リッチーによれば、「こうした蒸留所は以前から、少量生産など付加価値の高いウイスキーを生み出し、非常にスマートなマーケティング戦略をとってきました。だから、希少性への関心が高まり、世界的に注目されるようになった時、価値が上がったレアアイテムの在庫があったのです。これが他の蒸留酒とは異なるところです。ウイスキーが優位にあるのはそのような理由からで、マーケットはこれに反応しているのです」

クリスティーズのムンローも、「ウイスキーのマーケットは一種のコレクター心理をくすぐります。コインの収集家が売り出されたばかりのものをすぐにでも手に入れようとするように、シリアルナンバー入りのボトルを買うのです」と分析する。「20本セットのものがあれば、20本全部がほしくなる。ウイスキーのコレクターはワインのコレクターとその点が違います。ウイスキーの場合は細部に強くこだわる傾向がありますが、ボトルごとにどんな違いがあるのか理解するには多くの知識が必要です」

市場でも特に高価なアイテムのコレクターは、特定のブランドに心をひかれる傾向がある。ムンローが「腕時計や自動車に似ている」と言うのは、これらのカテゴリーでロレックスやフェラーリといったブランドが圧倒的人気を誇るのと同様の現象がウイスキーでも見られるからだ。ムンローは、「蒸留所によって商品の収集価値に優劣があります。異なるボトルやデカンタを用いて、収集価値の高い新商品として打ち出す企画力に優れた蒸留所もあります。中身ではなく、パッケージそのものが収集対象になっているのです」と解説する。

コレクターズアイテム市場の最上位に位置するのがマッカランだ。オークションに出品されたボトルが記録的な高値をつけているのみならず、ぜいたく品として、より高いステータスを追求する企画やシリーズを次々と生み出している。

サザビーズが初めて本格的に蒸留酒専門のオークションを行った2019年、マッカランは売上総額の54%を占め、2位の茅台酒の10%を大きく引き離した。3位以下は、ボウモア、山崎などウイスキーのブランドが続いている。2020年、マッカランは38%でトップの座を守り、2位はやはりスコッチのダルモアで20%を占め、3位は軽井沢(2000年に製造を終了した日本の蒸留所)、4位は茅台酒だった。

売り上げシェアはその年に出品されるロットによって若干変動するものの、リッチーはマッカランの確固たる地位を、フランスワインのロマネ・コンティ、イタリアワインのオルネライア、シャンパンのドン・ペリニヨンになぞらえる。「こうしたブランドは常に上位にあり、それぞれのカテゴリーで支配的な地位を占めることも多いのです」

20年ほど前からマッカランのブランド価値を高める戦略を主導してきたケン・グリアは、「具体的な実践の一つが、オブジェダール(美術品)と呼ばれるものを作り出したことでした」と説明する。「アートこそ差別化のカギだと考えています」。

ラリックのデザインによるクリスタルのデカンタ入りのマッカラン Courtesy Macallanラリックのデザインによるクリスタルのデカンタ入りのマッカラン Courtesy Macallan

グリアは2018年に他のウイスキーブランドの仕事も請け負うコンサルタント会社、De-Still Creative(デ・スティル・クリエイティブ)を立ち上げるまで、マッカランの社員としてさまざまなディレクター職に就き、最高級ラインのいくつかの商品を企画している。たとえば、イギリスのポップアートアーティストのピーター・ブレイクや、イタリア人画家ヴァレリオ・アダミが、1926年に蒸留されたマッカランのラベルをデザインしたが、こうした有名アーティストとのコラボレーションを活用して、グリアは価格上昇を実現した。

グリエはまた、フランスの有名クリスタルガラスメーカー、ラリックと提携を結び、カスタムメイドのクリスタルのデカンタを制作。オークションで62万8000ドルの高値をつけている。さらに、マッカラン・マスターズ・オブ・フォトグラフィー・プログラムでは有名フォトグラファーとのコラボレーションを行い、アルバート・ワトソン、アニー・リーボヴィッツ、マリオ・テスティーノ、スティーヴン・クラインらが撮影した広告キャンペーンを展開した。

