2024年ヴェネチア・ビエンナーレはDE&Iに注力! 初の南米出身ディレクターが掲げるテーマは人種とジェンダー
12月15日(現地時間)、2024年に行われるヴェネチア・ビエンナーレのディレクターにアドリアーノ・ペドロサが選出されたことが発表された。ペドロサは、世界的に著名なキュレーターのひとりであり、世界最大の芸術祭のディレクターを務める初の ラテンアメリカ人となる。
アドリアーノ・ペドロサは、ヴェネチア・ビエンナーレ全体の方向性を決定する権限を持つほか、メイン企画展のキュレーションを担当することになる。彼はブラジルのサンパウロ美術館(MASP)で芸術監督を務めており、クィアやフェミニスト、脱植民地の視点を重視した覧会を多く手掛け、斬新なアプローチで美術史を書き換えてきた。その実績は、こうしたテーマを扱う展覧会のモデルケースとして、他のキュレーターたちに多く参照されてきた。
ビエンナーレのロベルト・チクット会長は、ペドロサと次回のビエンナーレについて、次のようにコメントしている。
「ペドロサは広い視野と類まれな手法で展覧会を企画し、原点を見失うことなく世界的視点のある仕事をしてきました。ビエンナーレは単なるアートの見本市ではなく、これまで以上に現代美術と向き合い、矛盾、対話や親密さについて考え、形にする場であることが求められています。それなしには、アートは生命力のない孤島のような存在になるでしょう」
ペドロサは、サンパウロ美術館で「Histórias」というシリーズの展覧会を企画している。そこでは、あまり知られていない美術史の一端に光が当てられ、アーティストらが、これまで周縁化されてきたテーマといかに向き合ってきたかを紹介している。
ヒエラルキーへの徹底した疑義
その中でも最もよく知られている展覧会は、2018年に開催された「Histórias Afro-Atlânticas」だ。大西洋奴隷貿易と、世界中の黒人コミュニティの忍耐力、そして離散したアフリカ人がどう世界を形成していったかについて探求している。450点の作品で数世紀にわたる歴史を振り返るこの展覧会は、スタートと同時に画期的と絶賛され、現在は「Afro-Atlantic Histories 」という名前で、ロサンゼルスカウンティ美術館(LACMA)に巡回中だ(23年9月まで)。
ほかの「Histórias」展を振り返ると、ダンスと女性をテーマにしたものや、ブラジルの美術史の中で、いまだ評価されていない人物に焦点を当てたものなどがある。先日100歳で亡くなった画家ジュディス・ラワンは、そのプロジェクトの一環として現在回顧展を開催中だ。近日開催予定の「Histórias」展は、先住民族とクィアの歴史を探求する内容になっている。
ペドロサは2020年に行ったUS版『ARTnews』のインタビューで次のように語っている。「私たちは常に、白人を中心とするブラジル周辺の歴史の記録を誰が残しているのか、そして、これらのヒエラルキーに疑問を投げかける視点をどのように提示できるのか考えています」
ペドロサは、これまでにもサンパウロ・ビエンナーレやイスタンブール・ビエンナーレ、トリエンナーレ・デ・サン・ジュアン、2012年の上海ビエンナーレの一部などを手掛けており、ビエンナーレ界では知らぬ者はいない存在だ。ベテランという要素以外にも、彼がヴェネチア・ビエンナーレのディレクターに任命されたことは、とても重要な意味を持っている。
さらに多様なビエンナーレを目指して
1895年から開催されているヴェネチア・ビエンナーレは、長年ヨーロッパの白人男性キュレーターによる、主にヨーロッパの白人男性アーティストの作品展示を行ってきた。しかし2015年に初のアフリカ出身キュレーターとなったオクウイ・エンヴェゾー など、この二十数年の間に、女性や有色人種の比率が高まっている。
2022年のビエンナーレは、チェチリア・アレマーニがディレクターを務めた。メイン展示には、女性やジェンダー規範に当てはまらなアーティストをかつてないほど多く起用し、新たな方向性を示している。参加アーティストのうち、男性が占める割合はわずか10%だった。
ペドロサは、ビエンナーレ史上稀に見るグローバルサウス(*1) 出身のディレクターである。2022年にドイツで開催されたドクメンタ15は、アーティスティックディレクターにインドネシアのアートコレクティブ、ルアンルパを起用している。この出来事が、今回の抜擢に関係していると言えるだろう。
*1 主に南半球に偏在している経済的に豊かではない国のこと。アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国を指す。
12月15日の発表に先立ち、バード大学のキュレーター研究センターは、ペドロサに賞金2万5千ドル(約340万円)のオードリー・イルマス賞を授与したことを発表した。
次のヴェチア・ビエンナーレは2024年4月に開催されるが、すでにいくつかの国がパビリオン設置を発表し始めている。現在エストニア(代表アーティスト:イーディス・カールソン)、フランス(ジュリアン・クルーゼ)、リトアニア(パクウイ・ハードウェア)の参加が決まっている。国別パビリオンは本展示と関係はなく、ペドロサの管轄外だ。(翻訳:編集部)
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