アイ・ウェイウェイがモネの《睡蓮》を65万個のレゴで再現! 美しい池に投影された「地獄」の記憶
中国出身の現代アーティスト、アイ・ウェイウェイが異次元の「レゴアート」を作り上げた。65万個ものレゴブロックを用いてクロード・モネの《睡蓮》を再現した作品は、全長15メートルもの大作だ。
デンマークの玩具メーカー、レゴ社は、アンディ・ウォーホルの《マリリン》やヴィンセント・ファン・ゴッホの《星月夜》、葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》などが作れるレゴセットをアートファン向けに販売しているが、今回、アイ・ウェイウェイがレゴで再現したモネの絵は、これを巨大なスケールで発展させたものと言える。
アイが22色、65万個のレゴブロックで制作した《Water Lilies #1》のもとになった、印象派を代表するモネの三連画《睡蓮》(1914-26)は、現在ニューヨーク近代美術館(MoMA)で展示されている。
《Water Lilies #1》は、ロンドンで4月7日に開幕するデザイン・ミュージアムの展覧会、「Ai Weiwei: Making Sense」で初めて一般公開される。
同館のプレスリリースによると、この作品はアイがレゴで制作した中では最大で、展示室の壁一面を占めるほどの大きさ。モネの筆づかいの代わりに、ピクセルのようなレゴブロックという工業製品とその色彩を選んだことについて、アイは「現代生活の中心を占めているデジタル技術、そして現代社会でアートがどう広まっていくかを示すものだ」と述べている。
デザイン・ミュージアムでアシスタント・キュレーターを務めるレイチェル・ハジェクは、US版ARTnewsに、「この作品には、ひと言では言い表せない多層的な意味が込められています」と語った。
モネの《睡蓮》(1914-26)は、パリ近郊のジヴェルニーにある自邸の庭にある池の睡蓮を描いたものだ。自然の美しさを描いた作品として知られるが、池や庭はモネ本人が設計し、近くの川の水を引いて造成した人工的な構造物だとハジェクは説明する。
また、アイの《Water Lilies #1》には、右側に暗い部分がある。デザイン・ミュージアムによると、これは1960年代の文化大革命時に、新疆ウイグル自治区へ強制移住させられたアイと父親のアイ・チンが住んでいた砂漠の穴ぐらを表したもの。同ミュージアムの声明では、「親子が暮らした地獄のような場所が、水の楽園に穴を穿った」と述べられている。
「Ai Weiwei: Making Sense」展では、《Water Lilies #1》に加え、一般市民から寄付された1000個のレゴブロックで制作した《Untitled(Lego Incident)》も世界初公開される。これには、ある事件が関係している。アイは、2015年にメルボルンのビクトリア国立美術館での展覧会に向けて、反体制の政治活動家に関する新作に使う大量のブロックをレゴ社に発注。しかし、同社が販売を拒否したため、ブロックの寄付が集まった。BBCの報道によると、レゴ社は、政治的主張をする目的で製品を使用する人に直接販売したことはないと弁明した。
また、デザイン・ミュージアムの展覧会では、構築と脱構築をテーマに、アイがこれまでに制作した数多くのオブジェも出展される。その中には、ガラスで作った作業員用の安全帽や、ヒスイ製の斧の刃を素材に制作したアイフォンの彫刻など、便利な日用品を役に立たないが価値のある「日常的」なものに変えた作品もある。
圧巻なのは、サイトスペシフィックな大規模インスタレーションだ。ここでは、床に並べられた数十万個のオブジェが広大な4つの「フィールド」を形成している。
《Still Life》は、斧頭、ノミ、ナイフ、糸車など石器時代後期の道具1600点で構成され、初公開の《Left Right Studio Material》は、アイの北京のスタジオ、「Left Right」にあった数千個の磁器作品の破片を素材としている。なお、このスタジオは、2018年に中国政府によって取り壊された。
《Spouts》は、宋の時代(960〜1279年)の廃棄物である約20万個の磁器の注ぎ口を並べたもので、当時の中国における磁器生産の規模を表現。同じく宋代に高級磁器で作られた約10万個の球形弾からなる《Untitled(Porcelain Balls)》は、デザイン・ミュージアムでの展示のために制作された。
アイは2014年からレゴブロックを制作に使用し、政治犯の肖像画などを発表している。2017年、ワシントンD.C.のハーシュホーン博物館と彫刻の庭では、レゴを用いた176点の作品が出展された。
アイはワシントン・ポストに、「誰もが遊べるレゴのシンプルなところが気に入っている」と語っている。(翻訳:清水玲奈)
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