新しくデザインされたボトルと洗練されたパッケージに彩られたビンテージウイスキーは、マッカランのレガシーにさらなる価値を加えることになった。「我々は、明確な特徴を持つブランドを作り出し、単に古いという事実を超えた収集価値を生み出す可能性を見いだしたのです」とグリアは語る。

グリアはマッカランから独立したのちも、同社の仕事を続けている。2020年、マッカランはサザビーズと組み、「Red Collection(レッド・コレクション)」シリーズでアーティストのハビ・アズナレスがラベルのデザインを手掛けたユニークなセットを制作した。同年10月のオークション、「The Ultimate Whisky Collection Part II(究極のウイスキーコレクション パート2)」にチャリティー出品されると、6本組みのセットは約100万ドルの高値をつけた。

2021年3月にマッカランとサザビーズは再び共同で、「Anecdotes of Ages Collection(時代の秘話コレクション)」という新シリーズから1本をチャリティーオークションに出品した。これは、1967年蒸留のビンテージウイスキーを手吹きガラスのボトルに詰め、ピーター・ブレイクのデザインによるラベルを貼った希少な1本だ。

ちなみに、1967年はピーター・ブレイクがビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のアルバムカバーを制作した年に当たる。ちなみに、このオークションの収益金43万7500ドルは、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館の、公平・寛容・包摂を目的とした取り組みを支援するために寄付された。

サザビーズとのコラボレーションは、マッカランブランドにプレステージ性を与える。マッカランのブランド開発・個人顧客マネージメント部門のヘッドであるジェフ・カークによれば、「一流のオークションハウスは、運営全体に綿密な配慮を払い、きめ細かい対応で顧客との関係を築いています。最も重要なのは、有意義で価値のある体験を、高いエクスクルーシブ性と心配りをもって顧客に提供したいという共通の願いを持っていることです」。

マッカランの企業努力は主に通常の販売経路に注がれているが、オークションで商品の持ち主が変わることには神秘性を高める効果もある。「オークションで記録的な結果を出し続けることで、マッカランはシングルモルトウイスキー業界においてトップの地位を確立しただけではなく、人気の高い美術品と同等の収集価値を持つに至ったのです」とカークは説明する。

サザビーズは、美術品に匹敵するような唯一無二の価値を追求する他のブランドとも提携を行っている。2019年には、ダルモアのマスターブレンダーで世界的名声を誇るレストランのオステリア・フランチェスカーナでシェフを務めるマッシモ・ボトゥーラとのコラボレーションで1本限定の(Dalmore L’Anima(ダルモア ラニマ、三つの異なる原酒のブレンド)のオークションを行った。

これはバカラのクリスタルデカンタに詰めてシルバーの栓をし、イタリア産のオリーブ、アメリカ産ブラックウォルナットと黒檀(こくたん)を用いたハンドメイドの木箱に収めたもので、イタリアのモデナにあるオステリア・フランチェスカーナでの二人分のディナー付きで2019年に競売され、約14万9000ドルで落札された。サザビーズの蒸留酒スペシャリスト、フォウルは「まさに瞬殺でした。あのボトルを手にする機会はサザビーズのオークションしかなかったのです」と振り返る。

グリアは現在、ボウモアをはじめとする他のスコッチウイスキーブランドの仕事を手掛けている。ボウモアでは高級車メーカーのアストンマーティンとのコラボレーションで、ビンテージウイスキー25本セットの企画を実現した。

このボウモアは、ジェームズ・ボンドの愛車として有名になったアストンマーティンDB5のピストンから取られた金属とガラスを組み合わせた特別なボトルに詰められている。グリアは「スコッチはそれ自体が一種の芸術です。そして今の最高級スコッチは、ウイスキー造りの技術と魅力的な商品に仕立てる手腕を組み合わせ、それに美的な価値とストーリー性を加えてさらに価値を高めたもの。まさに美術品の世界です」。

ビンテージウイスキーの品ぞろえで有名なシンガポールのThe Auld Alliance(ジ・オールド・アライアンス)。スコッチウイスキーのコレクターでもあるエマニュエル・ドロンが共同オーナーの一人 Courtesy Emmanuel Dronビンテージウイスキーの品ぞろえで有名なシンガポールのThe Auld Alliance(ジ・オールド・アライアンス)。スコッチウイスキーのコレクターでもあるエマニュエル・ドロンが共同オーナーの一人 Courtesy Emmanuel Dron

