ドクメンタ総監督が退任、反ユダヤ主義論争とドイツ政治的圧力に屈す
5年に1度、ドイツのカッセルで開催されている国際美術展ドクメンタでは、反ユダヤ主義疑惑への対応について批判が拡大する中、総監督を務めるザビーネ・ショルマンが辞任した。
7月16日、ドクメンタはショルマンが退任すると発表。ショルマンの退任については理事会と「互いに合意した」とする。また、今年の開催をめぐる様々な論争にどう対処してきたかについて、今後の公表は控えることも付け加えた。理事会は、ショルマンの退任は「急な決定」であり、暫定的な後任者を探すとしていた(18日、 ドクメンタは、1992年にドクメンタ9の総監督を務めたアレクサンダー・ファーレンホルツが後任にあたることを発表)。
ドクメンタとフリデリチアヌム美術館(カッセル)を管理する理事会は、「残念ながら多くの信頼が失われてしまった」と、声明を公表。「監査役会は、信頼を取り戻すために最善を尽くすことが不可欠だ」と述べている。
インドネシアのアーティスト集団、ルアンルパが芸術監督となりキュレーションした今年のドクメンタでは、2つの反ユダヤ主義論争が巻き起こった。一つは反ユダヤ的なイメージを含む作品をめぐるもの、もうひとつはパレスチナのアーティスト集団が参加したことに関するものだ。
インドネシアのアーティスト集団、タリン・パディによる記念碑的壁画(ユダヤ人の風刺画を含む)は激しい反発を受けて覆い隠され、その後、速やかに撤去された。ザビーネ・ショルマン、タリン・パディ、ルアンルパはこの作品について謝罪。ドイツ連邦議会でルアンルパが政治家を前に、作品について声明を発表する場面もあった。
ドクメンタに参加するパレスチナのアーティスト集団、クエスチョン・オブ・ファンディングは、親パレスチナ運動「BDS(ボイコット、投資撤収、制裁)」を支持しているとして、ドイツの一部から激しい非難を浴びた。ドイツのユダヤ人団体は、クエスチョン・オブ・ファンディングの参加は、イスラエル人アーティストが参加しないことから反ユダヤ主義の証拠であると主張。一方、ルアンルパは、今年の参加者1500人の中にユダヤ系イスラエル人アーティストがいると訴えているが、それが誰なのかは明らかにしていない。
クエスチョン・オブ・ファンディングにまつわる騒動は、主に、今年6月のドクメンタ15開幕までの数カ月間に起こり、開幕直前には、殺害予告とも受け取れる落書きで展示スペースが破壊されるという事件が発生した。
タリン・パディ作品には、ドクメンタの運営陣が対応に時間をかけすぎた、あるいは単に不適切だった、という非難が多く寄せられる。また、作品がどのように展示されたのかを疑問視する声もある。さらに、ドイツの文化大臣クラウディア・ロートのような著名な政治家のように、改正されないのであれば今後のドクメンタから資金を引き上げると脅す者も現れた。
この騒動の結果、ドクメンタでは既にいくつかの変化が見られる。アーティスト集団インランドとともに作品を展示していたアーティストのヒト・シュタイエルは、「構造的に固定された包括的で長引く議論を拒絶し、事実上、和解の受け入れも拒否した」として、展覧会から作品を取り下げたのだ。これに続くように、同日には、フランクフルトのアンネ・フランク教育センター代表のメロン・メンデルが、ドクメンタのアドバイザー職を辞した。
ザビーネ・ショルマンは7月13日に声明を発表し、彼女に向けられた多くの反発に対して反論を試みた。その際に彼女は、現在調査中で、展覧会は順調に進行することを示唆している。
「最優先すべきことは、ドクメンタ15を成功裏に導くために力を合わせることです。公正さ、連帯、そして信頼。特に芸術監督とアーティストに対する信頼です」と、彼女は記す。しかし、先週末に発表された理事会の声明は、さらなる調査を必要とし、それを受けて変更の可能性もまだあることを示している。
理事会はドクメンタ15の選考委員会に対し、「現代の反ユダヤ主義、ドイツと世界の状況、ポスト・コロニアリズム、そして芸術」に関する有識者を招集し、展示作品を十分に精査して反ユダヤ主義の事例を指摘するよう求めていると述べた。理事会は、これには「イスラエル関連の反ユダヤ主義の扇動」も含まれると発言。BDS運動との関連性を指摘したものと思われる。
ロート文化相はフランクフルター・ルントシャウ紙に対し、「今、反ユダヤ的なイメージがどのように展示されるに至ったのかを調べ、美術展に必要な結論を導くことは正しく、必要不可欠だ」と話し、ショルマンの退任を讃えている。(翻訳:編集部)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月16日に掲載されました。元記事はこちら。