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アート・バーゼルとUBSによる最新のコレクター調査が示す「保守的な傾向」。美術品に割く資金は19%に

アート・バーゼルUBSによる世界のコレクター調査「Global Collecting in 2023」が発表された。それによると、不安定な世界情勢を受け、アートコレクターはますます作品購入に慎重になっているようだ。

アートバーゼルParis+のガゴシアンブースの様子。Photo: Getty Images

アート・バーゼルUBSが毎年発表しているレポート「Global Collecting in 2023」は、世界2800人の富裕層( high-net-worth=HNW)のアートコレクターを対象に行った調査をもとに、文化経済学者のクレア・マッキャンドルーが執筆している。

アート市場の最近の動向を読み解く上で重要な役割を果たしているこのレポートで今回明らかになったのは、コレクターの保守的な傾向だ。アート・バーゼルのCEOノア・ホロウィッツは、その傾向の背景には今世界に影響を及ぼしている「不安定な」経済・地政学的状況があると語り、イスラエルハマス間で起きている紛争についても言及。また、UBSのグローバル・ウェルス・マネジメントのチーフ・エコノミスト、ポール・ドノヴァンは報告書の中で、コレクターは現在、過去数年間に比べ、より厳選して美術品を購入していると述べている。

しかし、中国本土を拠点とするコレクターについては、パンデミック時のギャラリー閉鎖を経て、美術品への支出が増加していることが浮き彫りになった。だが、全体的に見れば、市場のハイエンドでの取引は以前に比べて減少している。

作品の内訳としては、デジタルアートよりも、絵画、彫刻、そして歴史的な施設で展示されてきたものが好まれる傾向にあり、コレクターの年間支出額の58%を絵画が占めた。また顕著だったのは、前年に比べ高額作品の購入離れが進んでいることだ。

報告書によると、2023年には、個人コレクターの資産ポートフォリオの中で、他の金融資産に比べて美術品に割く資金が減少し、2022年の24%から19%という結果に。マッキャンドルーは、この落ち込みはコレクターが購入に時間をかけ、流動性の高い金融資産に集中している可能性を指摘している。

今回の調査では美術品購入に関するクレジットとローンについての調査もなされたが、かなりの数のコレクターが、コレクションの資金を借り入れに頼っていることがわかった。また、美術品市場に対して楽観的な見方が大勢を占める中、今後数ヶ月の美術品販売に対する保守的な姿勢も明らかになった。2024年に所蔵作品を売却する意向を示したコレクターは26%にとどまり、2022年の39%から減少している。その理由の多くは、保有するアーティストの作品の価格が来年には改善する可能性があると信じていることを挙げている。

2022年から2023年にかけて、かなりの数のコレクターがコレクションから作品を手放していることも分かった。調査の参加者のうち、投機的動機で美術品を購入する「投資家」であると回答したのはわずか10%。その中で実際に転売に参加しているのは47%に留まっている。一方、回答者の38%が対象期間中に作品を売却している。2020年には約60%、2021年には49%のコレクターが転売を報告していることを鑑みれば、短期的な金銭的利益を得るための市場環境はあまり活発でないと言える。(翻訳:編集部)

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