「個」は自立した存在ではない──「ケア」がテーマの美術展が問う、社会や美術館のあり方

現代美術作家15組の作品を手がかりに「ケア」を考える展覧会「ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術」が、2023年5月7日(日)まで水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中だ。同展のキュレーターを務めた学芸員の後藤桜子に、「ケア」を題材とした展覧会に込めた想いと、ケアを担うアーティストたちのために美術館やアート界が出来ることについて聞いた。

展示の冒頭に掲げられているミエレル・レーダーマン・ユケレスの作品《メンテナンスアートのためのマニフェスト、1969!》(今展のための複製)。

「Care」という英単語の意味を辞書で引くと、心配・注意・配慮・手入れ・世話・保護というような言葉が並ぶ。つまり「ケア」とは「利他」の行為なのだが、そこには配慮や気遣いなどの精神的なものから、家事育児や看護、介護といった実働を伴うものまでが広く含まれ、その意味で、人は誰もが誰かを「ケア」したり「ケア」したりした経験をもつと言えるだろう。

「ケアする/される」ことは、すべての社会構成員にとって必要不可欠だ。それにもかかわらず、わたしたちはその大半を「家族制度」のもと「家族」という単位あるいは空間に負託してきた。そしてその「家族」を切り盛りしてきたのは、多くの場合、母であり、女性たちである。そうしてケアは、与え/与えられて当然のものとして受け取られ、見えないものにされてきた。

そんな、どこか他人事で閉じたものとして捉えられるケアをめぐる不均衡に、現代美術作家15組の作品を手がかりに疑問を投げかけるのが、水戸芸術館現代美術ギャラリーの「ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術―いつ・どこで・だれに・だれが・なぜ・どのように?―」だ。

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