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フリーズ・ロサンゼルスにはどんな効果があったのか? アート関係者の評価

2018年、Frieze(フリーズ)が翌年からアートフェアの開催地としてロサンゼルスを加えることを発表。その時には、期待感とともに懐疑的な見方もあった。果たして、メジャーな国際的アートフェアが、ロサンゼルスのようにまとまりがなく、移り気で、だだっ広い都市に定着するだろうか、と。

フリーズ・ロサンゼルスのバナー  Mark Blower/Courtesy Frieze
フリーズ・ロサンゼルスのバナー Mark Blower/Courtesy Frieze

当時、Artnet News(アートネットニュース)のコラムニスト、ティム・シュナイダーは、ロサンゼルスを「アートフェアの墓場」とまで呼び、「フリーズ・ロサンゼルスは、始まったと同時に息絶えてしまうだろう」と予言していた。だが、その後2回のフェアを成功させ、今年2月17〜20日に3回目を開催したフリーズ・ロサンゼルスは、否定的な考えが誤りだったことを示している。ロサンゼルスは、ようやくその充実したアートシーンに見合った規模のフェアを受け入れる準備ができたようだ。では、ロサンゼルスのアートマーケットに、フリーズはどんな効果をもたらしたのだろうか。

ロサンゼルスに拠点を置く何人かのギャラリストは、フリーズ・ロサンゼルスの成功は、この街が国際的なアートの中心地であることの反映だと感じている。「フリーズ・ロサンゼルスがアートマーケットを変化させたというよりは、私たちが常に感じていたことを確信させてくれたのだと思います。ロサンゼルスは、世界でもユニークな文化を生みだす場であり、そこには国際的な影響力を持つ独自のアートシーンがあるからです」。2015年にロサンゼルス支店を開廊したHauser & Wirth(ハウザー&ワース、スイスに本拠地を置く国際的な現代アートギャラリー)の代表マーク・ペイヨはメール取材にこう答えている。

ロサンゼルスという都市は長い間、アートが作られてはいても、ほとんど売れない場所だとされてきた。しかし、今ではコレクターの層が厚みを増している。50年近く前に設立されたヴェニスビーチ近くのギャラリー、L.A. LouverL.A.ルーバー)のディレクター、キンバリー・デイビスはこう語る。「長いこと地元のギャラリーは軽視されていて、美術品を買いたい人はニューヨークまで出かけていましたね。最近は、ニューヨークのギャラリストがロサンゼルスに出張してきます。最初の頃はアーティストの世話をするためでしたが、今はこの街の顧客に会うためです」

Hauser & Wirth、Sprüth Magers(スプルース・マーガー)、Deitch Projects(ダイチ・プロジェクツ)以外にも、ニューヨークや欧州に本拠地を置くギャラリーがいくつも、この10年間にロサンゼルスの拠点を開設した。そして、アート業界がコロナ禍前の勢いを取り戻しつつある中、さらに多くのギャラリーが続々とロサンゼルスへの出店計画を発表している。Sean Kelley(ショーン・ケリー)、Lisson Gallery(リッソン・ギャラリー)、Pace Gallery(ペース・ギャラリー)、Hole(ホール)、そしてSargent’s Daughters(サージェンツ・ドーターズ)とShrine(シュライン)の共同出店などがこれに含まれる。また、David Zwirner(デビッド・ツヴィルナー)も西海岸の拠点を強化中だ。

スイス発の巨大アートフェア、アート・バーゼルがマイアミや香港に与えた文化的な箔(はく)付けは「バーゼル効果」と呼べるかもしれないが、フリーズ・ロサンゼルスの影響は少し異なる。何もないところに火を起こしたというより、すでにある炎をあおいで大きく燃え上がらせたというところだろうか。昨年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチでは、参加した254軒のギャラリーの中でマイアミのギャラリーは3軒だけだったが、今年のフリーズ・ロサンゼルスは、参加ギャラリー100軒のうち40軒近くが地元のギャラリーだった。

2003年にロサンゼルスに自分の名前を冠したギャラリーを設立し、最近ニューヨークへの進出を発表したデビッド・コルダンスキーは、次のように述べている。「ロサンゼルスは歴史的に周縁的な位置付けで、かつ中心になるものがない街とされてきました。そういう都市にとって、定期開催される国際的アートフェアは、地域の芸術活動をアピールするうえで大きな役割を果たしてくれるでしょう」

地元のアートディーラーがフリーズ・ロサンゼルスの成果の一つとして挙げるのは、この街に点在するそれぞれ異質なアート・コミュニティを活気づけたことだ。2008年にチャイナタウンに自身の名を冠したギャラリーを設立したチャーリー・ジェイムズは言う。「この街は皆がバラバラに行動していて、交友関係が広がりにくいんです。まったく面識のなかったロサンゼルスのコレクターと、ゾナ・マコ(メキシコシティで開催されるアートフェア)で知り合うなんてことはしょっちゅうでした」

また、2009年にギャラリーをオープンしたフランソワ・ゲバリーは、次のように述べている。「フリーズは、アート界がロサンゼルスに集結する1週間のイベントを作りましたが、それは瞬く間に私たちにとって最も重要な1週間になったんです。この街のエネルギーは、いくつものスペースやイベントに分散しているので、それを1週間にまとめるのは簡単なことではありませんから」

どのアートフェアも、原動力となるのは売り上げだ。だが、フリーズ・ロサンゼルスの成功の理由として、プログラムの幅広さを挙げるギャラリストもいる。ロサンゼルス現代美術館の館長としての波乱含みの任期を終えた4年後の2017年に、自身のギャラリーのロサンゼルス店をオープンしたジェフリー・ダイチは、次のように述べている。「第1回目のフリーズ・ロサンゼルスは商業的なアートフェアの枠を超えて、野心的なプロジェクトやすばらしいコミュニティイベントを組み込んでいました。アーティスト、コレクター、美術館、ギャラリーなど、アート界のすべての関係者に好意的に迎えられています。これは、どのアートフェアにも言えることではありません」

2022年のフェアに登場するユニークなプロジェクトの一つが、「BIPOC(*1)エクスチェンジ」だ。ロサンゼルスでアートと社会運動を掛け合わせた活動を展開する10の団体を紹介するスペースで、ロサンゼルス貧困局、GYOPO(韓国系移民の文化団体)、People’s Pottery Project(ピープルズ・ポッタリー・プロジェクト)、Contra Tiempo(コントラ・ティエンポ)などが参加する。アーティストのターニャ・アギニガが主催するBIPOCエクスチェンジのイベントは、メイン会場に隣接するビバリー・ヒルトン内で行われ、チケットなしで入場できる。

*1 黒人、先住民、その他の有色人種(Black, Indigenous and People of Color)の頭文字をとった略語。

最近、フリーズが米国で開催する二つのフェアのディレクターに任命されたクリスティン・メシネオは、「気に入っているのは、フェアを通して地元の活動をたくさん紹介しているところ。この街で展開されている活動の幅広さを伝えられていると思います」と言う。

さらに、Commonwealth & Council(コモンウェルス&カウンシル)ギャラリーのスタッフは、関係者に宛てたメールで次のように述べている。「この都市の地形、移民コミュニティ、歴史と文化、陽光、スピリチュアルな文化、映画産業、そして渋滞でさえもが全部、ロサンゼルスの活気あるアートとコミュニティづくりに影響を与えています。私たちの生活の一部を皆さんと分かち合えることを嬉しく思います」(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月16日に掲載されました。元記事はこちら

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