アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2021、ベストブース14選
2021年11月30日、「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」がVIP向けに開幕。入場には時間制限が設けられていたが、マイアミ・ビーチ・コンベンション・センターは終日来場者が絶えることなく賑わっていた。
アートディーラーたちは、開場から終了時間まで1日中販売があったと口にする。また、この2年間はコロナ禍による移動制限のためPDFやJPGを見てアートを購入していたが、実際に作品を見たいと持ち望んでいた顔なじみの顧客を見かけるようになったと言う。
来場者の大半は終日マスクを着用していたが、コンベンションセンターのスピーカーからは、顔を覆うよう促す英語とスペイン語のアナウンスが時折流れていた。入場には、認可を受けた医療機関や施設が発行した直近の新型コロナ陰性証明書、ワクチン接種証明書、新型コロナから最近回復したことの証明書のいずれかを提出することが求められ、「新型コロナ証明書チェック済」のリストバンドを着用することになっていた。
以下、筆者が選んだ「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2021」のベスト作品のアーティストとギャラリーを紹介する。
Simone Lee(シモン・リー)/Matthew Marks Gallery(マシュー・マークス・ギャラリー)
今回のフェアで一番の驚きは、マシュー・マークスのブースに展示された小さな彫刻作品だろう。これは紛れもなくシモン・リーの無題の新作だ。2022年のヴェネチア・ビエンナーレでアメリカ館の代表に決まっているリーは、2021年10月にそれまで所属していたハウザー・アンド・ワース(Hauser & Wirth)を離れていた。その際、他のギャラリーに移るかどうか明言していなかったが、正式にマシュー・マークスと仕事を始めたというわけだ。ブースでは、光沢のあるストーンウエアで制作された、花の帽子を着けた黒人女性のトルソーが注目を集めた。
Ja'Tovia Gary(ジャトビア・ゲイリー)/Paula Cooper Gallery(ポーラ・クーパー・ギャラリー)
著名な黒人女性たちの言葉を引用し、「彼女たちの声と考えを励ます」方法として、ネオンサインで表示する作品を制作するジャトビア・ゲイリー。現在進行中のシリーズ第2作である《Citational Ethics(引用の倫理)》では、トニ・モリスンの画期的な小説、『ビラヴド(愛されし者)』からの引用を用いている。それは、小説の登場人物ベビー・サッグスの言葉で、次のようなものだ。「あの白いものたちは、私が持っていたものや夢をすべて奪い、私の心も壊してしまった。世の中には不運など存在しない。白い人たちを除けば」
Matthew Wong(マシュー・ウォン)/Cheim & Read(チェイム&リード)
マシュー・ウォン財団と共同で展覧会を開催した後、チャイム&リードは今年のアートバーゼルに故マシュー・ウォンが紙に描いた作品を3点出品。価格は30万ドルから47万5000ドルで、カラーのものが2点、グレーと黒のものが1点。ウォンならではの静かな美しさを湛えた風景画だ。
Emiliano Di Cavalacanti(エミリアーノ・ディ・カバラカンティ)/Galeria Sur(ガレリア・スール)
ウルグアイのガレリア・スールは、「ディープなラテンアメリカ」をテーマに、長い間ラテンアメリカのアーティストが先住民や黒人の文化をどのように参照し、時には盗用してきたかに焦点を当て、アドリアナ・バレジャオ、ホアキン・トーレス=ガルシア、メストレ・ディディなどの作品を展示。しかし、ギャラリーの共同創設者、マルティン・カスティージョは、エミリアーノ・ディ・カバラカンティが1927年に制作した絵画《Samba(サンバ)》が最高傑作だとしている。この作品は何十年も所在不明で、あるメキシコ人のコレクションで6年前に見つかったもの。今回のフェアでは2100万ドルで出品された。
Tiona Nekkia McClodden(ティオナ・ネッキア・マックロデン)/Mitchell-Innes & Nash(ミッチェル=イネス&ナッシュ)
ミッチェル=イネス&ナッシュのブースでは、ティオナ・ネッキア・マクロデンが2016年に制作した《Se te subió el santo?(あなたはトランス状態?)》をベースとする数点の新作が発表された。2016年の作品は、それまで見せていなかった彼女のアイデンティティを部分的に「開示」するもの。マクロデンは、「これが私、自分を見る初めての方法」と表現している。そのほか、同作品に関連するパフォーマンスのシリーズ写真や、映像作品、最近完成した革製の仮設作業員用装具をもした作品《A.B.4 88B》が展示された。
Jae Jarrell(ジャイ・ジャレル)/Jenkins Johnson Gallery(ジェンキンス・ジョンソン・ギャラリー)
ジャイ・ジャレルは《Bird of Paradise Ensemble, Ode to Tie-Dyed Suede(極楽鳥のアンサンブル、絞り染めのスエードへの頌歌)》(1983/2018)をハワード大学のテキスタイル・デザイン・プログラムの大学院生時代に作り始めた。後に極楽鳥のモチーフをジャケットに刺繍し、AfriCOBRA(アフリコブラ)の創立50周年を記念して、2018年にジャケットと対になるスエードのスカートを制作した。壁に掲示された説明によると、AfriCOBRAは「アフリカ系アメリカ人の体験とアフリカ系ディアスポラに関する肯定的な表現を反映する方法」を追求するため、ジャレルが共同設立した先駆的かつ影響力のあるアーティストグループだという。
