初監督作品を発表したエマ・ワトソンが魅せる、強い信念と知性に彩られた芸術【アートを愛するセレブたち Vol. 4】
幼い頃の演劇学校での経験を機に、真のフェミニストとして開眼し、類い稀なる才能と知性でより良い社会の実現に向け尽力し続ける俳優エマ・ワトソン。プラダの新フレグランスのイメージモデルを務める傍ら、初となるビジュアルアート監督作品を発表した彼女は、芸術を通じて社会を啓蒙するメッセージを発信し続ける。
「芸術は、ジェンダー平等の論理をわかりやすく表現できる一方、その精神を血肉に変換させることを容易にします。ロジックを超えて肉体と感情に訴える芸術は、私たち自身に変化をもたらし、行動を起こさせます。誰だって素晴らしい映画を観ずにはいられない。素晴らしい本を何度も読み返さずにはいられない。画期的な芸術を鑑賞せずにはいられない。これら芸術には、あなたを永遠に変えてしまう力があるのです」
2016年、国連グッドウィルアンバサダーに就任直後にニューヨーク・マンハッタンのパブリックシアターで開催された、「国連Women's He For She Arts Week」でこうスピーチした俳優のエマ・ワトソン。自信をもってフェミニストを名乗る彼女は、フェミニスト・ブッククラブ「#OurSharedShelf」を立ち上げるなど、長きにわたり、ジェンダー平等の啓蒙活動に尽力する活動家でもある。
マヤ・アンジェロウの言葉に励まされて
「人はあなたに言われたことも、されたことも忘れるかもしれない。でも、あなたにどんな気持ちにさせられたかは、決して忘れることはないのです」
映画や美術館で見る芸術作品が、ジェンダー平等社会を実現する鍵となることを常に訴えてきたワトソンは、活動家として敬愛する故マヤ・アンジェロウのこの言葉に、自身が俳優と言うパフォーミングアートに人生を賭ける理由が凝縮されているという。
そんな彼女は、かつてWonderland誌で自宅のインテリアを披露した際、部屋に飾られていたセルフ・ポートレートが大きな注目を集め、突出した絵画の才能でも世界を驚かせた。
当時彼女を取材したライターのアマンダ・フォアマンによると、「彼女の自宅はパリやロサンゼルスの蚤の市で購入した家具やファブリック、美しい工芸品に囲まれていました。そこには彼女が制作したと思われる素晴らしい美術作品もあり、中でもひときわ目を引いたのがセルフ・ポートレートです。レンズをこちらに向けてカメラを構える彼女の表情は、観る者に強い何かを訴えてきます」
「彼女が制作したと思われる」とフォアマンが表現したセルフ・ポートレートが実際彼女によるものなのか、はっきりとしていない。だが、2022年8月に彼女のインスタグラムに投稿された自作の《2013年、New York》を見る限り、本人作であると断定できるだろう。
自分がやりたいことをするのに、誰かの許可はいらない
その直後に、プラダの新フレグランス「Prada Paradoxe」のイメージモデルに起用されたワトソン。同時に、同キャンペーンのショートフィルムなどのビジュアルアートの監督を務めることも発表され、世界を賑わせた。ローンチに際して、彼女はこう語っている。
「プラダからイメージモデルのオファーが来た時、『ビジュアルをディレクションさせてくれるなら引き受けます』と答えました。これまでどこからも監督の話がこなかったので、この機会に絶対にやりたいと思ったのです。自分がやりたいことをするのに、誰かの許可は必要ありません。私はコミュニケーションが大好きですし、得意だと思っています。だから、これは絶好のチャンスだと思いました。私は、こうして初監督作品を世界中のみなさんに披露できることを嬉しく思います」
人間は、パラドックスに満ちている──男性・女性に関わらず、いかなるジェンダーも、性別を理由に内なる感情を自由に表現することを阻止されてはならない、というのがワトソンの信条だ。社会に深く根を下ろす「既存のジェンダーロール」からいまこそ解放されるべきだと訴えるこの稀代の俳優は、これからも、芸術を通じて真に平等な社会の実現のために戦い、様々な変革をもたらしてくれるだろう。そしてそのフィールドは、今回の初監督作品を皮切りにさらなる広がりを見せるに違いない。