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カンディンスキーの重要作品がドイツ系ユダヤ人の一族に返還、約59億円の落札予想でオークションへ

サザビーズが、来月ロンドンで行われるオークションに先立ち、ヴァシリー・カンディンスキーによる初期の抽象画を公開した。この絵は最近、ドイツ系ユダヤ人の元所有者に返還されたものだ。

ヴァシリー・カンディシンキー《教会のあるムルナウの眺め II》(1910) Photo: Courtesy Sotheby's

2月8日に公開された作品は、サザビーズが3月1日に開催する印象派・モダンアートのイブニングセールで、約4500万ドル(約59億円)の値がつくと予想されている。

ロシア生まれのヴァシリー・カンディンスキーが、この大型抽象画《教会のあるムルナウの眺め II》を制作したのは1910年。この頃は、抽象画の先駆者であるカンディンスキーにとって非常に重要な時期だと専門家は考えている。

《教会のあるムルナウの眺め II》は最近、元の持ち主であるヨハンナ・マルガレーテ・シュテルンとジークベルト・サミュエル・シュテルン夫妻の子孫に返還された。ベルリンで繊維会社を経営していたジークベルトは現代アートのコレクターだったが、そのコレクションは、1930年代にナチスの迫害から逃れようとした際に散逸してしまった。ジークベルトは1935年に亡くなり、ヨハンナは1944年にアウシュビッツで大量虐殺の犠牲になっている。

シュテルン家の子孫は、作品の返還は一家が受けた苦しみを認めたものとして「非常に大きな意義がある」とサザビーズによる声明の中で述べている。

この絵がオランダ・アイントホーフェンのファン・アッベ美術館にあることを、研究者が見つけたのは約10年前のことだ。1951年から同美術館の所蔵品になっていた作品は、6年にわたる係争の末にシュテルン夫妻の子孫の法的所有権が認められ、2022年9月に返還された。

オークションの売上金はシュテルン家の13人の子孫に分配され、サザビーズの発表によると、一族の他のコレクションに関する研究資金に充てられるという。

この作品が予想最低落札価格の4500万ドル(約59億円)に達すれば、カンディンスキー作品のオークションレコードになる。これまでの落札最高額は、2017年にロンドンのサザビーズで落札された《Painting with White Lines》(1913)の4100万ドルだった。(翻訳:石井佳子)

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