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  • 2022.02.11

2021年オークションハイライト:過小評価されてきた作家や若手が最高落札額を更新

2021年、大手オークションハウス各社は、コロナ禍で中断していたイブニングセールに再び多くの時間とエネルギーを注いだ。その甲斐あって、久々に世界中のコレクターがオークションに集まり、さまざまなアーティストの落札価格で記録が塗り替えられている。

2021年11月だけを取っても、特筆すべき結果がいくつもあった。サザビーズではハリー&リンダ・マックローのコレクションから出品されたアグネス・マーティンの絵画作品が入札合戦を巻き起こし、最終的に1770万ドルという記録的な価格で落札された。クリスティーズはテキサスの石油王エドウィン・コックスのコレクションの競売を手掛け、その中でギュスターヴ・カイユボットの絵画が過去最高額を記録した。ほかにも、フリーダ・カーロジャクソン・ポロック、リー・ボンテクーなどの作品に過去最高価格が付いている。

このような高額落札に注目が集まる一方で、中堅オークションハウスでも興味深い動きが見られた。中でも、Swann Auction Galleries(スワン・オークション・ギャラリーズ)で、アフリカ系アメリカ人アーティストを専門とする部門が2021年に過去最高の業績を残したことは注目される。

以下、2021年に開催されたオークションで過去最高額が生まれた10件の事例を紹介する。

サンドロ・ボッティチェリ《メダリオンを持つ若い男の肖像》(1480年頃)

サンドロ・ボッティチェリ《メダリオンを持つ若い男の肖像》(1480年頃) Photo: Julian Cassady Photographyサンドロ・ボッティチェリ《メダリオンを持つ若い男の肖像》(1480年頃) Photo: Julian Cassady Photography

サンドロ・ボッティチェリによるこの肖像画は、予想落札価格8000万ドルを上回る9220万ドルで落札された。これは、オールドマスター(18世紀以前のヨーロッパの著名画家)の作品としては過去2番目に高い落札額だ。同作品は、ニューヨークの不動産王、故シェルダン・ソローのコレクションからの出品で、ソローが1982年に81万ポンド(130万ドル)で購入したもの。今回のオークションでボッティチェリ作品としては過去最高額となり、2013年にクリスティーズで《聖母子と若き洗礼者ヨハネ(通称ロックフェラー・マドンナ)》(15~16世紀頃)が1040万ドルで落札された時の記録を更新した。

この作品を手に入れたのは、サザビーズ・ロンドンの個人顧客アドバイザー、リリヤ・シトニカを通して競売に参加したロシア人顧客だった。ボッティチェリ作品の記録更新は、低迷するオールドマスター部門に新しい息吹をもたらし、古い時代の傑作も現代アートと同じような成果を上げられることを証明している。

ギュスターヴ・カイユボット《窓辺の若い男》(1876)

ギュスターヴ・カイユボット《窓辺の若い男》(1876) 写真:Alamy/アフロギュスターヴ・カイユボット《窓辺の若い男》(1876) 写真:Alamy/アフロ

2021年11月に行われた印象派のイブニングセールで、ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館がギュスターヴ・カイユボットの《窓辺の若い男》(1876)を5300万ドルという記録的な価格で落札。ほんの2年前にクリスティーズのオークションで更新されたカイユボットの最高落札額、2200万ドルを大きく上回る結果となった。

《窓辺の若い男》は、テキサス州の石油王エドウィン・コックスのコレクションからの出品で、コックスは2020年に亡くなるまで50年間この絵を所有していた。カイユボット以外にも、フィンセント・ファン・ゴッホエドガー・ドガの作品がコックスの単一所有者オークションにかけられている。コックス・コレクションの売り上げは、全体で3億3200万ドルに達した。

ピーター・ドイグ《のまれる》(1990)

ピーター・ドイグ《のまれる》(1990) Photo: Christie'sピーター・ドイグ《のまれる》(1990) Photo: Christie's

2021年11月に行われたクリスティーズのイブニングセールで、ピーター・ドイグの大作《のまれる》(1990)が3900万ドルで落札された。クリスティーズ・ニューヨークの会長、アレックス・ロッターとの電話を通して競売に参加していた入札者がこの絵を手に入れている。雑草や木の切り株が突き出た池に浮かぶ白いボートを描いたこの作品が前回競売にかけられたのは2015年で、今回の出品者となったヨーロッパのコレクターが2600万ドルで落札していた。

