フェルメールの絵から消された男は誰!? メトロポリタン美術館で調査が進行中
ヨハネス・フェルメールの《眠る女》(1656-57年頃)から消された男性に、あらためて注目が集まっている。この男性の謎に迫るべく、メトロポリタン美術館で調査が行われた。
《眠る女》でうたた寝をする女性の横に、男性が描かれていたことは以前から知られていた。しかし、その男性が誰なのか、何をしていたのかは謎に包まれたままだ。そこで、作品を所蔵するニューヨークのメトロポリタン美術館が、新たな調査を実施している。
5月初旬、現在アムステルダム国立美術館で開催中のフェルメールの大回顧展に合わせて行われたシンポジウムで、この調査に関する報告がなされた。
これを伝えたアートニュースペーパー紙の記者、マーティン・ベイリーは、《眠る女》に描かれていたのは「おそらくフェルメールの自画像だろう」とし、その根拠として、フェルメールと同時代のニコラース・マースの絵画を挙げている。
この件を問われたメトロポリタン美術館の広報担当者は、保存修復士のドロシー・マホンやリサーチ・サイエンティストのシルヴィア・センテーノなどの調査チームが、アムステルダム国立美術館の回顧展に出展されていない《眠る女》のX線分析を行った事実を認めた。ただし、調査結果の全容は公開されておらず、メトロポリタン美術館は今後発表する予定としている。
マホンとセンテーノは、US版ARTnewsの取材に対してこう語っている。
「現在進行中の調査から、《眠る女》の背景の中に塗り潰された男性について、より多くの情報が得られたことをうれしく思います。美術作品の研究において、蛍光X線分光分析(XRF)を用いたマッピングやイメージングは、作家の意図や絵画の意味をより深く理解するという目的に向けて大きな前進をもたらしてくれることが明らかになりました。私たちは、この作品とともに、メトロポリタン美術館が所蔵する他のフェルメール作品の研究を継続することを楽しみにしています」
室内にいる女性を描いたフェルメールの代表的作品の1つである《眠る女》には、かつて女性以外に男性や犬が描写されていたことが分かっている。元は男性が描かれていたことから、フェルメールの作品によく見られる誘惑の場面だったのではないかという見方もある。
しかし、《眠る女》の印象は曖昧で、女性の周囲が妙に空いていることもあり、意図的に中途半端な構図で描かれているように思える。ちなみにこの絵は、US版ARTnewsのフェルメール作品ランキングで11位に入っている。
マホンがこの作品の研究に注力する背景には、現在フェルメールの有名な絵画に関する研究が盛んになっていることがある。フィラデルフィア美術館では、長い間模写とされていたものをあらためて調査した結果、正真正銘のフェルメール作品であることが明らかになった。一方、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリーの最近の調査結果のように、長年フェルメールのものとされていた絵画の作者に疑問を呈されたケースもある。(翻訳:清水玲奈)
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