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現代彫刻家アニッシュ・カプーアとは? 略歴や日本で見れる代表作を最新ニュースを交えて紹介

アニッシュ・カプーアは、現代彫刻界を代表するアーティスト。その生い立ちから代表作、最近の活動まで、カプーアにまつわる最新ニュースを交えて紹介する。

Photo: Robert Harding/Aflo

アニッシュ・カプーアとは?

アニッシュ・カプーアは、現代彫刻界を代表するアーティスト。トニー・クラッグ、リチャード・ディーコン、アントニー・ゴームリーらとともに、1980年代初頭のイギリス彫刻界を代表する「ニュー・ブリティッシュ・スカルプチャー」と呼ばれるグループの代表的作家として数えられている。

1954年、インド・ムンバイに生まれる。1970年代にロンドンに渡り、ロンドンのホーンシー・カレッジ・オブ・アート、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツでモダン・アートを学ぶ。その後、インドに一時帰国した際にヒンドゥー教の世界観に触れ、寺院などで目にした色鮮やかな粉末顔料を使用した作品群を制作する。この頃の代表作としては、《千の名前》(1979ー80)が挙げられる。

Anish Kapoor 《1000 Names》(1979 - 80)h. 76 x w. 76 x d. 38 cm
Photo:  © Anish Kapoor Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

1990年代には、イギリス代表としてヴェネチア・ビエンナーレに出品し、2000年賞を受賞、翌1991年にはターナー賞を受賞。1992年、ドクメンタ9に出展。この頃から、石、アクリル、ファイバーグラスなどの素材を使いはじめる。シカゴのミレニアム・パークに設置された。巨大彫像《クラウド・ゲート》(2004ー06)のように、曲面に光が反射し、景色などが映り込むステンレスの作品群は、この時期のカプーアの代表作だ。

また、ロンドンのテート・モダンで展示された巨大朝顔のような形の作品《マルシュアス》(2002)や、パリのグラン・パレで披露された、旧約聖書に登場する巨大な海獣をモチーフにした作品《リヴァイアサン》(2011)など、近くから見るだけでは全容が把握できないスケールの大きい作品も多数手がけている。

2012年には、ロンドン・オリンピックの記念モニュメントである《オービット》(高さ114.5メートル)を制作。また、東日本大震災の文化復興支援計画として、東北地方を巡回する可動式コンサートホール《アーク・ノヴァ》(2012年)を磯崎新と協働設計した。

2015年にパリ・ヴェルサイユ宮殿で、2022年にはアカデミア美術館とパラッツォ・マンフリンのヴェネチア2会場で個展を開催するなど、世界各国で活動している。

ARTIST HP



カプーアの代表作

《クラウド・ゲート》(2004ー06年、シカゴ)

Photo: Raymond Boyd/Getty Images

シカゴのミレニアム・パークに設置されている巨大彫像。曲面に光が反射し、景色などが映り込むステンレスの作品。恒久的なパブリックアートであり、カプーアの最も有名な作品の1つ。液体水銀に着想を得たとされる形状で、高さ約10メートル、重さ110トン。世界最大級の常設屋外アートインスタレーションでもあり、「 The Bean」というあだ名で親しまれている。

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《スカイ・ミラー》(2006年、ノッティンガム)

Anish Kapoor《Sky Mirror》2006
Photo: Tim Mitchell © Anish Kapoor Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

カプーアの代表作の1つであるステンレス製の彫刻シリーズで、直径5mの屋外設置型の作品。凹面状の表面は空の変化を映し続ける。《スカイ・ミラー》の別バージョンは、イギリス・ノッティンガムのほか、ポルトガル・ポルトのセラルヴェス現代美術館、オランダ・ティルブルフのデ・ポント現代美術館にも存在している。日本では、「アニッシュ・カプーア IN 別府」(2018年、大分県別府市)にて初公開された。

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《アルセロール・ミッタル・オービット》(2012年、ロンドン)

Photo: ARUP via Getty Images

アルセロール・ミッタル・オービットは、ロンドンのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークにある、高さ114.5メートルの展望塔で、イギリス最大のパブリック・アート作品。2012年のロンドン・オリンピックを記念して、アニッシュ・カプーアとセシル・バルモンドによって制作された。建設に使用された鉄のうちの60%は、洗濯機や中古車等からリサイクルされたものである。オービットには、世界最長のトンネル滑り台と、2台の展望台が設置されている。

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《Shooting into the Corner》(2008/2009)

Photo: Photo: Andrew Russeth/ARTNEWS

《Shooting into the Corner》は、カプーアがエンジニアのチームと共同制作した大砲で、血の塊のようなワックス製の物体を、部屋の隅に発射することができる。2009年にオーストリア応用美術博物館、2015年にヴェルサイユ宮殿、2022年にヴェネチアのアカデミア美術館で展示された。

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クイーン・エリザベス・オリンピック・パーク公式YouTubeチャンネルより

《アーク・ノヴァ》(磯崎新との共作)

