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2023年アート・バーゼル・マイアミ・ビーチVIPデーの販売状況を速報!フィリップ・ガストンが約29億円、ロバート・ラウシェンバーグが約2億4500万円ほか

12月8日から10日まで開催されるアートフェアアート・バーゼル・マイアミ・ビーチ。昨年の283ギャラリーよりも少ない277ギャラリーの参加となったものの、先立って開催された12月6日と7日のVIPデーには大勢の人で賑わった。

2023年アート・バーゼル・マイアミ・ビーチのハウザー&ワースブース。Photo: Courtesy Art Basel Miami Beach

アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(ABMB)開催週のマイアミでは、「NADA Miami」「Art Miami 」など多くのアートフェアや、地元ギャラリーによる展覧会が開催される。まさに「アートとパーティ三昧」の1週間となり、毎年アート業界人やアートコレクターが押し寄せる。

今年は、盛り上がりに欠けた秋のオークション・シーズン後の開催であったことや、国際紛争や景気後退の影響が懸念されたが、それはVIPデーで打ち消された。ディーラーによれば、有名現代美術館があるコロラド州アスペンやパリ、香港などからキュレーター、美術館関係者、そしてアートコレクターが大挙して訪れ、いくつかのギャラリーから100万ドル(約1億4000万円)を超える作品の売り上げが報告された。中には2000万ドル(約29億円)もの高額作品が動いたという。

リーマン・モーピンのシニア・ディレクター、フィオナ・フラハティは声明で、「VIPデーの開始時から売れ行きは好調で、今年の眠ったような市場と経済が楽観的に変化してきているのを感じます」と話す。

以下、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチのVIPデーにギャラリーが売れたと語った7点と、注目するべき作品を紹介する(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。

1. Teresita Fernández/Lehmann Maupin(テレシータ・フェルナンデス/リーマン・モーピン)約1億4000万円

テレシータ・フェルナンデス《Dark Earth(Reservoir)》(2023)Photo : Courtesy the artist and Lehmann Maupin

リーマン・モーピンは、アメリカのビジュアルアーティスト、テレシータ・フェルナンデスの大型壁面作品2点《Dark Earth(Reservoir)》(2023)と《Dark Earth(Cosmos)》(2019)を「アメリカとヨーロッパを拠点とする著名なコレクター」に合計100万ドル(約1億4000万円)で売却した。この木炭とアルミニウムのパネルからなるミクストメディアの作品は、「風景を構成するものについて広範に再考する」という、アーティストの大きな関心の一部だ。

同ギャラリーによると、韓国人アーティスト、イ・ブルの「ペルドゥ」シリーズの新作3点も「世界に知られるコレクター」に合計75~80万ドル(約1億円~1億2000万円)で売れた。メトロポリタン美術館は先日、2024年9月に同美術館の5番街ファサードで展開しているコミッション・プロジェクトで、彼の彫刻4基を展示すると発表した

2. Marlene Dumas/David Zwirner(マレーネ・デュマ/デヴィッド・ツヴィルナー)約13億円

マレーネ・デュマの《The Schoolboys》(1986-87)Photo: Kerry McFate/© Marlene Dumas/Courtesy of David Zwirner

デヴィッド・ツヴィルナーのブースでは、制服姿の4人のティーンエイジャーを描いた、1.5メートル × 1.9メートルのマレーネ・デュマの油彩《The Schoolboys》(1986-87)が900万ドル(約13億円)で売却された。南アフリカ出身のデュマが1980年代後半に、「アイデンティティの複雑さと、人物の公的な自己と私的な自己との境界線の移り変わり」を探求し制作した肖像画の連作の1点だ。

デュマは1976年に生まれ故郷の南アフリカからオランダに移住しており、この絵は、多くの画家が活躍した、17世紀オランダの黄金時代に描かれた肖像画の形式と構造を参考にしている。

同ブースでは、引き続き関心を集める草間彌生の作品も出品しており、2015年に制作された「インフィニティ・ネット」シリーズ2点がそれぞれ300万ドル(約4億円)と320万ドル(約4億6000万円)で売却されたほか、ある作家の「初期の主要な絵画」が「数百万ドルの高値」で売れたという。また、ロバート・ライマン、アリス・ニール、エリザベス・ペイトン、ノア・デイビスの作品が100万ドル(約1億4000万円)を超える売上を記録した。

3. Philip Guston/Hauser & Wirth(フィリップ・ガストン/ハウザー&ワース)約29億円

Photo : ©The Estate of Philip Guston/ Courtesy the Estate and Hauser & Wirth/Photo: Dan Bradica Studio

ハウザー&ワースのブースでは、フィリップ・ガストンの哀愁漂う大作《Painter at Night》(1979)が、2000万ドル(約29億円)で、ある「特別なプライベート・コレクション」に加えられた。

同ギャラリーはまた、ジョージ・コンドのリネンに油彩を施した作品《Smiling Aristocrat》(2023)を235万ドル(約3億4000万円)、チャールズ・ゲインズの3部作を79万5000ドル(約1億1000万円)、エイミー・シェラルドの作品を85万ドル(約1億2000万円)、ヘンリー・テイラーの作品を100万ドル(約1億4000万円)で「アメリカの重要な美術館」に売却した。