《のまれる》は、2017年にニューヨークのフィリップスによるオークションで、《Rosedale(ローズデール)》(1991)が記録したドイグ作品の最高落札額を更新している。2021年にオークションハウス各社は、存命アーティスト作品の販売に例年以上に注力していたが、ドイグの落札額は、この方針が実を結んだことを示すものとなった。

フリーダ・カーロ《Diego y yo(ディエゴと私)》(1949)

フリーダ・カーロ《Diego y yo(ディエゴと私)》(1949) Photo: Sotheby'sフリーダ・カーロ《Diego y yo(ディエゴと私)》(1949) Photo: Sotheby's

30年間にわたり個人蔵だったフリーダ・カーロの自画像が、2021年11月にサザビーズ・ニューヨークで3490万ドル(手数料込み)で落札された。絵の中では涙を流すカーロの額に、彼女の夫で壁画家のディエゴ・リベラの顔が重ね合わされ、第三の目として表現されている。この結果は、2016年にニューヨークのクリスティーズで《Two Nudes in the Forest (The land itself) (森の中の二人のヌード〈大地そのもの〉)》(1939)が落札された時の記録、800万ドルの4倍強だ。

保証付きで出品された《Diego y yo(ディエゴと私)》は、コレクターのエドゥアルド・F・コスタンティーニによって購入され、公開オークションで落札されたラテンアメリカの美術品として最高額、女性としては最も高い落札額が付いた作品の一つとなった。だが、カーロの記録はジョージア・オキーフには及ばない。オキーフの1932年の絵画、《Jimson Weed/White Flower No.1(チョウセンアサガオ/白い花No.1)》は、2014年に女性アーティストの最高額である4440万ドルで落札されている。

アグネス・マーティン《Untitled #44(無題 44番)》(1974)

アグネス・マーティン《Untitled #44(無題 44番)》(1974) Photo: Sotheby'sアグネス・マーティン《Untitled #44(無題 44番)》(1974) Photo: Sotheby's

サザビーズで2021年11月に行われたハリー&リンダ・マックロー・コレクションのオークションでは、マーク・ロスコジャクソン・ポロックなどと並んでアグネス・マーティンの《Untitled #44》が出品された。1974年に制作され、キャンバスに白いストライプが描かれたこの作品の競売は、同オークションで最も盛り上がった入札合戦の一つとなっている。5人が競り合った末に勝者となったのは、サザビーズ・アジア会長のパティ・ウォンとの電話を介して参加していた入札者で、落札額は1770万ドル(プレミアム付き)。この結果は、2016年にニューヨークのクリスティーズでマーティンが打ち立てた最高記録の1060万ドルを大きく上回るものだ。

個人コレクターも、美術館も、歴史的に女性や有色人種のアーティストの作品が過小評価されてきたことで生じたコレクションの偏りを解消しようとしている。そんな中、マーティン作品の価格は、2015年にテート・モダンで開催された彼女の回顧展以降、上昇を続けている。今回の記録は、これまで見落とされてきた作家を再評価しようとする市場全体の動きが、美術館のみならずオークションにも及んでいることを反映している。

アモアコ・ボアフォ《Hands Up(手を上げろ)》(2018)

アモアコ・ボアフォ《Hands Up(手を上げろ)》(2018) Photo: Christie'sアモアコ・ボアフォ《Hands Up(手を上げろ)》(2018) Photo: Christie's

12月にクリスティーズ香港で行われた現代アートのイブニングセールでは、サングラスをかけた若い女性を描いたアモアコ・ボアフォの《Hands Up(手を上げろ)》(2018)の競売に、香港、ニューヨーク、ロンドンから多くの入札者が集まった。長い競り合いを制したのはアジアの入札者で、予想落札価格の200万香港ドルの実に13倍となる2670万香港ドル(340万ドル)で決着した。

ガーナ出身のボアフォにとっては、2019年のオークションで達成した100万ドルの3倍の金額での記録更新となっている。香港のイブニングセールでボアフォを含む若手の作品が白熱した入札合戦になったことは、アジアのアートマーケットのハブである香港で、新進アーティストに対する購買意欲が相変わらず旺盛であることを示している。

バーバラ・クルーガー《Untitled (Your Manias Become Science) (無題〈あなたの熱狂が科学になる〉)》(1981)

