AIで検証、2500年前の墓は「没入型空間」だった? 光、音、香りで蘇る葬祭体験

古代エトルリアの墓で、壁画や光、音響が参列者の体験にどのような影響を与えていたのかを検証する研究が発表された。研究チームはAIや音響技術を用いて約2500年前の墓内環境を再現し、当時の葬送空間のあり方を分析している。

トンバ・デイ・デモニ・アッズッリ(青い悪魔の墓)と呼ばれる墓に描かれた蛇と悪魔のフレスコ画。Photo: De Agostini via Getty Images
トンバ・デイ・デモニ・アッズッリ(青い悪魔の墓)と呼ばれる墓に描かれた蛇と悪魔のフレスコ画。Photo: De Agostini via Getty Images

紀元前7世紀から紀元前1世紀頃にかけてイタリアのタルクィニアに造られたエトルリア人の墓は、色鮮やかな壁画と保存状態の良さで古くから高く評価されてきた。そして現在、考古学者たちは壁画そのものだけでなく、墓という空間が人々の感覚にどう作用していたのかにも目を向け、AIを活用して、当時の会葬者に視覚的・聴覚的な刺激がどのような効果をもたらしていたのかを調査している。

今回の調査対象となったのは、紀元前5世紀にタルクィニアに造られた、トンバ・デル・ガッロ(雄鶏の墓)とトンバ・デイ・デモニ・アッズッリ(青い悪魔の墓)と呼ばれる2つの墓だ。研究チームが音響科学とAIによる空間生成技術を用いて当時の墓内環境を再現したところ、これらの墓は単に死者を追悼する場ではなく、そこを訪れた人々の感覚や感情に働きかける空間だった可能性が浮かび上がった。

デューク大学のマウリツィオ・フォルテとオックスフォード大学のジャクリーン・オルトレヴァは、学術誌『Journal of Archaeological Method and Theory』に発表した共同論文で、こうした墓が「身体的、感情的な反応を引き起こすよう設計されていた」可能性を指摘している

この仮説を検証するため、フォルテとオルトレヴァは、墓が造られた当時の音響環境と内部空間の再現を試みた。音響調査では、複数の場所から手を叩く音を流し、墓の内部でどのように反響するかを測定。またAIを用いて、松明に照らされた墓内が当時の人々にどのように見えていたのかを再現するとともに、人々が内部をどのように移動したのかを分析した。調査結果について二人はこう記している。

「墓へと続くドロモスと呼ばれる通路は、奥へ進むにつれて狭まり、下へと傾斜することで、玄室へ入る人の身体を自然に導く移行空間となっていました。墓に描かれた図像も、単なる記念碑的な装飾ではなく、その場にいる人々の感覚に働きかけていたと考えられます。たとえば、松明の炎が壁に描かれた踊り子たちを照らせば、人物が動いているかのように見えたかもしれません。香や供物の匂いはそこに嗅覚的な体験を加え、さらに哀歌や音楽、供物を運ぶ人々が立てる音が響くことで、現代の私たちが『没入型環境』と呼ぶような空間が生まれていたのです」

フォルテとオルトレヴァによると、2つの墓はほぼ同時期に造られたものの、訪れた人々に異なる感覚をもたらしていた可能性がある。雄鶏の墓では比較的穏やかな体験が生まれていたとみられる一方、青い悪魔の墓では、身体から切り離されたような感覚や方向感覚の喪失が生じていた可能性がある。ただし、こうした効果を建設者が意図的に設計したのか、それとも空間の構造や素材から自然に生まれたものなのかは分からないと二人は記している。

一方、研究チームは、こうした感覚的な効果が意図的なものだった可能性について、さらに検討する必要があるとしている。そのうえで二人は、この研究がエトルリアの墓にとどまらず、古代の葬祭建築そのものを捉え直すきっかけになり得ると指摘し、次のように締めくくっている。

「今回の研究が投げかける問いは、タルクィニアだけにとどまりません。もしエトルリアの葬祭建築を手がけた人々が、墓内の空間構成や壁画、音響によって人々の体験を意図的に設計していたのだとすれば、古代地中海、さらにはその外側の地域も含め、『葬祭建築』というカテゴリーそのものを見直す必要があります」

(翻訳:編集部)

from ARTnews

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