ARTnewsJAPAN

50年代に祖父が買った風景画がホックニーの初期作品と判明。「当時ホックニーは貧乏で、緑と茶色しか持っていなかった」

穏やかな緑の野原があぜ道で分断され、木々が地平線を縁取っている。このありふれた風景を描いた絵画の隅には、震えるようなサインが入っている。絵画の持ち主は、隠れた価値を発見してくれることを期待して、BBCのお宝鑑定番組「アンティーク・ロードショー」に作品を持ち込んだ。その結果、絵画は英国で最も知られている画家、デイヴィッド・ホックニーの未公開作品であり、2万~3万ポンド(約320~480万円)の価値があると判明。持ち主と見物人たちは唖然とした。

番組でホックニー作と判明した風景画。Photo: Via BBC Antiques Roadshow.

1957年、この絵の持ち主の祖父ウォレスがイギリスのトリムリー・セント・マーティという村の駅で働いていた時に、若き日のホックニーに出会ったという。ホックニーとその仲間は、田舎町には珍しく画材を携えており、明らかにお腹を空かせている様子だったので、ウォレスは日曜日のランチに彼らを招くことにした。

その日曜日、若い画家たちに食事を振る舞ったウォレスは、彼らに絵を持ってくるように伝え、それぞれから購入したという。長寿番組の司会者として、偽物をいくつも見てきたマースは、「最初は信じられなかった」と話す。しかし、その後の調査で、ホックニーは1957年、画家ジョン・コンスタブルにインスピレーションを与えたサフォークの田園地帯への巡礼で、この地を訪れていたことが判明した。

番組司会者である美術専門家のルパート・マースは、この作品を 「特別な物語」と呼んだ。

現在85歳のホックニーは、同世代のイギリス人画家の中で最も人気があり、思い出の中の人や場所を、強烈な色彩と現実離れした歪みで表現した作品で知られている。中でも、南カリフォルニアの風景をモチーフにした《Peter Getting Out of Nick's Pool》(1966)や《A Bigger Splash》(1967)は20世紀を代表する作品と言ってもよいだろう。「カリフォルニア・ドリーミング」シリーズの作品は、オークションで数百万ドルの値がつくことも珍しくなく、1967年の《A Neat Lawn》は、2021年にフィリップスで1千100万ドル(現在の為替で約14億円)で落札されている。

マースはBBCの取材に対し、この牧歌的な絵画について、「非常にラフだが良い出来の作品です。色彩が乏しいのは、当時ホックニーは貧乏で、緑と茶色しか持っていなかったからでしょう」とコメントしている。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい