春のオークションの目玉はジャコメッティが弟を描いた胸像。サザビーズの予想落札価格は約99億円
アルベルト・ジャコメッティが1955年に制作した胸像が、5月13日に開催のサザビーズ・ニューヨークのイブニング・セールに出品される。オークションの売上額が2年連続で減少し、コレクターたちの財布の紐が堅くなることが予想されるなか、この胸像には約99億円の予想価格が付けられている。

サザビーズ・ニューヨークで5月13日に開催される現代美術のイブニング・セールで、アルベルト・ジャコメッティのブロンズ胸像《Grande tête mince (Grande tête de Diego)》(1955)が出品される。予想落札価格は7000万ドル(約99億円)を上回るという。ジャコメッティが自身の生涯のミューズでスタジオアシスタントだった弟のディエゴに捧げたこの作品は、ジャコメッティの手により塗りが施されている。
5月に開催されるイブニング・セールは、アート市場にとって年間で最も重要な時期の一つとなる。というのも、経済が世界的に不安定な状況に陥っているなか、オークションの売り上げ高は2年連続で減少し、関税や株式市場の変動に対する懸念が買い手を慎重にさせているからだ。また、アート市場の専門家によれば、主要な作品の販売を委託するコレクターは少なく、個人収集家の多くは市場の様子を見ているという。
クリスティーズは春のオークションにレナード・リッジオのコレクションから2月に入手したピエト・モンドリアンの絵画(予想落札価格約5000万ドル[約71億円])を出品予定だが、ジャコメッティの作品はこれを上回る、今シーズンで最も注目度の高い作品といえる。
高さ約65センチメートルの胸像の出品者は明かされていない。しかし、アートネット・ニュースは、2020年に亡くなった不動産王、シェルドン・ソロウの遺品であり、ソロウの息子、ステファン・ソロヴィエフが設立した非営利団体のソロヴィエフ財団を通じて出品されたと報じている。
サザビーズによればこの彫刻は、1956年のヴェネチア・ビエンナーレで展示されたのち、南フランスのマーグ財団で20年近く展示されていたという。その後1980年に、ソロウがマーグ・ギャラリーから購入している。
サザビーズで印象派・現代美術のシニアアドバイザーを務めるサイモン・ショーは、《Grande tête mince (Grande tête de Diego)》を「最も劇的で感情的なジャコメッティ作品」だと評価。さらに、この作品が豊かな塗装面をもつ唯一の鋳造作品であることの希少性を強調し、「深い瞑想的な存在感」があると解説している。
この胸像には6つのバージョンがあり、他のバージョンも過去に市場で取引された実績がある。2010年には5300万ドル(現在の為替で約75億円)で買い手が付き、2013年に出品された像には5000万ドル(同・約71億円)の値が付いている。
ショーはアートネット・ニュースに対し、今回の高い予想価格は、本作の特定のクオリティとジャコメッティの市場評価の高まりを反映していると説明。ジャコメッティ作品で最も高額取引されたのは《Pointing Man》で、1億4130万ドル(当時の為替で170億円)で売却されている。一方、《Le Nez》は暗号通貨プラットフォームTRONの創業者で、大富豪のジャスティン・サンが2021年に7840万ドル(当時の為替で約89億円)で落札している。この彫刻作品は現在、サンとコレクターのデビッド・ゲフィンの訴訟の争点となっている。
《Grande tête mince (Grande tête de Diego)》はイブニング・セール開催に先立ち、5月2日から5月13日まで、サザビーズ・ニューヨークのギャラリーで一般公開される。
なお、アートネット・ニュースによると、ソロヴィエフ財団は、クリスティーズの美術品融資プログラムを通じた融資の担保として、アメーデオ・モディリアーニの《Almaisa》(1916)とマーク・ロスコの《Untitled (Red, Orange, Red)》(1967)の2つの大作を将来的に出品するという。これらの作品に精通した2人のプライベート・ディーラーによれば、両作品を合わせて約1億ドル(約141億円)の価値があるという。(翻訳:編集部)
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