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ドクメンタの反ユダヤ主義論争がブラジルに飛び火。ユダヤ系グループが参加取り消しの「噂」を否定

ドイツで5年に1度行われる国際美術展ドクメンタ。今年のドクメンタ15は開幕前から反ユダヤ主義論争に揺れ続け、先日は総監督の辞任という事態にまで発展した。そんな中、ドクメンタ15に出展するはずだったサンパウロのユダヤ系アートスペースが参加を取り消されたとドイツの有力紙が報じたことに対し、当のアートスペースが反論。記事に書かれたことは噂にすぎないと否定している。

カーサ・ド・ポーヴ Photo Camila Picolo

このアートスペースの名前は、カーサ・ド・ポーヴ(Casa do Povo)。同団体のウェブサイトによれば、「文化やコミュニティ、記憶の概念を再検討・再構築する」場だという。カーサ・ド・ポーヴは7月20日に出版プラットフォーム「e-flux」上で声明を発表し、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙の記事に反論。この記事は、ドクメンタという世界的アートイベントを攻撃するために、反ユダヤ主義疑惑を利用した無数の企みの1つだとした。

声明には次のように書かれている。「ユダヤ系ブラジル人の団体として、私たちはドイツの報道機関や当局に謹んでお願いする。ドクメンタ15を全体として捉え、ドクメンタやキュレーターチームに反ユダヤ主義のレッテルを貼らないでほしい。このような単純化は、かえって我われの反ユダヤ主義との闘いを陳腐化することにつながりかねない。一連の報道が我われ以外の人々を黙らせ、問題提起を封じ込めるために利用されるのを見過ごすことはできない」

この声明で指摘されているのは、インドネシアのアーティストコレクティブ(集団)、タリンパディの作品に関する論争だ。問題の作品は、やはりインドネシアのアーティストコレクティブであるルアンルパが、芸術監督としてキュレーションしたもの。タリンパディの作品は、ユダヤ人を戯画化した絵を含む巨大な壁画で、反ユダヤ主義的だとする批判が相次いだ。壁画は開幕から数日後にドクメンタ側が撤去したが、論争が収まる気配はない。

7月16日にはドクメンタ15の総監督ザビーネ・ショルマンが、理事会と「互いに合意した」上で退任。ルアンルパはドイツ連邦議会から、この作品が展示されるに至った経緯を説明するよう求められている。なお、これまでにタリンパディ、ショルマン、ルアンルパの3者は、撤去された作品について謝罪の意を表明している。

さらに、反ユダヤ主義をめぐる別の議論も巻き起こっている。パレスチナのアーティストグループ、クエスチョン・オブ・ファンディングがドクメンタに参加していることが問題視されたのだ。複数のユダヤ人団体が、クエスチョン・オブ・ファンディングのメンバーが親パレスチナ運動のBDS(ボイコット・投資撤収・制裁)を支持しており、同グループの参加を認めることは反ユダヤ主義的だと主張。ドクメンタとルアンルパは、クエスチョン・オブ・ファンディングを参加させることは反ユダヤ主義的ではないと反論し、こうした主張の中には「人種差別的」なものもあるとしている。

話をカーサ・ド・ポーヴに戻そう。同団体の反論の対象は、「お祭りを続けるのか?」という見出しで一連の騒動を総括するフランクフルター・アルゲマイネ紙の記事だ。記事では、同団体を名指しせずに、こう書かれていた。「『パレスチナに近い参加者からの抗議』を受け、ドクメンタ15の開催を支援する当初のネットワークから外された『サンパウロのユダヤ人グループ』がある」

カーサ・ド・ポーヴは、ルアンルパと「非公式に話した」ことはあるが、ドクメンタ15を企画するためのネットワークに加わるよう誘われたことは一度もないと、e-fluxに掲載された声明の中で説明している。実際、ドクメンタが発表したネットワークの中にも含まれていないが、ルアンルパは以前からこの団体と関係があったようだ。ブラジルのアートシーンに関する英語メディア「アルテ!ブラジレーロ(ARTE!Brasilieros)」が報じたところでは、2021年にルアンルパのメンバーが同団体の協力を得て、ブラジルのアーティストたちとのオンライン会議を開催したという。

「キュレーターチームのことを反ユダヤ主義者だというが、もし本当にそうなら、我われと一緒に仕事などするだろうか?」とカーサ・ド・ポーヴは問いかけている。

同団体はさらに、ドクメンタはタリンパディの作品をめぐる論争に対して既に十分な対応をしたと思うと述べ、こう続けている。「この大規模な国際展が提起している他のさまざまな問題にも耳を傾け、議論を交わしてほしい。我われにとっても、こうした多様な問題は大事なものだ。そして、反ユダヤ主義と戦うため、人種差別に立ち向かうため、崩壊に向かう世界の中でアートが果たすべき役割を考える上でも必要不可欠なのだから」(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月21日に掲載されました。元記事はこちら

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