• CULTURE
  • NEWS
  • 2022.01.17

進化するボット——もうこの世にいないアーティストをSNSでフォローできたら面白い

ツイッターというと、悪いニュースや攻撃的な発言が飛び交う怖いところというイメージがある。しかし、美術史に触れる場所にもなり得るのではないか? そんな発想から、アンドレイ・タラシュクは過去の美しい作品をユーザーのタイムラインに流す「アートボット」というアカウントを作った。

アンドレイ・タラシュク Courtesy Andrei Taraschukアンドレイ・タラシュク Courtesy Andrei Taraschuk

「昼間はソフトウェアエンジニア、夜はアートボットの開発者」と自分のことを説明するタラシュクは、ロシアの芸術一家で育った。母国では美術学校に通っていたが、アメリカに移住してからは、ソフトウェア開発とウェブデザインの学位を取るためアートから離れていた。「でも、何かが足りないと感じていました」と彼は言う。

タラシュクは、自分が関心を持つ分野を両立させる方法として、ソーシャルメディアに注目した。「すでに亡くなっているアーティストをツイッターでフォローできたら、そしてその作品をタイムライン上で見られたら面白いと思ったんです」

彼は、2014年に大好きなワシリー・カンディンスキーの作品をシェアしているアカウントをいくつか発見したが、ごく一部の有名な作品しか投稿されないのが不満だった。あまり知られていない作品やスケッチ、習作などを見たいと思い、その手の投稿をしそうな専門家をフォローすることも考えたが、彼らの政治的意見は見る気がしなかった。

そこで、ソフトウェア開発者仲間である友人のコーディ・ブラウンとともに作り始めたのがアートボットだ。タラシュクのツイッター・プロフィールには、アートボットのリストが記載されている。

ブラウンとタラシュクのボットは、アルゴリズムとソーシャルメディアのアカウントで作られている。常に新しい作品をシェアするため、ボットは特定のアーティストの作品に類似したアート作品をリツイートするように教えられている。たとえば、デビッド・ホックニーのアカウントは、アンディ・ウォーホルなど別のポップアーティストのボットによる投稿をリツイートするというように。どちらも1960年代のポップアートムーブメントに参加していたという共通点がある。ボットはリツイートによって精度をより高めているというわけだ。

タラシュクが作った最初期のボットは、彼のお気に入りの二人の作家、エゴン・シーレとワシリー・カンディンスキーの作品をシェアしていた。今では、これらのアカウントのフォロワーは数万人にのぼる。

それ以降、タラシュクとブラウンは、人気の高いフィンセント・ファン・ゴッホから、名の知られていないアンナ・ペトロブナ・オストロウモワ=レベデワ(1900年代のソ連で活躍した木版画アーティスト)まで、560のアカウントを作成。各アーティストの作品をシェアしているが、ほとんどの画像はパブリックドメインから入手したものだ。

タラシュクはアーティストのボットだけでなく、美術館のコレクションをシェアするアカウントも作ってきた。たとえば、ブルックリン美術館が所蔵する装飾美術に特化したものもある。装飾美術の作品は美術館で展示されていてもあまり注目されないが、ボットのアカウントでは、より多くの人の目に触れるようになる。ツイッターでの偶然の出会いで新しい観客を得られるのだ。

今まで出会ったことがない作品を発見できるのも、ボットの面白さのひとつ。ハーバード美術館群に興味深いカリグラフィのコレクションがあることや、メトロポリタン美術館のイスラム美術部門に舌を出したトカゲのような生き物を描いた写本のページがあることなど、思いもよらないだろう。

タラシュクは、ボットをさらに魅力的なものにしていきたいと考えている。ブラウンが設計したAIモデルについて、「最初は作品をシェアするだけのアカウントだったのが、時間が経つにつれて行動が複雑になってきている」と説明。これらのボットが今後も学習を続け、その過程で他のボットが学習することを助けたいというのが彼の希望だ。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2021年10月27日に掲載されました。元記事はこちら

  • ARTnews
  • CULTURE
  • 進化するボット——もうこの世にいないアーティストをSNSでフォローできたら面白い