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ティラノサウルスの化石が、過去最高額3200万ドルで落札。アブダビの博物館へ

2020年、クリスティーズでティラノサウルス・レックスの化石が3200万ドルで落札された。この恐竜骨格は、2025年にアブダビで完成予定の新しい博物館の目玉になる。

ティラノサウルス・レックスの骨格標本「スタン」(クリスティーズ・ニューヨーク) Courtesy  Christie’s
ティラノサウルス・レックスの骨格標本「スタン」(クリスティーズ・ニューヨーク) Courtesy Christie’s

「スタン」という愛称で呼ばれる6700万年前の恐竜骨格は、クリスティーズ・ロンドンの競売に電話で参加した匿名の入札者が750万ドルで落札。化石としては過去最高額を記録した。プレミアムが付いた最終価格は3200万ドルで、オークションに出品される多くの現代アート作品の価格を上回っている。この競売が行われたのは古代化石の違法売買が増加していた時期で、成功の証として自然科学的な珍品を求める個人バイヤーの需要が高まるのではないかと、科学者たちは戦々恐々としていた。

「スタン」の金額は、1997年にシカゴのフィールド自然史博物館に840万ドルで売却された「スー」を上回るものだ。クリスティーズでの落札時、この貴重な化石が個人の手に渡ったのか、それとも博物館など公的機関が入手したのか、その行方は謎とされた。研究者の間には、もしこの化石が個人コレクターの手に渡ったら、研究のために利用できなくなるのではないかという懸念もあった。

「スタン」が売りに出されたのは、ノースダコタ州でこの恐竜骨格の発掘にあたった企業のオーナー2人の法的な争いを解決するため、2018年に判事が売却を言い渡したからだった。その後クリスティーズは、買い手候補として、米国の自然史博物館とつながりのある個人コレクターたちに目をつけていた。

ナショナル・ジオグラフィック誌が米国の貿易記録を調べたところ、この化石は2021年5月にニューヨークからU.A.E.(アラブ首長国連邦、首都アブダビ)に輸出されていた。3月23日の声明でアブダビの文化観光局は、「スタン」はサディヤット島に建設中の自然史博物館(3万5000平方メートル)に収蔵されると発表。同博物館の所蔵品には、オーストラリアで発見された70億年前の隕石もある。

この博物館の名称はまだ決まっていないが、ルーブル・アブダビや、建設中のグッゲンハイム・アブダビ、ザイード国立博物館といったサディヤット文化地区に集まる施設の一つとなる。この開発は、文化セクターを拡大しようというアブダビの戦略の一環だ。同市のモハメド・ハリファ・アル・ムバラク文化観光局長は、その目的を 「アブダビを研究、コラボレーション、発見の場にすること」と声明で述べている。(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月23日に掲載されました。元記事はこちら

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