厳しさ増す中国の検閲──香港の大規模なLGBTQ+アート展から作品を撤去
「Myth Makers-Spectrosynthesis III」と題されたこの展覧会を企画したのは、香港の不動産デベロッパー、パトリック・サンがアジアのクィアアートを支援するために2014年に設立したサンプライド・ファウンデーションだ。今回の展覧会は「Spectrosynthesis」シリーズの第3弾として、香港のアートセンター、大館(タイクン)で開かれている。
撤去されたのは、台湾系アメリカ人アーティスト、シュー・リー・チェンが制作した「3x3x6」シリーズのミクストメディア・インスタレーションで、既存の性やジェンダーの慣行に従わない10人の服役囚のストーリーを映像で描いた作品。撤去された跡には、露骨な性的表現を拒絶するという内容の文書が掲示されている。この作品は、2019年のヴェネチア・ビエンナーレで、かつて監獄だったパラッツォ・デレ・プリジオーニを使って初公開された。
チェンは、1980年代からクィア映画の制作を続け、インターネットを利用したアートの境界を押し広げてきた。デジタルの世界で彼女の作品は、セクシュアル・ポリティクスや制度的抑圧といったテーマに光を当てている。それは、中国文化の本流にいては現実的に不可能なことだ。
チェンの一件に加え、同展に参加しているインド人アーティストの作品が、開幕前に改変されたとの情報も伝えられている。しかし、パトリック・サンはアートニュースペーパー紙の取材に答え、こうした検閲にもかかわらず、展覧会には「コミュニティからの多大な支持」があると語った。
「Spectrosynthesis」展の第1回は、2017年に台北現代美術館で開かれた。これは、アジアの主流派美術館として初の大規模なLGBTQ+アートの展覧会だった。
香港の展覧会からの作品撤去は、英ガーディアン紙や米ブルームバーグの報道、ワシントンを拠点とする非営利団体フリーダム・ハウス、ニューヨークのシンクタンク外交問題評議会のリポートによると、中国の特別行政区で検閲がエスカレートしていることの表れだという。
中国の一部にはゲイのアートシーンが存在しているが、国全体としては広く受け入れられていない。そのため、多くのアーティストは表立った活動ができないでいる。
たとえば、かつて上海で毎年開かれていたプライド・フェスティバルは、政府の妨害を受けて2020年以降中断されたままだ。アジア全域で見ても、シンガポールが最近、同性間の性行為を非犯罪化したものの、同性婚の禁止は継続する決定を下している。(翻訳:清水玲奈)
from ARTnews