バンクシーがDVに対する問題提起。バレンタインに発見された新作が伝える「影のパンデミック」
2月14日、イギリスのケント州にある海岸沿いの町マーゲイトで、バンクシーの新作壁画《Valentine’s Day Mascara》が発見された。そこには、あざのある頬、まぶたと唇が腫れ上がって歯が折れている1950年代の主婦風の女性が描かれている。
鮮やかなブルーのギンガムドレスを着て、エプロンをつけ、黄色のゴム手袋をはめた彼女は、ひっくり返された冷蔵庫とプラスチックの椅子の横で手を広げて立っている。どうやら、虐待した男性のパートナーを始末したようである。冷蔵庫からは男のズボンと靴下、黒いドレスシューズが突き出ているのが見える。
バンクシーがInstagramで作品を投稿した数時間後、地元作業員が冷蔵庫を撤去してしまった。それについて地区議会はオンラインで声明を発表し、「壁画は私有地の壁に描かれていたが、冷蔵庫は公共の場所にあり、安全上の理由から撤去した」と説明した。
また、「冷蔵庫は現在保管されており、安全が確認され次第返却される予定で、地区のために作品を保存するかは家の所有者に連絡を取って検討する」としている。
バンクシーはnstagramで1180万人のフォロワーを持っており、影響力のあるアーティストだ。
バンクシーの最新の壁画に描かれた家庭内虐待の問題は、いくつかの国がパンデミック時のステイホームによって、女性や子どもに対する暴力が急増したと報告したことから、世界的な問題となっている。2020年に国連が発表した概要では、カナダ、米国、ドイツ、スペイン、英国でDVの事例が増加し、緊急シェルターへの需要が高まっていることが明らかになった。
2021年11月に発表されたUN Womenの報告書では、「調査対象の女性の半数以上が、コロナ禍以降、自分または知り合いの女性が身体的暴力や言葉の暴力に遭ったと報告していることがわかった」とし、DVの増加を「影のパンデミック」と呼んでいる。
壁画を描いた場所にも理由があるようだ。イギリスのビジュアルアーティスト、トレーシー・エミンの自伝『Strangeland』には、彼女の幼少期における性的虐待の体験が記されており、その中で、マーゲイトの公園が登場する。
地元メディアIsle of Thanet Newsによると、バンクシーは2013年11月にマーゲイトを訪れた。公立遊園地のドリームランドを見学し、2015年には大型アートプロジェクト「ディズマランド」を制作した。イングランド南西部のサマセットにあるウェストン・スーパー・メアに出来た模擬テーマパークには、ダミアン・ハースト、ジェニー・ホルツァー、デイヴィッド・シュリグリーなど50人の国際的アーティストによる作品が展示された。(翻訳:編集部)
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