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フリーズの戦略は? ニューヨークのアーモリーショーとエキスポ・シカゴ買収の意図

ロンドンニューヨークロサンゼルスソウルで国際的アートフェアを運営するフリーズが、アメリカ国内の主要なアートフェア、ニューヨークのアーモリーショーとエキスポ・シカゴを買収すると発表 。フリーズの戦略とその背景を取材した。

2022年に第1回フリーズ・ソウルを開催したフリーズのサイモン・フォックスCEO。Photo: Justin Shin/GA/ARTnews via Getty Images

ニューヨークとシカゴのフェアを傘下に取り込む

フリーズのサイモン・フォックスCEOはUS版ARTnewsに対し、「まず言いたいのは、アメリカは世界最大のアート市場であるということです」と口を開いた。

ニューヨークのような重要なマーケットで、これまでとは異なる時期に大規模なフェアを開催できるのは、私たちにとって大きな喜びです。(中略)また、シカゴには新たな挑戦のチャンスがあります。(中略)今後、豊かな文化資本のあるシカゴの市場に関わることができるようになるからです」

アーモリーショーはエグゼクティブ・ディレクターのニコール・ベリーが、エキスポ・シカゴは創設者でもあるトニー・カーマン社長が続投し、それぞれフリーズ傘下の独立部門として既存のチームで運営する。一方、スポンサーシップ、財務、法務、人事、デジタルなどの業務は、フリーズとして統合的に行うという。なお、フォックスは、両アートフェアの買収交渉がいつから行われていたかについては公表しない方針であるとしている。

アーモリーショーの買収によって、フリーズ・ニューヨークの位置付けが難しくなるようにも思える。これに対しフォックスは、フリーズ・ニューヨークを「小規模ではあるが、フリーズの中で最も成功しているフェアで、多くの人に愛されている」とし、アーモリーショーと補完し合うフェアとして運営を続けると語った。ちなみに、アーモリーショーの会場(ジャヴィッツ・コンベンション・センター)と、フリーズ・ニューヨークの会場(ハドソンヤードのシェッド)は、マンハッタンのミッドタウン西側の同じ界隈にある。

「2つのアートフェアは入場者層も歴史も異なります。フリーズは新しい市場において、さらに大きな役割を果たすことができるでしょう。先ほど述べたように、アメリカ市場は巨大ですし、両フェアはこれまでも良好な状態で共存できています。私たちは、アーモリーショーをさらに強化できると考えています」

ただ、アーモリーショーは2021年に開催時期を5月から9月に移動したため、フリーズ・ソウルと同じ週に日程が重なるという問題がある。これについてフォックスは、「理想的な状況でないのは確かです」と答えた。「しかし、日程の移動も一筋縄ではいきません。フリーズ・ソウルもアーモリーショーも、年間スケジュールがほぼ埋まっているコンベンションセンターで開催されます。今後は、どうにか日程を少しずらして、重複を避けたいと考えています。すぐに実現できることではありませんが」

アーモリーショーとエキスポ・シカゴの歴史

フリーズが新たに買収したアーモリーショーとエキスポ・シカゴは、アメリカのアートフェアの中でも有数の長い歴史を誇る。

エキスポ・シカゴのルーツは、その前身であるアート・シカゴが設立された1980年にさかのぼる。それ以来数十年、国内最高峰のアートフェアとされてきたが、次第に運営難・財政難に悩まされるようになり、2011年に開催を中止。その後、アート・シカゴが築いてきた土台を受け継ぎつつ、別事業としてエキスポ・シカゴが創設され、2012年に第1回を開催している。

2022年のアーモリーショー会場風景。Photo Credit Vincent Tullo courtesy The Armory Show

アーモリーショーは、アート・シカゴのようなイベントをニューヨークでも開きたいと考えたニューヨークのギャラリー数社が集まって、1994年に創設された。当初はグラマシー・パーク・ホテルを会場とし、グラマシー・インターナショナル・アートフェアと呼ばれていた。1999年、会場を近くの第69連隊の武器庫(アーモリー)に移転し、その際に名称をアーモリーショーに変更している。この場所では、1913年にもアーモリーショーという名で大規模な展覧会が開かれた。同展は、ヨーロッパのモダニズムをアメリカに広める端緒となった、アメリカ美術史に残る象徴的なイベントとされている。

しかし、この2つのフェアの規模や内容は、2004年に始まったアート・バーゼル・マイアミ・ビーチの後塵を拝していると言わざるをえない。2023年6月に10回目の開催となったエキスポ・シカゴに出展したのは170社強。9月上旬のアーモリーショーには225社以上が参加する予定だが、毎年12月に開催されるアート・バーゼル・マイアミ・ビーチでは、2022年に283ギャラリーが参加している。なお、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチのフェアディレクターのポストは現在空席で、今年の出展者リストはまだ発表されていない。

アーモリーショーとエキスポ・シカゴは、ともに著名なギャラリーを集めてはいるが、2023年の開催では4大ギャラリー(ガゴシアンハウザー&ワースペースデイヴィッド・ツヴィルナー)は不参加だ。ただ、フリーズの傘下となったことで、今後、状況が変わるかもしれない。

アート・バーゼルとの違いはどこにあるのか

2019年にフリーズ・ロサンゼルスが創設されて以降、フリーズもアート・バーゼルも拡大路線を走っている。フリーズの拡大戦略は、コロナ禍で若干の影響を受けたものの、2021年5月には成長著しいアジアのアート市場で、フリーズ・ソウルを立ち上げると発表した。

アート・バーゼルは2007年に設立されたアート香港を買収し、2013年にアート・バーゼル香港を開始して以来、バーゼル、マイアミ・ビーチ、香港の毎年3回のアートフェアを開催してきた。そして2022年1月、長年にわたりフランス系のアートフェアFIACが会場として使っていた10月のグラン・パレで、フェアを開催する権利を獲得。新たに「Paris+, par Art Basel(アート・バーゼルによるパリ+)」が加わった。

フリーズは、2016年にアメリカの大手スポーツ・エンタテインメント企業、エンデヴァーに買収されている。同社のアリ・エマニュエルCEO(駐日アメリカ大使ラーム・エマニュエルの弟)は、2022年10月に米ヴァニティ・フェア誌のコラムニスト、ネイト・フリーマンのインタビューで、「フリーズ・ロサンゼルスはアート・バーゼル・マイアミ・ビーチを超える可能性がある」との見解を示し、こう付け加えた。

「アート・バーゼルをバッシングするわけではないが、香港進出はミスだったと思います。一方、フリーズの韓国進出は正解だったし、ロサンゼルスも正解です。また、マイアミは商業的になりすぎました。今や、ただ金もうけがしたい人たちの集まりに思えます。我われがやりたいのは、そういうことではありません」

フォックスは、フリーズの競合に関するコメントは避けたが、フリーズが他と異なるのは「単なるアートフェア運営会社ではない」という位置付けにあるという。その理由としてフォックスは、アートマガジン「FRIEZE(フリーズ)」がルーツであること、近年は常設ギャラリー「No.9 コーク・ストリート」や、会員制プログラムの「フリーズ91」を運営していることを挙げている。

「フリーズは、すべての部門で成長と革新を遂げてきました。単にアートフェアの運営者としてではなく、フリーズという組織全体として考えると、将来もさらに成長する機会が数多くあるのです」(翻訳:清水玲奈)

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