バーバラ・クルーガー《Untitled (Your Manias Become Science) (無題〈あなたの熱狂が科学になる〉)》(1981) Photo: Courtesy Christie'sバーバラ・クルーガー《Untitled (Your Manias Become Science) (無題〈あなたの熱狂が科学になる〉)》(1981) Photo: Courtesy Christie's

バーバラ・クルーガーの《Untitled (Your Manias Become Science)(無題〈あなたの熱狂が科学になる〉)》(1981)は、ピクチャーズ・ジェネレーションの作家たちによる作品の一つ。ニュージャージー州在住の神経外科医、エイブ・スタインバーガーが所蔵していたもので、クリスティーズが2021年11月に開催した近現代アートのオークションに出品された。シカゴ美術館で2021年10月に始まったクルーガーの回顧展の会期中というタイミングで行われたオークションで、この作品は120万ドルで落札されている。クルーガー作品としては、2011年にクリスティーズでピーター・ノートンのコレクションが売却された時に記録した90万2500ドルを上回る過去最高額だ。

クルーガーが記録を塗り替えた週には、同じく先駆的な女性アーティストであるリー・ボンテクーも落札額の最高記録を更新した。女性アーティストの作品は男性アーティストに比べ、価格が低く止まりがちだ。しかし、彼女たちが美術史に与えた影響は、その作品の市場価値よりはるかに大きい場合が多い。クルーガーとボンテクーが相次いで落札額の記録を更新したことは、そうした事実を痛感させるものだった。

エリザベス・キャトレット《Head(頭部)》(1943)

エリザベス・キャトレット《Head(頭部)》(1943)エリザベス・キャトレット《Head(頭部)》(1943)

ニューヨークのSwann Auction Galleries(スワン・オークション・ギャラリーズ)で開催されたアフリカ系アメリカ人作家作品のオークションでは、エリザベス・キャトレットの石彫作品《Head》(1943)が、予想落札価格10万ドルの4倍以上の48万5000ドルで落札された。

黒人女性がアーティストとして、より自由に活動できる環境を求め、キャトレットは1947年に米国からメキシコに移住している。石灰岩で作られたこの像は、移住以前に彼女が制作したものとして知られる2点のうちの1点。今回の落札額は、2019年にやはりSwann Auction Galleriesで記録された、これまでの最高落札価格38万9000ドルを超えるもので、今後キャトレット作品の人気がさらに高まる可能性を示唆している。

サルマン・トゥール《Girl with Driver(少女と運転手)》(2013)

サルマン・トル《Girl with Driver(少女と運転手)》(2013) Photo: Phillipsサルマン・トゥール《Girl with Driver(少女と運転手)》(2013) Photo: Phillips

2021年6月にフィリップスと中国のPoly Auction(ポーリーオークション)が香港で共同開催した現代アートのイブニングセールで、注目度が高かったのは新進気鋭のアーティストたちだった。サルマン・トゥールの《Girl with Driver(少女と運転手)》(2013)は、予想落札価格120万香港ドル(15万5000ドル)の5倍の550万香港ドル(89万ドル)で落札されている。これは、前月にトゥールがサザビーズで記録した86万7000ドルを上回る結果で、彼がオークションで最も勢いのある若手アーティストの一人であることを重ねて裏付けることになった。

フランク・ドブソン《Female Torso(女性のトルソー)》(1924)

落札価格:280万ドル落札価格:280万ドル

《Female Torso(女性のトルソー)》は女性の胴体を象った砂岩彫刻で、1924年に制作されたもの。作者はイギリスのアーティスト、フランク・ドブソンだが、彼の知名度は高いとは言えない。そのため、3月にロンドンで行われたサザビーズのイブニングセールでは、大きな驚きを生んだ競売の一つになった。かつてアルベルト・ジャコメッティが所有していたこともあるこの作品は、その後30年間、個人コレクションに収められていた。

結果は、予想落札価格25万ポンド(34万4000ドル)の8倍もの204万ポンド(280万ドル)という記録的な高値での落札となった。当然ながら、2005年にドブソンが記録した33万8500ポンド(64万3000ドル)をはるかに上回るものだ。オークションハウス各社は2021年の目標として、過小評価されているアーティストによる良質な作品の競売を挙げていた。ドブソンの事例は、長い間公開されていなかった希少な作品が、予想を超えた結果をもたらす可能性を示している。

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年12月22日に掲載されました。元記事はこちら

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