Casa BRUTUS YouTubeチャンネルより

東日本大震災の文化復興支援計画として磯崎新と協働して制作された、移動式コンサートホール。このホールの中で、「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ」と題して、2013年から2015年にかけて宮城県松島・仙台市・福島県福島市で公演が行われ、ルツェルン祝祭管弦楽団の演奏のほか、和太鼓や雅楽など国内外のパフォーマーが出演。2017年には、東京ミッドタウンや、ニューヨークのブルックリン ・ブリッジ・パークにも設置された。

そのほかの作品


日本で見れるカプーアの作品 

金沢21世紀美術館所蔵《世界の起源》(2004年

アニッシュ・カプーア《L'Origine du monde》2004 金沢21世紀美術館蔵
Photo: Museum of Contemporary Art, Kanazawa

展示室の一面を構成する傾斜したコンクリートの壁面に、青い顔料で巨大な黒い楕円形を描いた作品。目を凝らせば凝らすほど、その黒い色面は平らな面にも盛り上がりにも窪みにも見え、実態を捉えることが困難になる。作品タイトルの「世界の起源」の通り、19世紀のフランスの画家ギュスターヴ・クールベによる同名の作品を参照している。

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福岡市美術館所蔵《虚ろなる母》(1990年)

比較的若い時期の作品で、カプーアがイギリスで学んだミニマル・アート以降の彫刻史と、出身地インドの文化を見事に融合させた作品。

《山》東京都立川市、ファーレ立川(損保ジャパン立川ビル)

Photo: Faret Tachikawa

ビルの谷間に突如として現れる《山》。鉄で構成されており、その重さは23トン。ファーレ立川とは、立川駅北口周辺5.9haに点在する109点のパブリックアート群のこと。この作品は、ビルの傍に置かれることで、「人工的な自然」である《山》と、人工物の代表格であるビルとのスケールの差異がより際立っている。ファーレ立川アートディレクター・北川フラムによれば「(カプーアは)この作品の周りに木を植えることに反対した」そうで、この作品が極めて人工的なものを目指していることが伺える。

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ミューザ川崎《ダブル・インバーション》(2003年)

神奈川県の音楽ホール・ミューザ川崎のオフィス・エントランスにある作品。2つの凹面鏡で構成されており、見る角度によって全く異なる空間が感じられる。また、音響に関しても、この凹面鏡の影響で、部屋の響きが変化する。インバーションとは「上下が逆さまに見えること、方向を変えること」を意味するが、音楽でも和音の構成音のオクターブ位置を変化させることを「転回」と呼ぶ。同じ和音でも、転回形が違えば、響きが異なって聴こえることが、この作品によって可視化されているように感じる。

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カプーアにまつわるニュース記事

ビエンナーレ以外にヴェネチアで見るべき10の展覧会:イサム・ノグチとヤン・ヴ ォーのコラボ展やカプーアの個展など

レオノーラ・キャリントン《Grandmother Moorhead’s Aromatic Kitchen(ムーアヘッドおばあさんのキッチンは良い香り)》(1975)
Photo: ©Leonora Carrington, by SIAE 2022/Charles B. Goddard Center for Visual Performing Arts, Ardmore, Oklahoma

ヴェネチアを訪れる人の多くは、世界最大のアートの祭典、ヴェネチア・ビエンナーレを見るのが主な目的に違いない。今年は、チェチリア・アレマーニがキュレーションしたメインの展覧会だけでも200人を 超えるアーティストの作品が展示され、さらに数十の国別パビリオンが参加する。

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アニッシュ・カプーアが世界で評価される訳 山本浩貴(文化研究者)が読み解く ~きわめて「政治的」な表現の追求、ソニア・ボイスと比較して

ギャラリー「スカイ・ピラミデ」で開催されたアニッシュ・カプーア“Selected works 2015-2022"の展示風景。Anish Kapoor “Selected works 2015-2022" 2022, SCAI PIRAMIDE Photo: 表恒匡

国内のギャラリーや美術館で展示されているアート作品やアーティストを、美術の専門家はどう評するか。金沢美術工芸大講師で文化研究者の山本浩貴氏が、東京・六本木のギャラリーで開催されたアニッシュ・カプーア展を入り口に、カプーアがなぜ世界で評価されるのか、そのアートを論じた。

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10億円の「豆」? アニッシュ・カプーアの4年越しの新作がNYでお披露目

マンハッタン、「56レオナード」のエントランスに設置されたアニッシュ・カプーアの新作パブリックアート。Photo: Roy Rochlin/Getty Images

インド出身で、ロンドンを拠点に活動するアーティスト、アニッシュ・カプーアによる新作のパブリックアートが、長年の延期を経て、ついにニューヨークで公開された。シカゴのミレニアム・パークにある人気の作品《Cloud Gate》、通称「The Bean」の小型版のような姿だ。

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アニッシュ・カプーアがオペラ『シモン・ボッカネグラ』の舞台美術を担当! 日本では初の舞台作品

プロローグの舞台美術は、オペラの舞台である海運王国ジェノヴァを彷彿とさせる船の帆を抽象化したデザイン。撮影:堀田力丸 / 提供:新国立劇場

11月15日から新国立劇場で上演中のオペラ『シモン・ボッカネグラ』は、現代アート好きにも一見の価値がある。なぜなら、その舞台美術をアニッシュ・カプーアが担当しているのだ。

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