Moisés Patrício(モイゼス・パトリシオ)/Galeria Estação(ガラリエ・エスタサォン)
サンパウロのアーティストでアクティビストのモイゼス・パトリシオは、アフリカの伝統的な信仰をもとにブラジルの民間に広まったカンドンブレ教にまつわる場面を、2枚の見事な絵で表現している。この二つの作品《Bori(ボリ)》と《The Offering(捧げ物)》(ともに2021年)には、さまざまな宗教儀式のために集まった人々が描かれている。壁に掲示された説明によれば、パトリシオの作品は、「こうした文化と黒人のプロタゴニズム(主役のように自己主張すること)についての解釈を提示し、カンドンブレ教の儀式の美しさと、何よりもその詩情を描いている」ということだ。
American Artist(アメリカン・アーティスト)/Labor(レイバー)
アメリカン・アーティストは、2020年の説得力あるインスタレーション《Mother of all Demons (すべてのデモの母)》で、1970年代後期の小さいコンピューターのモニターを用いて、いかに人種差別的な偏見がコンピュータやテクノロジーに埋め込まれているのかを検証している。このコンピュータのモニターは、黒地に白い文字が表示されるタイプの最後のもの。現在はその逆で、白地に黒い文字が一般的になっている。
Nicholas Galanin(ニコラス・ガラニン)/Peter Blum Gallery(ピーター・ブルム・ギャラリー)
2021年初めにニコラス・ガラニンは、カリフォルニア州のコーチェラバレーで開催されたビエンナーレ「Desert X」に参加。ロサンゼルスにあるハリウッドサインに似た白い文字で、「INDIAN LAND(インディアンランド)」という造作物を荒野に設置した大規模インスタレーション《Never Forget (決して忘れない)》を発表した。この作品はビエンナーレのための一時的なものだったが、ガラニンは作品を写真で記録することとし、その写真シリーズがピーター・ブルム・ギャラリーで出品された。
Kajahl(カジャール)/Monique Meloche(モニーク・メロキー)
カリフォルニア在住のアーティスト、カジャールは、膨大な画像アーカイブから選んだ彫像をもとに、想像の一場面を描いた新作2点を発表した。題材に用いられるのは、ヨーロッパのアーティストによって作られた黒人の彫像が多い。カジャールは、こうした彫像の画像を再利用し、彫像に人間らしさを与えようとしている。また、彫像とは関係のない植物や動物を描き込むことでひねりを加え、魅力的な絵画に仕上げている。
Caroline Kent(キャロライン・ケント)/Patron(パトロン)
現在、シカゴ現代美術館で個展が開催されているキャロライン・ケントは、これまでのキャリアの中で生み出してきた線、形、色、そして抽象性などの視覚言語を発展させた新作2点を発表。この二つの作品では、家具の一部のような彫刻的な要素を描き、平面的な絵画を鑑賞者の物理的な空間に提示している。
Leonardo Drew(レオナルド・ドリュー)/Anthony Meier Fine Arts(アンソニー・マイヤー・ファイン・アーツ)
アンソニー・マイヤーのブースでは、レオナルド・ドリューの新作を数点、2003年作の1点とともに展示。2003年の作品は、漆喰を砕いた小さな塊が様々な色で立方体状に並べられた抽象的な新作の出発点となっている。作品は紙の支持体に貼り付けられ、額装されている。これまでの作品とは異なり、新作はより小さく、親しみやすいサイズだ。価格は2万8000〜3万8000ドル。
Beatriz Gonzalez(ベアトリス・ゴンザレス)/Galerie Peter Kilchmann(ギャラリー・ペーター・キルヒマン)
ベアトリス・ゴンザレスは、新作《Duelo por desaparecidos(行方不明者を悼む)》で、個人的および政治的な体験としての痛み、悲しみ、哀悼、とりわけ彼女の故国コロンビアにおける体験がもたらすものについての探求を続けている。この作品では、緑色の服を着た人物が円形の支持体に描かれ、木製の家具の上に取り付けられている。壁に掲示された説明には、次のように書かれている。「ここに描写されているのは、家の中で最もプライベートでくつろげる部屋である寝室に住みついているもの」
Gedi Sibony(ゲディ・シボニー)/Greene Naftali(グリーン・ナフタリ)
ゲディ・シボニーの作品が展示されているグリーン・ナフタリのブースの一角は、一息つける場所だった。シボニーの彫刻作品は、木片や金属片など様々な拾得物で作られている。展示の目玉である《The Encounter of All Miraculous (あらゆる奇跡との遭遇)》(2021)は、空の木枠のような作品だ。ギャラリーの担当者は、この木枠は「光で彫刻する」方法である「空白の瞬間」を表したものと説明していた。
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年12月1日に掲載されました。元記事はこちら。