イタリア最古級の巨大彫刻はムッソリーニ時代の贋作? 科学調査をめぐり文化省と映画監督が法廷闘争
イタリアを代表する古代彫刻《カペストラーノの戦士》に、ムッソリーニ政権下でつくられた贋作疑惑が浮上。真贋をめぐる科学的調査の実施と結果公表をめぐり、文化省とドキュメンタリー映画監督の法廷闘争が続いている。
著名な古代彫刻のひとつである、《カペストラーノの戦士》をめぐる真贋論争が、新たな局面を迎えている。ベニート・ムッソリーニ率いるファシスト政権の支援を受けて制作された贋作だとする説が、科学的調査によって検証される可能性が出てきたのだ。イギリスのタイムズ紙が伝えた。
《カペストラーノの戦士》は、高さ2メートルを超える石灰岩製の像だ。つばの広い帽子をかぶり、砂時計のようにくびれた胴体の前で両腕を組んでおり、身につけた甲冑や武器には精巧な彫刻が施されている。
像が発見されたのは1934年。イタリア中部アブルッツォ州カペストラーノのブドウ畑で、農作業中の男性が偶然掘り当てた。同じ場所からは、古代都市アウフィヌムに由来するとみられる複数の遺物も出土している。以来、考古学者のあいだでは、ローマ支配以前に同地で暮らした古代イタリア系民族ウェスティニ人に関連する紀元前6世紀の遺物であり、先ローマ期のイタリアにおける最古級の大型彫刻と考えられてきた。
発見後、《カペストラーノの戦士》はアブルッツォの古代史を象徴する存在となり、その姿は土産物や切手、州の紋章にも用いられている。現在はキエーティのアブルッツォ国立考古学博物館に所蔵されている。
「歴史的発見はファシスト政権による捏造」
ところが、この像は、共通の歴史と軍事的強さの象徴によって国民をまとめようとしたムッソリーニ政権がプロパガンダのためにつくらせた贋作ではないかとの疑惑が持ち上がっている。この説を唱えているのが、アブルッツォ出身のドキュメンタリー映画監督で、ジャーナリスト、科学ライターでもあるアレッシオ・コンソルテだ。2023年には、この説を取り上げたドキュメンタリー映画『Il Guerriero mi pare strano(その戦士は奇妙だ)』を発表した。
映画では、バチカンの教皇庁キリスト教考古学研究所に所属していたイエズス会司祭の署名入り書簡などを根拠に、像の発見をめぐる複数の不審点を指摘している。

コンソルテによれば、この書簡は、ナポリの古美術商が像を制作し、発見者とされる農民と共謀して発掘を偽装したとする説を裏づけるものだという。また、石像は葬送用の仮面をつけているようにも見えるが、その顔はムッソリーニの肖像をモデルにしたものだとも主張している。さらに、計画に関与したとされる2人は、「考古学的発見」に対する報奨として、当時のファシスト政権から現在の価値で約1万7000ユーロ(約316万円)に相当する金銭を受け取ったという。
彼はタイムズ紙に、次のように語っている。
「なぜ現代のアブルッツォの人々が、偽物の戦士によって象徴されなければならないのでしょうか。子どもたちや大学で考古学を学ぶ学生が、本物ではない像を何年もかけて研究すべきなのでしょうか。それを教育と呼べるのでしょうか」
真相解明に立ちはだかる政府の壁
コンソルテは約3年にわたり、自己負担で像の真贋を調べる許可を求め、イタリア文化省を相手に法廷闘争を続けてきた。独立した科学者らの協力を得て、非破壊のX線装置を用いた調査を行う計画だ。
調査実現への壁となったのが、アブルッツォ州国立博物館局長のフェデリカ・ザラブラとイタリア文化省の連名による文書だった。文書では、同様の検査はすでに実施されているとして、新たな調査を正式に拒否していた。ところが、コンソルテが過去の検査結果の開示を求めたところ、裁判所が任命した特別委員は、該当する資料が博物館の記録に存在しないと結論づけた。
その後、行政裁判所がコンソルテ側に有利な判断を相次いで示したことを受け、文化省は2026年2月、ようやく検査を許可した。検査は、コンソルテやイタリア学術会議(CNR)の研究者を含む科学者チームが担当する。
だが同年5月、文化省から届いた調査許可契約には、ある条件が付されていた。コンソルテはUS版ARTnewsの取材に、次のように説明している。
「署名を求められた契約書には、厳格な守秘義務を課し、文化省の同意なしに結果を公表することを禁じる文書が添付されていました。さらに、名誉や信用の毀損、刑事訴追、損害賠償をめぐる民事責任に関する条項も盛り込まれていました」
これを受けてコンソルテは7月上旬、ペスカーラの地方行政裁判所に不服を申し立てた。文化省と、同博物館を管轄するアブルッツォ州国立博物館局に対し、調査結果の公表に政府の同意を必要とする条項の削除を求めている。
コンソルテはUS版ARTnewsに対し、この制約は「検閲の一形態であり、科学研究とその成果を公表する自由に反している」と批判。「私にとって科学的証拠は、自説にとって有利な結果であろうと不利な結果であろうと、受け入れるべきものです」と訴えた。不服申し立ての審理日程は、まだ決まっていない。
今後の調査がどのような結論をもたらすにせよ、つば広の帽子をかぶったこの戦士像が、イタリアの国立博物館に置かれる価値を失うことはないだろう。ただし、その意義は古代史を伝えるものから、激動に満ちたイタリアの近現代史を物語るものへと変わる可能性がある。(翻訳:編集部)
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