男性器を模した「魔除け」が英クリケットクラブから出土──小さな遺物が伝える古代ローマの信仰
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
イギリス南西部のカーライルにある発掘現場で、長さ約3センチの男性器をかたどった護符が見つかった。約1800年前の古代ローマ人の信仰を伝える遺物として注目されている。

およそ1800年前に作られた、男根をかたどったブロンズ製のお守りが、イギリス・カーライルのクリケットクラブから出土した。長さはわずか3センチメートルほどの小さな遺物だが、古代ローマ時代の人々の信仰や習俗を伝える資料として注目されている。
このクリケットクラブでは2017年から発掘調査が続けられており、現場はかつて公衆浴場だった可能性があるとみられている。これまでにも陶器や柱の破片などが見つかっていたが、魔除けと考えられる遺物の発見は今回が初めてだという。発掘現場を監督するフランク・ジエッコはBBCの取材にこう語っている。
「古代ローマ人は極めて迷信深く、これは幸運のお守りとして身に付けられていたと考えられます。男根の形をした魔除けがこの発掘現場で見つかっていなかったのはおかしいと思っていたんです。小さくて美しいですよね」
ローマ世界において、男根は現代人が抱く印象とは大きく異なる意味を持っていた。生殖力や豊穣の象徴であると同時に、災いや邪視を退けるお守りとしても用いられ、ペンダントやベルトの飾り、家屋や街道の壁面装飾など、さまざまな形で人々の暮らしに入り込んでいた。ポンペイをはじめ各地の遺構でも同様の例が確認されており、子どもや旅人、軍人が身につける小型のお守りも珍しくなかった。
カーライルはローマ時代、「ルグウァリウム(Luguvalium)」と呼ばれ、ハドリアヌスの長城西端にほど近い軍事・交易の拠点だった。2つの主要街道が交わるこの地には、1000人規模の駐屯部隊が置かれ、帝国北方のフロンティアを支える都市のひとつとして発展した。今回の浴場跡が建てられた西暦200年前後は、セプティミウス・セウェルス帝の治世にあたり、都市の整備や再編が進んだ時期でもあった。
この遺跡の重要性を示す発見は、今回のお守りだけではない。クリケットクラブでの発掘調査では、青銅器時代、清教徒革命期、エドワード朝期など、複数の時代にわたる遺物も数千点単位で出土している。とりわけ2023年には、高さ3.5〜4.5メートルに及ぶ巨像の一部とみられる砂岩製の頭部が2点発見された。これらをセプティミウス・セウェルス帝と皇后ユリア・ドムナに結びつける見方もあり、ヨークに滞在したセウェルス朝の宮廷と、この建築物との関連が注目されている。
出土した遺物の数々は、カーライル中心部の博物館「タリー」で順次公開されている。同館は1893年に開館した総合博物館で、ローマ国境に関する展示や美術コレクションで知られる。長らく「タリー・ハウス・ミュージアム・アンド・アート・ギャラリー」の名で親しまれてきたが、大規模改修を機に正式名称を「タリー」へ改めた。
「1800年前にカーライルに暮らした人々の心のあり方を覗き見るような発見だ」とジエッコは語る。何世紀ものあいだ地中に眠っていた小さなブロンズのお守りは、軍事拠点としてのカーライルの姿だけでなく、災いや不運を避けようとした等身大のローマ人の暮らしを今に伝えている。

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