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テンション低く、史上最低額も更新。フィリップス・ロンドンのイブニングセール、不振に終わる

6月30日、ロンドンフィリップスで「20世紀から現在へ」と名付けられたオークションが開催された。だが、フィリップスが新設したこのイブニングセールは出品取り下げや不落札が目立ち、売上総額は900万ポンド(約16億5000万円)と、パッとしない結果に終わっている。

「20世紀から現在へ」と名付けられたフィリップスのセールで壇上に立つオークショニアのヘンリー・ハイリー(2023年6月30日撮影)。Photo: Courtesy Phillips

フィリップスのセールに先立ち、同週には世界2大オークションハウスのクリスティーズサザビーズロンドンで20世紀・21世紀美術のオークションを開催した。総売上は、それぞれ6380万ポンド(約117億円)と1億9900万ポンド(約364億円)で、フィリップスをはるかに上回る。特にサザビーズでは、10分にわたる入札合戦の末に落札されたグスタフ・クリムトの《扇を持つ貴婦人》(1917-18)が、8530万ポンド(約156億円、手数料込み)で欧州の美術品オークション史上最高額を塗り替え、売上を後押しした。

しかしフィリップスのセールは、こうした盛り上がりに欠けるものだった。ロット番号15、エミリー・メイ・スミスの《Raft on a Siren Sea》(2017)が、事前に設定された最低売却価格に届かず不落札となったのをはじめ、合計111ロット中、18ロットが不落札となったため、成立割合は84%にとどまった。ちなみに、当初は全116ロットの予定だったが、セールが始まる前に4ロット、セール中に1ロットが取り下げられている。

不落札になった中には、アンディ・ウォーホルバンクシー草間彌生といったビッグネームの作品も含まれる。ルーチョ・フォンタナの《Conquetto spaziale》(1966-67)、ショーン・スカリーの《Wall Yellow Pale》(2016)、エリザベス・ペイトンの《Prince Harry, September 1998》(1998)といった注目作品の落札額も、予想最低落札額を下回った。

エリザベス・ペイトン《Prince Harry, September 1998》(1998) Photo: Courtesy Phillips

今回のセールで特に目を引いたのは、今年2月に他界したアメリカ・ニューオーリンズの弁護士で、アートコレクターでもあったトーマス・B・レマンのコレクションから出品された作品群。20点以上の彫刻からなるレマン・コレクションが注目されたのは、大半の作品がリザーブ・プライス(*1)なしで出品されたからだ。そのため、こうしたイブニングセールではめったに見られない出来事が相次ぎ、いくつかの作品は予想落札額を大きく下回った。


*1 リザーブ・プライス(最低売却価格)とは、ある一定の価格に達しなかったら作品を売らないという価格。事前に出品者が設定する。

オークショニアのルイーズ・シンプソンが壇上に立ち、レマン・コレクションの競売が始まると、セール前半の冷ややかな雰囲気から一転、激しい競争になった作品もあり、入札が活気づいた。たとえば、タンクレディ・パルメジャーニの油彩画《Quando Il Sole E' Colorato》(1958)には入札が殺到。2人のイタリア人入札者が1分以上オンラインで競り合った末、9万5000ポンド(約1700万円)、手数料込みで12万650ポンド(約2200万円)で落札された。

しかし、レマン・コレクションも半ばを過ぎ、バーナード・メドウズの《Seated Armed Figure》(1962)が出品されたときには、会場も電話も静まり返り、オンライン入札用の画面には何も表示されなくなった。ロット番号78のこのメドウズ作品の予想落札額は、8000~1万2000ポンド(約146万~約220万円)。入札が4000ポンドから始まると、しばらくの間、オークショニアのシンプソンの声だけが会場に響いた。価格が2000ポンドに下げられた後も入札はなく、シンプソンがさらに1000ポンドまで下げると、スイスのオンライン入札者が1100ポンドを提示。さらにドイツとロンドンからも入札があり、最終的に1700ポンド(約31万円、手数料を含めて約40万円)で落札された。

ルーチョ・フォンタナ《Conquetto spaziale》(1966-67) Photo: Courtesy Phillips

同じような経過はほかにも数回あったが、特に衝撃的だったのはメドウズによる1962年の2つの作品、《Drawing for Sculpture (Fat Seated Figure)》と《Drawing for Sculpture (Armed Bust Version 2)》だ。予想落札額は700~1000ポンド(約12万8000~18万3000円)だったが、入札は350ポンドで始まり、50ポンドまで下がった後、会場の入札者に100ポンド(約1万8000円)で落札されている。

この2枚のドローイングは、欧州における最高落札額を樹立したクリムトの《扇を持つ貴婦人》に対し、安値の新記録となる文字通りのアンチテーゼと言えるのかもしれない。

レマン・コレクションの後、オークションはいつもの雰囲気に戻ったが、最後の30ほどのロットでは不落札や低額入札が相次いだ。しかし、最後のロットは再び盛り上がり、アルバート・ウィレムの《All In All Not Bad For His First Attempt》(2021)をめぐる入札合戦で値が吊り上がった。予想落札価格は10,000~15,000ポンド(約183万~276万円)程度だったが、ポーランドとフランスのオンライン入札者を筆頭に、3分間にわたって激しい競りが繰り広げられた末、18万ポンド(約3300万円、手数料込みで約4200万円)という高値で落札されている。(翻訳:石井佳子)

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