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テート・ブリテンの展示替えをめぐり、歴史家が「検閲を受けた」とツイート。物議を醸す

ロンドンテート・ブリテンで2023年5月に展示替えが行われた。その準備中に、同館が所蔵するJ.M.W.ターナー作品のリニューアル展示を巡って、テート・ブリテン側に「検閲」されたと歴史家が主張している。

リニューアル後のテート・ブリテン展示室。Photo: Madeleine Buddo/©TATE

イギリスの書評・思想誌ロンドン・レビュー・オブ・ブックスの記事によると、その作品はターナーが1835年頃に描いた《A Disaster at Sea》で、1833年に女性囚人108人と子ども12人が乗った囚人移送船「アンフィトリテ号」が難破した事件をモチーフにしたと一部では考えられている。

歴史家のマーカス・レディカーは、同館からこの作品をリニューアル展示する業務を任され、アンフィトリテ号のような船で女囚を罰するために使われた「懲罰箱」の実物またはレプリカを作品の隣に展示することを提案したという。しかし、作品に描かれている船が囚人移送船か定かでないという理由で、同館は却下。この一件の後、レディカーは美術館を離れている。

この出来事について、レディカーはツイッターで「不穏なエピソード:私のキュレーターとしての選択のひとつが美術館によって検閲されたことに抗議して辞任した」とつぶやいた。

レディカーのウェブサイトに掲載されている経歴によると、彼はテート・ブリテンのターナー・ギャラリーのゲスト・キュレーターを5年間務めたとある。しかし、同館の広報担当者によるとそれは誤りで、彼は、同館の所蔵作品の展示リニューアルについて見解を求めるために集められた、多くの歴史家の1人であったという。

ピッツバーグ大学の歴史学教授でもあるレディカーは、かつてアメリカの作家、アリス・ウォーカーが「変幻自在の書」と称賛した『The Slave Ship』(2007)など、奴隷制度に関する複数の本を書いている。

テート・ブリテンのリニューアル展示は、これまで以上に女性や有色人種のアーティストに重点が置かれているために世論の注目を集め、マスコミの報道も二極化している。アート専門メディアApolloは「建前ばかり」、テレグラフ紙は 「から威張りの歴史授業」と評し、また、ガーディアン紙のベテランアートライター、ジョナサン・ジョーンズは「今日のテート・ブリテンはアートが眠りにつく場所」と発言。イブニング・スタンダード紙は「美術のマスタークラス」と表現した。

リニューアル展示は、所蔵作品と奴隷貿易との関連性が強調されているという点でも、一般公開前から物議を醸していた。今回のターナーの一件も、「論争のトリガーとなる」ことや、懲罰箱が「暴力的な存在」となることを恐れての判断だった。

テート・ブリテンのディレクター、アレックス・ファークハーソンは、US版ARTnewsの取材に対して次のようにコメントしている。

「今回のリニューアルでは、キュレーターが選んだ画像や史料、現代アーティストによるコメントなどで、作品に隠された歴史を明らかにする展示を用意しています。

私はレディカーをこのキュレーターの1人として招待しましたが、悲しいことに、彼が提案する拷問器具のレプリカを作ることは、作品とも関係が薄く、美術館にとって克服できない多くの問題を引き起こすことになりました。彼の仕事はインスピレーションに満ちており、私たちは彼のほかの提案を実現したいと思っていました」(翻訳:編集部)

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