4. Alicja Kwade/Pace(アリシア・クワデ/ペース・ギャラリー)約7200万円

アリシア・クワデ《l'ordre des mondes (Totem)》(2023) Photo: ©Alicja Kwade, courtesy Pace Gallery

この10月にペース・ギャラリーへ移籍したばかりのポーランド人アーティスト、アリシア・クワデ。その直後にアート・バーゼル・マイアミ・ビーチに出展された大型彫刻《l’ordre des mondes (Totem)》は、50万ドル(約7200万円)で即買い手がついた。これは、5脚の椅子と調理台やタイルとして用いられる工業用石材でできた7つの球体を積み重ねたもので、さまざまな色や模様の球体は、2019年にニューヨークメトロポリタン美術館の屋上庭園で行われた彼女のインスタレーションで使用されたものを思い出させる。

ペース・ギャラリーではこのほか、イサム・ノグチの作品が45万ドル(約6500万円)、リー・クンヨンの「Bodyscape」シリーズの絵画が25万ドル(約3600万円)、リンダ・ベングリスの2023年のブロンズ彫刻「QT」のエディション作品が20万ドル(約2900万円)以上で売れている。

5. Tracey Emin/Xavier Hufkens(トレイシー・エミン/グザヴィエ・ハフケンス) 約2億3600万円

トレイシー・エミン《Deep Feeling》(2023) Photo: Courtesy the artist and Xavier Hufkens, Brussels/Photo Harry Weller

「Deep Feeling」というタイトルの言葉は、多くのトレイシー・エミン作品にあてはまるものだろう。悲嘆や愛、喪失感、孤独をさまざまなメディウムで伝えようとするエミンの表現は、ストレートで生々しく、心を揺さぶると評される。

ブリュッセルを拠点とするギャラリー、グザヴィエ・ハフケンスで164万ドル(約2億3600万円)で売れた《Deep Feeling》(2023)は、カンバスにアクリル絵の具で描かれた作品で、大きさは2メートル × 3.4メートル近くある。現在、ホワイトキューブがニューヨークのアッパー・イースト・サイドにオープンした新ギャラリーでエミンの個展「Lovers Grave」が開催中だが、《Deep Feeling》は同展の作品に描かれたシーンの翌朝の情景ではないかと思わせる。

なお、エミンは11月に大英博物館の評議員に任命された。

6. Robert Rauschenberg/Thaddaeus Ropac(ロバート・ラウシェンバーグ/タデウス・ロパック) 約2億4500万円

ロバート・ラウシェンバーグ《Copperhead-Bite IX / ROCI CHILE》(1985) Photo: Courtesy Thaddaeus Ropac

タデウス・ロパックでは、ロバート・ラウシェンバーグの《Copperhead-Bite IX / ROCI CHILE》(1985)に、170万ドル(約2億4500万円)で買い手がついた。この作品は、シルクスクリーンインクと変色剤を用いて薄い銅板に描かれた12点の絵画シリーズ「Copperhead-Bites」の1点だ。

ロパックによれば、《Copperhead-Bite IX / ROCI CHILE》は「チリの文化と出会ったときにラウシェンバーグが抱いた個人的な印象」を散りばめたものだという。高さ2.4メートル、幅1.2メートルを超えるこの作品は、1985年にサンティアゴの国立美術館で開催された「ROCI CHILE」展に出展された。

タデウス・ロパックではまた、ゲオルク・バゼリッツの油絵《Alles fällt vom Tisch》(2020)が162万ドル(約2億3300万円)、《Grüße aus Dinard》(2023)が129万ドル(約1億8600万円)で売れている。

7. Frank Stella/Yares Art(フランク・ステラ/ヤレス・アート)

フランク・ステラ《Delta》(1958) Photo: Courtesy Yares Art

この記事の公開時点ではまだ買い手が決まっていないが、ニューヨークとサンタフェに拠点を持つヤレス・アートが出展したフランク・ステラの《Delta》(1958)には、今回のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで最高額となる4500万ドル(約65億円)という価格が付けられている。同ギャラリーのデイヴィッド・ヤレスはUS版ARTnewsの取材に、ステラの遺族が以前ワシントンD.C.ナショナル・ギャラリーに貸し出していたこの絵に興味を示したコレクターが2組あると答えている。

《Delta》は、黒を主体とする画面に色や形を抑えたストライプを描くステラの「ブラック・ペインティング」シリーズ初の作品として、彼がプリンストン大学を卒業したすぐ後に制作された。2015年には、ホイットニー美術館で開催されたステラの回顧展に出品されている。

ヤレスは、《Delta》をパブロ・ピカソにとっての《アヴィニョンの娘たち》にたとえ、「この作品がその後の彼のキャリアを決定づけたと感じたからこそ、フランクは手元に残しておこうと決めた。つまり極めて重要な作品なのです」と説明する。

《Delta》に高額の価格が付けられた背景には、2019年にクリスティーズでステラの《Point of Pines》が2800万ドル(現在の為替レートで約40億円)という落札記録を樹立したこともある。また、先月行われたサザビーズのイブニング・オークションでは、同心正方形の絵画《Honduras Lottery Co.》(1962)が、1870万ドル(約27億円)で落札されている。

ヤレスによれば、価格設定はステラの遺族によるもので、同ギャラリーの60周年を記念してマイアミに出展したという。(翻訳:編集部、石井佳子)

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