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「ピカソの遺体」が投げかけるアートの観光化への批判

先週マドリードで開催された現代アートフェアARCOで、来場者の注目の的になったのは、アートの歴史に大きな足跡を残すパブロ・ピカソの「遺体」だった。

エウへニオ・メリーノ《Aqui Murio Picasso》(2017) Photo: Courtesy Eugenio Merino

パブロ・ピカソの遺体を模した2017年の彫刻作品《Aquí Murió Picasso》(「ピカソはここで死んだ」の意)は、スペインのアーティスト、エウヘニオ・メリーノが制作したもの。Los Interventoresのキュレーションで、ADN Galeriaのブースに出展された。

本作の着想源はピカソの実際の遺体ではなく、白地にブルーのボーダーシャツと白い麻のパンツにエスパドリーユという、多くの人が思い浮かべるピカソのイメージだ。また、ピカソの身長は162cmほどとされるのに対し、彫刻の大きさは180cmを超える。

スペインのEl País紙によると、この彫刻には初日から「来場者が群れをなした」という。また、La Vanguardia紙はこの作品を「死のおみやげ化」、「自撮り中毒者がおびき寄せられる場所」、「インスタグラムで確実に『いいね』をもらう方法」などと皮肉を込めて評している。

確かに、ピカソの遺体と一緒にセルフィーを、と言わんばかりの作品だが、その背後にある意図は、マスツーリズムや一大産業になったアートフェア、文化のセルフィー化への批判だ。作者のメリーノは、US版ARTnewsのメール取材にこう答えた。

「アートフェアを観光地と例えると、この彫刻は観光名所の役割を担った作品であり、ディーン・マッカネルの著書『ザ・ツーリスト』(1976)にインスピレーションを得て制作しました。本書の中で、観光名所の特徴が示されているのですが、その特徴とはまさに、現在のアート界やアートフェアにも通じます」

メリーノは「自らのイメージ向上のために文化を利用する公的機関や企業は少なくありません」と続け、次のように述べた。

「この作品は売るためのものであると同時に、そのシンボルとしての価値をオープンに示すことが重要だと思いました。つまり、観光名所で自撮りをするように、ピカソが亡くなった場所で、そこを訪れた人々=ここでいう「アートを消費する人々」が記念に自撮りをしたくなるような価値です。もちろん、(それは)他の観光名所と同じく欺瞞ですが」

ちなみにこの作品はエディション3で、4万5000ユーロ(約640万円)の値が付けられていた。(翻訳:石井佳子)

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