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暴走ロールスロイスが4億円のダミアン・ハースト作品に激突。所有者は有名コレクター

何かと物議を醸すアーティスト、ダミアン・ハーストの作品が、いつもとはちょっと違う騒動に巻き込まれた。著名なアートコレクター宅の敷地内をロールスロイスが暴走し、彼の作品に突っ込んだのだ。パームビーチ・デイリー・ニュースが第一報を伝えた。

ロールスロイスに激突される前のダミアン・ハーストの《Sphinx》。横に立つのは、ヴェネツィアのパラッツォ・グラッシとプンタ・デラ・ドガーナの前館長、マルタン・ベテノッド。Photo: Miguel Medina/AFP via Getty Images

警察の報告書によると、3月31日に66歳の女性が運転する紺色とグレーのロールスロイスが、フロリダ州パームビーチのカンタベリー通り沿いにある邸宅の私道に乗り入れた。縁石にぶつかったものの、そのまま敷地内を走り続け「サンゴの彫刻」に衝突した後、庭の欄干を突き破ってビーチに突っ込んだという。

パームビーチのカンタベリー通り102番地の私有地を通り抜け、ビーチに突っ込んだロールスロイス。Photo: Courtesy of Palm Beach Police

被害を受けたのは、ハーストの《Sphinx》(2017)という彫刻だ。難破船から引き揚げられた2000年前の宝物という設定で作られたシリーズ作品のうちの1つで、フジツボやサンゴが付着したような演出が施されている。

この作品を含む「Treasures from the Wreck of the Unbelievable(難破船アンビリーバブル号の宝物)」シリーズは、2017年のヴェネチア・ビエンナーレで発表された。会場となったのは、フランスの大物コレクターで、グッチバレンシアガなどを傘下に収めるケリングの会長兼CEO、フランソワ・ピノーが所有する宮殿のような展示施設、パラッツォ・グラッシとプンタ・デラ・ドガーナだ。だがこの展覧会の評判は散々で、US版ARTnewsも「この10年間に開催された現代アート展の中で最悪なものの1つ」と評している

不動産サイトに記載されている情報によると、フロリダ州パームビーチのカンタベリー通りにある邸宅の所有者は、US版ARTnewsのトップ200コレクターズにランクインしている著名なコレクター、スティーブン・タナンバウムとリサ・タナンバウム。約5500平方メートルの敷地に建ち、5ベッドルーム、8バスルームを有する邸宅の現在の評価額は5080万ドル(約68億円)だが、2011年にカナダのメディア王イジー・アスパーの家族から購入したときは2640万ドル(約35億円)だった。

ちなみに、プエルトリコに大規模な投資を行っているスティーブン・タナンバウムの資産運用会社が、ハリケーンで大きな被害を受けた後も当地の人々の負債を帳消しにしないことを非難するデモ隊が、彼が理事を務めるニューヨーク近代美術館(MoMA)で抗議活動を展開するという問題が近年発生している。

タナンバウム夫妻宅の敷地にロールスロイスが突っ込んで破壊された、ダミアン・ハーストの作品《Sphinx》。Photo: Courtesy of Palm Beach Police

パームビーチ警察が撮影した写真を見ると、ハーストの彫刻は台座から落下し、ヴェネチア・ビエンナーレでの展示と見比べると色のついた部分が少なくなっているようだ。リサ・タナンバウムが警察に語ったところによると、彫刻の価値は約300万ドル(約4億円)で、「正確な損害額を明らかにするためには、専門家に評価してもらう必要がある」という。

タナンバウム夫妻には、これまでにもアート作品に関する訴訟の経験がある。ジェフ・クーンズが手掛けた3点の彫刻が納品されないとして、2020年にスティーブン・タナンバウムがメガキャラリーのガゴシアンを訴えたものの、結局は和解に至っている。その条件は明らかにされていないが、すべての請求と反訴は棄却された。(翻訳:野澤朋代)

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