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精神疾患をもつ人々をアートで支援。ハウザー&ワースと英慈善団体がコラボプロジェクトを実施

ハウザー&ワースロンドンのギャラリーで、精神科病棟に入院する患者や家族を支援する慈善団体、ホスピタル・ルームズとの共同企画の展覧会「Digital Art School」が開催されている。9月には共催でチャリティオークションも行う。

ハウザー&ワースで開催中の「Digital Art School」展示風景。Photo: Instagram/@_hospitalrooms

精神科病棟に入院する患者や家族を支援する慈善団体であるホスピタル・ルームズと、世界4大ギャラリーに数えられるハウザー&ワースは2022年に3カ年計画でパートナーシップを締結し、コラボレーションを行ってきた。集大成となる今年は、ロンドンにあるハウザー&ワースのノース・ギャラリーで展覧会「Digital Art School」を開催し(9月10日まで)、9月11日と9月12日にロンドンのボナムズで2つのチャリティオークションを行う。

ハウザー&ワースとホスピタル・ルームズはこのプロジェクトを通して、イギリスの国営医療サービス事業であるNHSの精神科医療施設の患者をアートを通じてサポートするための寄付金100万ポンド(約1億9000万円)を集めることを目指している。2022年から毎年展覧会とオークションを開催し、これまで72万5000ポンド(約1億3800万円)以上を集めてきた。

今回の展覧会「Digital Art School」は、ホスピタル・ルームがイギリス全土のNHSの精神科医療施設で実施してきたデジタル・ワークショップをギャラリーで再現したものだ。このワークショップは毎回アーティストが主導し、参加者たちは無料で使うことのできる画材でそれぞれの表現を楽しむことができるというもの。

ハウザー&ワースでの展覧会においても、来場者は会場の端に置かれたブルックリンを拠点に活動するアーティスト、ホセ・パルラが装飾を施した高級感あふれる箱に入った画材──ウィンザー&ニュートンなどの⾼級画材ブランドが寄付した⾼品質の絵の具やペン、鉛筆、紙など──を使って、アーティストらがレクチャーする動画を参考にしたりして自由に作品を制作できる。主導するアーティストは、アッバス・ザヘディ、シェパード・マニイカ、アイリーン・クーパーRAなど。そして完成した作品は、ギャラリーに展示することが出来る。

また、ギャラリーの別のフロアには、韓国の彫刻家でありインスタレーション・アーティストでもあるス・ドホによる2023年の平面作品や、ラナ・ベガムの立体作品が展示されている。これらは9月に行われるボナムズのチャリティオークションに出品される予定だ。

精神医療を必要とする人々の増加

イギリスでは、精神科領域の医療を必要とする人々が増加している。2022年から23年にかけては⼈⼝の6%強にあたる358万⼈が、NHSが資金提供するメンタルヘルスや学習障害、自閉症をケアするサービスを利用している。このうちの9万人以上は入院患者で、その入院期間は長期化する傾向にあるという。

ホスピタル・ルームスは、こうした状況を背景に2016年に誕生した。同組織の共同設⽴者でアーティストのティム・A・ショウとキュレーターのナイアム・ホワイトは、NHSの精神病院に隔離入院することになった親しい友⼈を見舞った際に、「あまりに無機質な冷たい雰囲気」にショックを受けたという。ともに10年間アートに携わってきたショウとホワイトは、自らのリソースを活用すればこのような空間をユニークなアート作品でより良くすることができると考え、同組織設立に至ったのだ。

彼らは、重度の精神病(SMI)と診断された人々の病棟にハーヴィン・アンダーソン、ジュリアン・オピー、ソニア・ボイスアニッシュ・カプーア、シャンタル・ジョフィといった一流アーティストの作品を展示したほか、多くのアーティストたちとワークショップ「Digital Art School」を開始。ショウはアート・ニュースペーパーの取材に対し、「(これまでの活動において)私たちが常に考えてきたのは、精神科の⼊院施設にいる⼈は誰でも特別なアートを体験し、創造的に⾃⼰表現できる権利があるということです」と語っている

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