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ロシア資本のオークションハウス、フィリップスの財務状況に黄信号。「ロシア・ウクライナ戦争によるリスクにさらされている」

ロシア資本のオークションハウス、フィリップスの財務状況に重大な懸念が生じていることが、英ガーディアン紙の入手した監査記録から明らかになった。フィリップスは、サザビーズクリスティーズとともに、世界3大オークションハウスとして知られている。

フィリップスのニューヨーク本社。Photo: LightRocket via Getty Images

イギリスの監査法人が実施した最近の監査によると、フィリップスは親会社であるロシアのマーキュリー・グループの創業者2人が与える保証(オークションに出品する作品の入手資金を確保するために外部の支援者と行う内部資金取引)に大きく依存していることが判明した。フィリップスでは、これに加えて負債も増加しているため、経営が「深刻な不安定さ」に直面していると報じられている。

フィリップスの広報担当者はUS版ARTnewsの取材に、財務に関して提起されている問題が事業に影響することはないとし、「フィリップスは定期的に経費の内部監査を実施していますが、現時点で業務や人員配置の調整を行う計画はありません」と説明した。

一方、ガーディアン紙が確認した記録には、今回の監査結果が事業の安定性に「重大な疑念」をもたらす可能性があると記されている。

世界3大オークションハウスの一角を占めるフィリップスは、ニューヨークロンドン香港に拠点を持つ。オーナーは、モスクワに本拠を置く高級品小売り大手、マーキュリー・グループの共同創業者であるレオニード・フリドリアンとレオニード・ストルニンだ。

監査法人がフィリップスの財務状況に警告を発したのは、9000万ポンド(約147億円)の資産がリスクを抱えていること、潜在的損失を負担するオーナーの能力に不安があることが理由だ。フィリップスはマーキュリー・グループに対し、今後1年間で9590万ポンド(約156億円)、長期的にはさらに5780万ポンド(約94億円)の債務がある。そして、同グループもフィリップスに対し、5980万ポンド(約97億円)の債務がある。

また、監査記録によると、マーキュリー・グループが「ロシアウクライナ戦争によるリスクにさらされている」ことも、フィリップスの財務上のリスク要因になるとされた。さらに、同グループの資金に依存している事実は、マネーロンダリングの疑いやオークションハウスとしての信頼性を損なうといったリスクを生じさせ、フィリップスにとって無視できない問題になり得ると指摘されている。

ロシアのウクライナ軍事侵攻により、フィリップスは昨年3月以降、ロシアの富裕層顧客やその海外資産管理会社との取引に、いっそう厳しい目を向けられるようになった。それでも、2022年2月下旬のUS版ARTnewsの取材に同社は、ロシアとロシアの財閥に対する西側の経済制裁が売上や経営に影響を与えるとは考えていないと回答している。

加えて、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始める1週間ほど前に、マーキュリー・グループがタックスヘイブン(租税回避地)の英領バージン諸島に本拠地を移した記録があることも伝えられている。

フィリップスはガーディアン紙への声明で、マーキュリー・グループは2012年にフィリップスの買収が完了して以来、事業全体から見れば小さな会社であるにもかかわらず、親会社として「大規模な」投資を行ってきたと述べている。フィリップスの売却は2008年に開始され、最終的な買収額は6000万ドル(現在のレートで約98億円)となった。声明によると、2人のオーナーは、最終的にはこの投資を回収するつもりであるという。(翻訳:清水玲奈)

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