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女性アーティストらの作品が新記録を樹立。フィリップスのイブニングセールの結果報告

3月2日ロンドンで、フィリップスが競合のサザビーズやクリスティーズに続いて近現代美術専門のイブニングセールを開催。最低予想落札価格を上回る1630万ポンド(約27億円)を売り上げたが昨年から半減。そんな中でも好調だったのは、女性アーティストによる作品だ。

3月2日に開催されたフィリップスのイブニングセールの様子。Photo: Courtesy Phillips

ロシア系企業であることへの反発から規模は縮小

ウクライナ戦争が激化し、フィリップスロシア人の所有であることが厳しく問われる中で開催された昨年3月のオークションは、今年より10ロット多く、2990万ポンド(約47億円)の売り上げだった。

今回はフランスのコレクター、マルセル・ブリエントがゲルハルト・リヒターの1983年の作品を委託しており、1000万ポンド(約16億円)で落札されると予想されていたが、セール前に出品が取り下げられた。それがなければ、売上総額はもっと高かっただろう。

出品数は23ロットのみと、フィリップスがロンドンで開催するイブニングセールとしては最も小規模に。しかし、そのすべてが落札され「ホワイトグローブ・セール」となっている。

中でも良い結果を収めたのが、ニューヨークメトロポリタン美術館展覧会が予定されているセシリー・ブラウンら、女性アーティストたちの作品だ。すでにロンドンで人気を集めるキャロライン・ウォーカーは先週クリスティーズとサザビーズが開催したオークションにも作品が出品されたが、今回のフィリップスでは代表作《Threshold》(2014)が競りにかけられ、オンラインと電話による参加者が10分間にわたり入札合戦を繰り広げた結果、予想落札価格の20万ポンド(約3千万円)の3倍以上となる73万ポンド(約1億2千万円)で落札された。この作品は、手数料込みで92万7100ポンド(約1億5千万円)となり、ウォーカーの最高額を樹立した。

また、ロンドンのアンジェラ・ハイシュが2019年に発表した《Egg White Blue》は7万6200ポンド(約1200万円)で落札され、こちらも最高額を更新。2022年に記録した5万400ドル(約730万円)の2倍に迫る結果となった。

女性アーティストの作品に対するコレクター需要の高まり

セシリー・ブラウン《Skulldiver II》(2006)Photo: Courtesy Phillips

一方、エロティックなイメージを持つセシリー・ブラウンの抽象画《Skulldiver II》(2006)は、最終落札価格が180万ポンド(約3億円)に達し、予想落札額を上回った。この作品は手数料込みで220万ポンド(約3億6千万円)となったが、これはブラウンの2018年の記録である670万ドル(約9億円)と比べると、まだ控えめな金額と言える。

イギリスの画家サラ・ボールlは、2020年の肖像画《Elliot》で新記録を達成した。この作品は、中国とイギリスからの入札者による競りの結果、12万650ポンド(約2千万円)で落札された。ボールの記録は、2022年10月にクリスティーズ・ロンドンのセールでの9万4500ポンド(約1500万円)以来のものとなる。

ギャラリーでは、すでに定評のある女性アーティストの需要が高く、専門家は「コレクターが彼女らの作品を持ちたがるようになった」と話す。今回の結果は、その傾向を裏付けるものと言えるだろう。

複数の存命の女性アーティストが記録を更新したとはいえ、このセールのバロメーターとなったのは、あくまで巨匠アーティストの作品。フィリップス社のCEOエドワード・ドルマンは、オークション終了後の記者会見で、20世紀の「巨匠」たちがこのオークションでどのように受け止められたかについて、「いつもどおり、確実な取引だった」と振り返っている。

そのほか、ジャン・デュビュッフェアンセルム・キーファージェフ・クーンズの作品は、48万2600ポンド(約8千万円)から約100万ポンド(約1億6千万円)の間で、すべて予想落札価格内で落札された。(翻訳:編集部)

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