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2024年ヴェネチア・ビエンナーレのイギリス代表が決定。人種差別など社会問題に切り込む著名アーティスト、ジョン・アコムフラ

2024年4月に開幕する第60回ヴェネチア・ビエンナーレの国別パビリオン、イギリス館の代表アーティストに、世界的な名声を集めている映像作家のジョン・アコムフラが選ばれた。

スタジオでのジョン・アコムフラ。Photo: ©Smoking Dogs Films/Courtesy Smoking Dogs Films and Lisson Gallery

ジョン・アコムフラによるイギリス館の詳細はまだ明らかにされていないが、2024年のヴェネチア・ビエンナーレで最も期待されるパビリオンに数えられることは間違いないだろう。

アコムフラは、そのキャリアを通じて国内外のさまざまな世代のアーティストに影響を与えてきた。こうした功績が認められ、今年初めにはイギリス王室からナイトの称号を授与されている。2022年のヴェネチア・ビエンナーレで、イギリス館のソニア・ボイスが国別部門最高賞の金獅子賞を受賞したこともあり、さらに期待が高まる。

1957年にガーナで生まれ、幼少期にイギリスに渡ったアコムフラは、イギリスの黒人アーティストたちが結成したブラック・オーディオ・フィルム・コレクティブの一員として頭角を現した。同グループのメンバーは、映像を利用して、黒人の個人的・政治的体験を掘り起こす作品を追求した。たとえば、1986年制作の《Handsworth Songs》は、その前年にイギリスのハンズワースとロンドンで起きた暴動を描いたもので、今では歴史に残る名作とされている。

90年代後半にブラック・オーディオ・フィルム・コレクティブの解散後、ソロ活動を開始したアコムフラは、気候変動人種差別、植民地主義、カルチュラル・スタディーズ、そして最近ではコロナ禍やジョージ・フロイドの殺害に関連するイメージを用いた大規模なインスタレーションを制作している。作品は既存素材の流用と、アコムフラと共同制作者が撮影した素材が組み合わされたものだ。

ヴェネチア・ビエンナーレには二度の参加経験があり、1回目は2015年のメイン展示、2回目は、2017年のガーナ館代表だ。さらに、同ビエンナーレの姉妹イベントであるヴェネチア映画祭で作品が上映されたこともある。

アコムフラは声明で次のように述べている。

「第60回ヴェネチア・ビエンナーレのイギリス代表に選ばれ、とても光栄です。これが作家に与えられる最もエキサイティングな場であることは間違いありません。今回の決定は、私が何十年にもわたって一緒に仕事をしてきた人たち、そして私が仕事を続けることを支えてくれた人たちに与えられた評価であり、舞台であると考えています。選出に関わるブリティッシュ・カウンシルの重層的な歴史と意義、イギリスという国とヴェネチア・ビエンナーレのイギリス館の、これまで語られてきた、そしてこれからも語られ続けられるであろう物語について、じっくり考える時間を与えられたことに感謝します」

イギリス代表の選出委員会は、アコムフラを選んだ背景を声明でこう述べている。

「アコムフラの映像作品は、フィクションと事実を詩的な物語として重ね合わせ、移民が直面する複雑な現実を説得力をもって伝えている。彼は真にグローバルな思想家だ。我われの存在に関わる最も差し迫った問題に独創性をもって取り組むアコムフラの作品は、ヴェネチア・ビエンナーレでも見る人を魅了するだろう」

2024年のヴェネチア・ビエンナーレは開幕まで1年半を切り、具体的な動きが出始めた。同ビエンナーレ初の南米出身ディクターに選ばれたのはアドリアーノ・ペドロサ。国別パビリオンでは、フランス代表のジュリアン・クルーゼ、スイス代表ゲレイロ・ド・ディヴィーノ・アモールなどのアーティストが発表されている。(翻訳:石井佳子)

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