1400年前の十字架がアブダビで出土。キリスト教徒の存在を示す初の証拠、東方教会との繋がりも示唆
アラブ首長国連邦アブダビのシルバニヤス島で2025年1月から行われている発掘調査で、1400年前の石膏製の十字架を発見したとアブダビ文化観光局(DCTアブダビ)が発表した。この十字架は、同島における古代のキリスト教徒の暮らしを知るための鍵となると期待が集まっている。

2025年1月からアブダビ文化観光局(DCTアブダビ)がアブダビのシルバニヤス島で実施している発掘調査で、1400年前のキリスト教の十字架が見つかった。
シルバニヤス島はアブダビの西地区アルダフラに位置する8つの島のうちの1つで、4世紀から6世紀にかけてキリスト教がアラビア半島全域に広がった際に、この島にも教会と修道院が建てられた。だがその後キリスト教の勢いは衰え、8世紀には修道院が放棄された。その間、同島ではキリスト教徒とイスラム教徒が共存したと伝えられている。同様の遺跡は、アブダビのウンム・アル・クウェインや、クウェート、イラン、サウジアラビアでも確認されている。
十字架が見つかったのは、1992年の調査で修道院付近から発掘された9つの小さな住居の1つ。十字架は長辺27センチの石膏製で、イエスが磔刑に処されたと信じられている場所、ゴルゴダを想起させる階段状のピラミッドや、基部から芽生える葉など、イラクやクウェートの遺跡と類似した意匠が取り入れられていた。そのことから、現在のイラクを起源とする東方教会と繋がりがあったと考えられる。

これまで住居の用途は解明されていなかったが、今回の発見により、修道院の一部であったことが証明された。研究者たちは、十字架は修道士が住居での内省の時間に使用したと考えている。
十字架の発見について、DCTアブダビの考古学者であるマリア・ガジェフスカは、公式動画で次のように話した。
「我々はいま、非常に興奮しています。なぜなら、これまで住居群がキリスト教徒によって使われていたという具体的な証拠はなかったからです」
実に30年振りとなる本格的な調査での大きな成果に、DCTアブダビのモハメド・ハリファ・アル・ムバラク会長は声明でこう称えた。
「シルバニヤス島からの継続的な発見は、私たちの文化的遺産の規模の大きさと、その保存と理解に継続的に取り組む重要性を強調しています。DCTアブダビがこれらの貴重な物語を発掘し続ける中で、私たちはアブダビの多様な遺産の保存、推進、保護への献身を再確認しています。これらの発見は過去との結びつきを深め、長い間私たちのコミュニティを特徴づけてきた結束と相互尊重の精神を受け入れるよう、未来の世代を鼓舞するものです」
現在のシルバニヤス島はガゼルやハイラックスが生息する自然保護区として有名だが、DCTアブダビは、観光客が訪れるビジターセンターの隣に古代遺跡にヒントを得た多宗教対応教会を建てるなど、遺跡の周知に励んでいる。発掘については、今後数年間、同島でのキリスト教徒の暮らしを明らかにするために住居群部分の調査に注力する予定だ。(翻訳:編集部)
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