「もし女性が世界を支配していたなら?」──ジュディ・シカゴとプッシー・ライオットがフェミニズムアートをNFT化
今年、米国で女性の人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決が覆された。過去50年間のフェミニズム運動の成果が損なわれることに対し、70年代アメリカのフェミニズムアート運動を牽引したジュディ・シカゴと、ロシアのアクティビストバンド、プッシー・ライオットのナジェジダ・トロコンニコワがタッグを組んだ。
ジュディ・シカゴとナジェジダ・トロコンニコワの2人は、数年前にシカゴが制作したインスタレーション、《What if Women Ruled the World?(もし女性が世界を支配していたなら?)》をもとにした参加型アートプロジェクトを立ち上げた。ジェンダー平等や女性の権利向上に取り組むWeb3(ウェブ3)コミュニティの設立を目指し、ブロックチェーン技術を活用する。
「もし女性が世界を支配していたなら?」という問いを核にしたこのプロジェクトの前身となったのは、ディオールの2020年春夏オートクチュール・コレクションのランウェイショーでシカゴが制作した大規模インスタレーションだ。
ショーではランウェイの両側に金、紫、緑で彩られた大型バナーがずらりと並び、「もし女性が世界を支配していたなら?」という大テーマに続き、「子育ては平等に分担されるだろうか?」「私有財産の概念は存在するだろうか?」といった問いを見る者に投げかけていた。
今回のプロジェクトでは、インターネットへの接続環境があれば誰でも、こうした問いかけに回答することができる。
参加するには、まずWeb3プラットフォーム、DMINTIのトップページかプロジェクトページにアクセスする。そしてバナーに書かれていた問いかけがリスト状に並んだページで、好きな問いを選んでクリックすると、フォームが表示され、150文字以内の回答と画像を投稿できるという仕組み。投稿された回答の中から選ばれたものがNFT化される予定だ。
12月1日、シカゴとトロコンニコワはマイアミ現代美術館でこの新しい参加型アート作品を発表した。NFTコミュニティとのつながりが深いトロコンニコワは、今年の春、ウクライナを支援するための分散型自律組織「ウクライナDAO」を設立し、700万ドル(約10億円)の寄付金を集めている。
発表後、夜遅くに行われたパネルディスカッションでシカゴはこう述べている。「世界中の人々に考えてほしいのです。私たちが再び人間性を取り戻すため、再び対話を可能にするためには何をすべきなのかと。そして最も重要なのは、地球を守るために何をすべきなのかを考えることです」
このプロジェクトで、「もし女性が世界を支配していたなら?」という問いかけに最初に回答したのは、もちろんトロコンニコワだ。彼女の回答を録音するため、2人はニューメキシコ州にあるシカゴの自宅で対面した。トロコンニコワが次々と答えていくこの作業は、とても感情を揺さぶられるものだったとシカゴは振り返る。一方のトロコンニコワは、淡々と仕事を進めていたようだ。シカゴが「なぜそうも冷静でいられるのか」と尋ねたときの彼女の答えが忘れられないという。「2012年に“フーリガン行為”でロシア当局に逮捕されたトロコンニコワは、その罪を問う裁判中に感情をコントロールする術を身につけたと言います。彼女の言葉を借りれば、『プーチンに泣かされた、かわいそうな女の子という印象を与えたくなかった』からです」
ロシアの教会で反プーチンの抗議パフォーマンスをしたプッシー・ライオットを投獄するために行われた裁判の後、トロコンニコワは刑務所と強制労働収容所で服役した。
シカゴとトロコンニコワは、今回のプロジェクトを通してジェンダー平等を否定しようとする横暴な権力者に反論し、もっとポジティブな未来について世界中の人々に考えてほしいと願っている。(翻訳:野澤朋代)
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