「かつてはウイスキーの収集家が大勢いたものですが、今の主流は投資家です。収集家と投資家は同じではありません」と言うのはエマニュエル・ドロン。『Collecting Scotch Whisky: An Illustrated Encyclopedia, Volume 1(スコッチウイスキー収集図鑑 第1巻)』の著者で、1000本を超える最高級の希少なウイスキーの品ぞろえを誇るシンガポールのバー、The Auld Alliance(ジ・オールド・アライアンス)の共同オーナーだ。「マーケットはとんでもない事態になっています。誰もが5万ドル出してビンテージのマッカランを飲めるわけがありません。そんな人は限られています。もはや手の届かないぜいたく品になってしまったのです」

ウイスキーが高騰していることから、ドロンはカルバドスやコニャックといった他の蒸留酒に以前よりも注目するようになった。こうした動きをファウルも認識している。「収集価値のあるウイスキーは非常に敷居が高いので、アルマニャック、コニャック、ラムを求める人が増えています。より若い世代にとってウイスキー収集の階段を上っていくのは難しいかもしれません。だから、他のダークスピリッツに着目するようになっている。現在、コレクターマーケットでは、ウイスキー以外のカテゴリーも成長しつつあります」とファウルは言う。

それでもウイスキーの優位性は続いている。高級品としての地位を得たことで、オークションハウスの定番カテゴリーに仲間入りしたのだ。「トップレベルのウイスキーの買い手の多くは、ぜいたく品を好む傾向にあります」とファウルは述べ、腕時計や自動車にも興味を持つ人が多いと指摘する。「そして最近は、最高級ウイスキーの買い手はアートコレクターでもあるという傾向が強まっています。こうしたコレクターは、いろいろなカテゴリーでサザビーズとの関係があるのです」

幅広いカテゴリーに興味を持つコレクターの一人に、1926年のマッカランを190万ドルという記録的な額で落札した台湾のコレクター、ジャッキー・Y・チェンがいる。彼が購入したのはマッカランの「Fine & Rare Collection(ファイン&レア コレクション)」の一部で、「時間の旅」が味わえるという売り文句がつけられている。

インスタグラムで最近コンタクトしたところ、チェンは夜中にシガーのオンラインオークションに参加しているところだったが、のちにワッツアップのビデオ通話で話を聞くことができた。

チェンは42歳の実業家で、台北を拠点に500の支店を持つコーヒーチェーン、Louisa(ルイーザ)の経営などを行っている。チェンは初め中国の骨董品を収集していたが、次第にワイン、ウイスキー、そして現代アートにも手を広げるようになった。インスタグラムに投稿されたコレクションの写真には、エディ・マルティネス、奈良美智KAWS(カウズ)草間彌生らの作品がある。また、ビンテージシャンパンのボトルから、1950年代の乾燥オレンジピールの瓶詰めまで、さまざまな収集品もアップされている。

チェンが興味を持っているアートは「新しい今のもの(new and now)」が中心だ(「ニュー・ナウ」と題されたフィリップスのオークションシリーズに由来した表現)。一方で、シェリー樽で60年間熟成したのちに1986年にボトル詰めされたマッカランのビンテージウイスキーについては、過去とのつながりが魅力だと語る。

「これはとても重要なボトルなので、ぜひとも手に入れなくてはと思いました。長く保有するにせよ、再び売るにせよ」と語る。「1926年は二つの世界大戦の間に当たり、深刻な不況下にありました。当時の人たちは、60年後の世界がどうなっているか想像もつかなかったでしょう。私が収集しているのは、何らかの時間的な意味を持つものなのです」

チェンは、コレクションしているウイスキーやワインを開けて飲むことも少なくないが、マッカラン1926年は子孫のためにとっておくつもりだという。190万ドルを支払った逸品を味見してみるつもりがあるかとたずねると、指を立てて左右に振った。「これは単なるウイスキーではありません。中国の骨董の陶器を買うとしたら、花瓶として使うためでしょうか。美術館の所蔵品にはなっても、使うことはありませんよね」(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年9月28日に掲載されました。元記事はこちら

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