期待外れに終わったART SGの第2回がいよいよ開幕。昨年の失敗から学んだこととは?
昨年ローンチしたART SGは、シンガポールで行われる国際アートフェアだ。注目の高さに反して売上が振るわなかったことが影響したのか、1月19日から1月21日まで開催される今年は昨年に比べて出展者数は減少。成功に導くための策はあるのか。
「地元コレクターの基盤が小さすぎた」
ART SGは東京現代、台北当代などを手掛けるアート・アセンブリーが運営するシンガポールの国際的なアートフェア。アジアの未来のアート拠点は香港ではなくシンガポール!? と思わせる高い期待値とともに2023年に初めて開催され、160超のギャラリーが参加した。
対して第2回となる今年は、昨年から約2.5割減の116ギャラリーが参加。ガゴシアン、リーマン・モーピン、ペロタンなど世界にブランチを持つ有力ギャラリーの数は少なく、韓国のKukjeやギャラリー・バトン、日本からはMAKI、ア・ライトハウス・カナタ、カイカイキキ、KOSAKU KANECHIKA、そしてオーストラリアのStationなど、出展者の約70パーセントがアジア太平洋地域に拠点を置くギャラリーだ。
「東南アジアの人口を見ると、ヨーロッパと同じ規模です。論理的に考えれば、(東南アジアに)主要なアートの見本市が1つあってもいいはずです」
アート・アセンブリー共同代表のマグナス・レンフリューは、ART SGの必要性についてこう語る。しかし2023年のART SGは、アート・バーゼル香港やフリーズ・ソウルと比較して収支面で期待に届かなかった。それが影響したのか、昨年は出展していたデヴィッド・ツヴィルナー、アルミン・レッシュなどの有名ギャラリーが今年は出展を見送っている。
不振の理由についてレンフリューは、「シンガポールの地元コレクターの基盤は、この規模のフェアを維持するには小さすぎた」と分析する。
ターゲットはアジアのVIP
レンフリューのチームは、親会社であるアート・アセンブリーとアンガス・モンゴメリー・アーツの顧客リストを活用し、開催までの8カ月間に渡ってジャカルタ、上海、マニラ、シドニー、バンコクで富裕層向けのイベントを行ったほか、チェンライで開催されているタイランド・ビエンナーレ(4月30日まで)のVIP限定ツアーを企画するなど、周辺地域全体のVIPの誘致に力を入れた。
とはいえ、シンガポールは長年富裕層のための保養地としても親しまれており、購買力のあるアートコレクターも決して少なくない。パンデミック時には香港や中国大陸から大勢の富裕層が移り住み、その層はさらに厚くなった。
そういった地元コレクターがシンガポールのアートシーン活性化に貢献する例も増えている。例えば、フランスからシンガポールに家族で移住し、ロリネ財団を設立したピエール・ロリネは、ART SGに合わせてギルマン・バラックスのギャラリーで、自身のコレクション展を開催する。
シンガポールは、キャピタルゲイン(保有する資産の売却によって得られる売却差益)が非課税であり、相続税が課されないという点でも、アジアにおいて最もアートビジネスがやりやすい国と言える。観光客は、6カ月以内に再輸出することを前提にした一時的輸入制度を利用したり、フリーポートを利用したりしてアート作品を購入すれば、8%の物品サービス税(GST、2024年には9%に増税予定)の免除を申請できる。しかし、それ以外の購入品に関してはGSTが加算されるため、非課税の香港よりも負担が大きくなるという問題点はある。
レンフリューはシンガポールを「アジア唯一の中立の地」と表現する。多民族国家で、英語が公用語の一つであるため西洋と東洋の架け橋になり得ること、また、中国と近隣諸国との間で地政学的緊張が高まる中で、比較的安全な土地であることから、シンガポールが高いポテンシャルを持つ国であることは確かだ。